44 / 74
第五章 王都
01 王都で
しおりを挟む
「何があった」
ミリオネアから戻ると、至急、王都に戻るよう知らせが入っていた。
急いでドロテアの転移門から王都のウエストリア屋敷に戻って来たかと思えば、兄が危険な状態だと聞かされる。
「申し訳ございません」
「そんな事はどうでもいい、なぜ兄上がこんな事になっている」
兄の下で働いていた者達は、呆然としている状態で、何があったのか話す事も出来なくなっている。
「ウルフ、、、私から話しましょう」
「義姉上、、、大丈夫ですか?」
「問題ありません」
兄の側にいる義姉は、酷く顔色が悪く疲れて見えるが、兄に付いていた部下から詳しい話が聞けない以上、義姉から事情を聞くしかない。
「イズル陛下が皇太子であるタリム様より、弟のイスハ様に後を継がせようとしていた事は知っていますか?」
「陛下がと言うより、エレノア后妃がと聞いていました」
「ここ数か月、陛下は后妃様の言うなりでしたから」
「それ程、愚かな方だとは聞いていませんでしたが、、、」
「そうですね、セスもずっとそう言っていました。只、本当にここ数カ月は人が変わったようで、心配はしていたの」
「それで?」
「先日、建国を祝う舞踏会で、タリム皇太子に陛下から祝いの盃が贈られました」
「盃に毒が入っていたと」
「えぇ」
「兄上が、代わりに盃を受けたのですか?」
「そうです」
本来なら皇太子に下された盃を臣下が受ける事などあり得ないが、兄なら上手くその場を収める事も出来たのだろう。
それに兄上ぐらい強い魔力があれば、毒に命を脅かされる事などあり得ないのに、二日経っても、未だに兄の状態は改善していない。
「薬師は何と言っているのです」
「よく分からないと」
「癒しの使い手は?」
「セスの身体の中に何か黒い気持ちの悪い物があって、彼の命を奪おうとしていると」
「使い手の力でもどうにもならないという事ですか?」
「えぇ」
緑色の瞳を持つ者は、癒しの魔力を持っている。
受けた傷を無かった事にするような力では無いが、本人の持っている治癒力を高め、身体を回復させる力を持つ。
「その気持ちの悪いものを少しでも抑えるように、出来れば消す事が出来ないか、癒しの使い手には聞いてみて欲しい」
義姉の侍女に告げて、兄上の所に戻す。
“癒しの使い手”には兄を続けて診て貰うしかない。
「それで、義姉上は、本当は何があったと思われているのです」
陛下の様子が変だったとしても、陛下や后妃が、兄が飲んだ妙な毒を作れる筈がない。
彼らの周りにその様な毒を作るか、もしくは扱う人間がいた事になる。
「ゾルド教の事を聞いていますか?」
「兄上から、最近、王都で見かけるようになった帝国の宗教だと聞いています」
「王宮では一年くらい前から見かけるようになっていました」
「つまり、市民から広がったものでは無く、王室から広がった宗教と言う事ですね」
「おそらく、、、それに王宮でも本当に一部の人達の間でしたから、、、それ程気にはしていなかったのです」
「それで?」
「セスは陛下が変わられたのは、彼らに関係があるのでは無いかと言っていました」
「ゾルド教に、ですか?」
「憶測です、詳しい事は何も分かってはいません。只、ゾルド教の教祖はおかしな術を使うとも言われていますから」
「そう言えば、帝国でもそんな話は聞きました、妙な薬を使うので、ゾルド教を破門になった主教がいたと」
「ウルフ、、、」
「彼らを捕らえてみれば分かる事です、私が動きますので義姉上は兄上の側にいて下さい」
「えぇ、よろしくお願いします」
義姉上の側を離れ、兄の使っていた執務室に行きながら呟く。
『くそ、こんな事ならもう少し帝国内を探っておけば良かった』
せめて帝国で破門になった主教がどんな薬や術を使うのか、知っていればもう少しなんとかなったはずだ。
だがウルフレッド達がいた頃、帝国内の内乱が酷くなり、このままだと隣国サルストールにまで影響を及ぼす様な状態だった。
そうなるとエルメニアに帰れなくなる可能性があったので、結局、帝国の中心まで行く事を諦めて戻る事になった。
『まぁ、今さら何を考えても仕方がない』
気になるなら直接本人から聞けばいい。
どれだけ時間がかかっても、兄上を傷つけた相手を逃がすつもりは無いのだから、相手を捕まえてから確かめればいい。
