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第五章 王都

01 王都で

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「何があった」

 ミリオネアから戻ると、至急、王都に戻るよう知らせが入っていた。
 急いでドロテアの転移門から王都のウエストリア屋敷に戻って来たかと思えば、兄が危険な状態だと聞かされる。

「申し訳ございません」
「そんな事はどうでもいい、なぜ兄上がこんな事になっている」

 兄の下で働いていた者達は、呆然としている状態で、何があったのか話す事も出来なくなっている。

「ウルフ、、、私から話しましょう」
「義姉上、、、大丈夫ですか?」
「問題ありません」

 兄の側にいる義姉は、酷く顔色が悪く疲れて見えるが、兄に付いていた部下から詳しい話が聞けない以上、義姉から事情を聞くしかない。

「イズル陛下が皇太子であるタリム様より、弟のイスハ様に後を継がせようとしていた事は知っていますか?」
「陛下と言うより、エレノア后妃がと聞いていました」

「ここ数か月、陛下は后妃様の言うなりでしたから」
「それ程、愚かな方だとは聞いていませんでしたが、、、」

「そうですね、セスもずっとそう言っていました。只、本当にここ数カ月は人が変わったようで、心配はしていたの」
「それで?」

「先日、建国を祝う舞踏会で、タリム皇太子に陛下から祝いの盃が贈られました」
「盃に毒が入っていたと」
「えぇ」

「兄上が、代わりに盃を受けたのですか?」
「そうです」

 本来なら皇太子に下された盃を臣下が受ける事などあり得ないが、兄なら上手くその場を収める事も出来たのだろう。
 
 それに兄上ぐらい強い魔力があれば、毒に命を脅かされる事などあり得ないのに、二日経っても、未だに兄の状態は改善していない。

「薬師は何と言っているのです」
「よく分からないと」

「癒しの使い手は?」
「セスの身体の中に何か黒い気持ちの悪い物があって、彼の命を奪おうとしていると」

「使い手の力でもどうにもならないという事ですか?」
「えぇ」

 緑色の瞳を持つ者は、癒しの魔力を持っている。
 受けた傷を無かった事にするような力では無いが、本人の持っている治癒力を高め、身体を回復させる力を持つ。

「その気持ちの悪いものを少しでも抑えるように、出来れば消す事が出来ないか、癒しの使い手には聞いてみて欲しい」

 義姉の侍女に告げて、兄上の所に戻す。
 “癒しの使い手”には兄を続けて診て貰うしかない。

「それで、義姉上は、本当は何があったと思われているのです」

 陛下の様子が変だったとしても、陛下や后妃が、兄が飲んだ妙な毒を作れる筈がない。
 彼らの周りにその様な毒を作るか、もしくは扱う人間がいた事になる。

「ゾルド教の事を聞いていますか?」
「兄上から、最近、王都で見かけるようになった帝国の宗教だと聞いています」
「王宮では一年くらい前から見かけるようになっていました」

「つまり、市民から広がったものでは無く、王室から広がった宗教と言う事ですね」
「おそらく、、、それに王宮でも本当に一部の人達の間でしたから、、、それ程気にはしていなかったのです」
「それで?」

「セスは陛下が変わられたのは、彼らに関係があるのでは無いかと言っていました」
「ゾルド教に、ですか?」

「憶測です、詳しい事は何も分かってはいません。只、ゾルド教の教祖はおかしな術を使うとも言われていますから」
「そう言えば、帝国でもそんな話は聞きました、妙な薬を使うので、ゾルド教を破門になった主教がいたと」

「ウルフ、、、」
「彼らを捕らえてみれば分かる事です、私が動きますので義姉上は兄上の側にいて下さい」
「えぇ、よろしくお願いします」

 義姉上の側を離れ、兄の使っていた執務室に行きながら呟く。

『くそ、こんな事ならもう少し帝国内を探っておけば良かった』

 せめて帝国で破門になった主教がどんな薬や術を使うのか、知っていればもう少しなんとかなったはずだ。

 だがウルフレッド達がいた頃、帝国内の内乱が酷くなり、このままだと隣国サルストールにまで影響を及ぼす様な状態だった。
 そうなるとエルメニアに帰れなくなる可能性があったので、結局、帝国の中心まで行く事を諦めて戻る事になった。

『まぁ、今さら何を考えても仕方がない』

 気になるなら直接本人から聞けばいい。
 どれだけ時間がかかっても、兄上を傷つけた相手を逃がすつもりは無いのだから、相手を捕まえてから確かめればいい。



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