ミリオネアから戻ると、至急、王都に戻るよう知らせが入っていた。
急いでドロテアの転移門から王都のウエストリア屋敷に戻って来たかと思えば、兄が危険な状態だと聞かされる。
「申し訳ございません」
「そんな事はどうでもいい、なぜ兄上がこんな事になっている」
兄の下で働いていた者達は、呆然としている状態で、何があったのか話す事も出来なくなっている。
「ウルフ、、、私から話しましょう」
「義姉上、、、大丈夫ですか?」
「問題ありません」
兄の側にいる義姉は、酷く顔色が悪く疲れて見えるが、兄に付いていた部下から詳しい話が聞けない以上、義姉から事情を聞くしかない。
「イズル陛下が皇太子であるタリム様より、弟のイスハ様に後を継がせようとしていた事は知っていますか?」
「陛下がと言うより、エレノア后妃がと聞いていました」
「ここ数か月、陛下は后妃様の言うなりでしたから」
「それ程、愚かな方だとは聞いていませんでしたが、、、」
「そうですね、セスもずっとそう言っていました。只、本当にここ数カ月は人が変わったようで、心配はしていたの」
「それで?」
「先日、建国を祝う舞踏会で、タリム皇太子に陛下から祝いの盃が贈られました」
「盃に毒が入っていたと」
「えぇ」
「兄上が、代わりに盃を受けたのですか?」
「そうです」
本来なら皇太子に下された盃を臣下が受ける事などあり得ないが、兄なら上手くその場を収める事も出来たのだろう。
それに兄上ぐらい強い魔力があれば、毒に命を脅かされる事などあり得ないのに、二日経っても、未だに兄の状態は改善していない。
「薬師は何と言っているのです」
「よく分からないと」
「癒しの使い手は?」
「セスの身体の中に何か黒い気持ちの悪い物があって、彼の命を奪おうとしていると」
「使い手の力でもどうにもならないという事ですか?」
「えぇ」
緑色の瞳を持つ者は、癒しの魔力を持っている。
受けた傷を無かった事にするような力では無いが、本人の持っている治癒力を高め、身体を回復させる力を持つ。
「その気持ちの悪いものを少しでも抑えるように、出来れば消す事が出来ないか、癒しの使い手には聞いてみて欲しい」
義姉の侍女に告げて、兄上の所に戻す。
“癒しの使い手”には兄を続けて診て貰うしかない。
「それで、義姉上は、本当は何があったと思われているのです」
陛下の様子が変だったとしても、陛下や后妃が、兄が飲んだ妙な毒を作れる筈がない。
彼らの周りにその様な毒を作るか、もしくは扱う人間がいた事になる。
「ゾルド教の事を聞いていますか?」
「兄上から、最近、王都で見かけるようになった帝国の宗教だと聞いています」
「王宮では一年くらい前から見かけるようになっていました」
「つまり、市民から広がったものでは無く、王室から広がった宗教と言う事ですね」
「おそらく、、、それに王宮でも本当に一部の人達の間でしたから、、、それ程気にはしていなかったのです」
「それで?」
「セスは陛下が変わられたのは、彼らに関係があるのでは無いかと言っていました」
「ゾルド教に、ですか?」
「憶測です、詳しい事は何も分かってはいません。只、ゾルド教の教祖はおかしな術を使うとも言われていますから」
「そう言えば、帝国でもそんな話は聞きました、妙な薬を使うので、ゾルド教を破門になった主教がいたと」
「ウルフ、、、」
「彼らを捕らえてみれば分かる事です、私が動きますので義姉上は兄上の側にいて下さい」
「えぇ、よろしくお願いします」
義姉上の側を離れ、兄の使っていた執務室に行きながら呟く。
『くそ、こんな事ならもう少し帝国内を探っておけば良かった』
せめて帝国で破門になった主教がどんな薬や術を使うのか、知っていればもう少しなんとかなったはずだ。
だがウルフレッド達がいた頃、帝国内の内乱が酷くなり、このままだと隣国サルストールにまで影響を及ぼす様な状態だった。
そうなるとエルメニアに帰れなくなる可能性があったので、結局、帝国の中心まで行く事を諦めて戻る事になった。
『まぁ、今さら何を考えても仕方がない』
気になるなら直接本人から聞けばいい。
どれだけ時間がかかっても、兄上を傷つけた相手を逃がすつもりは無いのだから、相手を捕まえてから確かめればいい。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる