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27 無罪の証明2

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 ジャンヌ嬢は、震えながらも口を開いた。

「わ、わたしはシルヴィさんがやったように見せかけながら、
 聖女様に嫌がらせをしました……っ」

「な、なんと……!」

 ジャンヌ嬢は早口でまくしたてるように告白した。

「聖女様が通り掛かる頃を見計らってシルヴィさんの脚に虫のおもちゃを付けましたッ!
 タイミングがずれないように魔法でシルヴィさんの動きも少し止めましたぁ!」

 マジ?

 た、確かに一瞬、動けなくなった気はしたけど、
 Gに驚きすぎて体がフリーズしたのかと思ってた……!
 ジャンヌ嬢の話は止まらない。

「穴を掘って、殿下たちを誘導して、シルヴィさんに下剤を盛ってトイレに向かわせ、
 タイミングを図ってバケツをひっくり返したのはわたしですーッ!」

 えええ!?
 驚いて思考が纏まらないまま、ジャンヌ嬢は話を続ける。

「おふたりが入浴中に宝玉を盗みッ!
 暫くしてからシルヴィさんにぶつかりその拍子にシルヴィさんの荷物をぶちまけさせッ、
 そこに宝玉を紛れ込ませたぁッ!!
 シルヴィさんが見たという小柄な男子生徒というのはっ、
 わっ、わたしですゥーッ!!!」


 最後はほぼ絶叫であった。

 誰も何も言わない。

 肩で息をするジャンヌ嬢が呟く。


「シルヴィさんに言わせた音声を編集してそれとなく流したのも、わたしです……。
 も、申し訳ございませんっっ!!」


「……」

 ゆっくりとアンジュが口を開く。

「これで確実にシルヴィは嵌められたと証明されたな」

 そして、つと、顔を青くするエレオノーラ様に視線を向ける。

「このジャンヌ嬢がなぜそのような行為をしたのだろうか?
 皆は勿論自分の意思ではないという事は分かるだろう?」
「はっ、はいぃ! わた、わたしは……」
「主人には逆らえない。
 そうだろう?」

 青い顔のジャンヌ嬢は涙をボロボロとこぼし、
 震えながらも頷いた。

「エレオノーラ……まさか、君が……」

 クローヴィスが驚愕を隠さずにエレオノーラ様に問い掛ける。

 エレオノーラ様は……泣いた。
 はらはらと涙をこぼす。

「皆様、わたくしを疑うのですね……。
 全ては誤解です!
 ……シルヴィ様に、そうするようにと」

 はああ?
 エレオノーラ様は、言い募る。
 聞き苦しい言い訳を。

「シルヴィ様は、アンジュ様が聖女らしくない事を非常に気にかけておいででした。
 それで……」
「それで。何だと?」

 あ、アンジュが怒り出した。
 ちょっとしどろもどろになりつつもエレオノーラ様は絞り出す。

「ええ、その、あえてアンジュ様を転ばせたり、嫌がらせをすることにより、
 アンジュ様がお一人の男性を選ぶように仕向けたい、そう、おっしゃいました」
「それでわざわざジャンヌ嬢にやらせるのか?
 自分でやればいいだろう」
「で、すからジャンヌの告白は全てが嘘なのです。
 シルヴィ様は自分を守るため、
 いざというときは罪を被るようジャンヌに言い含めていたのですわ!」

「……」

 まさに混乱の極みになってきた。
 エレオノーラ様は私がジャンヌ嬢にこう言えと強要しつつ自分で嫌がらせをしたと主張。

 青くなったままアンジュとエレオノーラ様を交互に見つめ言葉もなく戸惑うジャンヌ嬢は、
 先程は暗にエレオノーラ様に指示されてそのとおりに動いたと主張。

 私は勿論、エレオノーラ様黒幕説を支持するが……。

 途中から余裕さえ見せたエレオノーラ様に対し、
 アンジュはあからさまに苛ついた表情で、
 それでも冷静に話をさせていく。

「そうか、ではシルヴィはどうやってジャンヌ嬢にここまでの告白をさせたのだい?」
「おそらく、弱味を握られているのですわ」
「その弱味とは?」
「わたくしは存じ上げませんわ」
「……。それでは、この音声を聞いてみようか」


『ジャンヌ。今度はホーリージェムを盗みなさい』
『そ、そんなこと……できません』
『できるできないの回答は求めてなくてよ。やりなさい』
『わかりました、エレオノーラ様……』


「こ、これは……わたくしを貶める罠ですわ!
 そう、ジャンヌもわたくしを悪者にするつもりなのですわね!」
「やれやれ、往生際が悪いぞ、エレオノーラ嬢」

 アンジュはまた懐から何かを取り出す。
 アンジュの谷間は四次元ポケットなのだろうか……?

 出てきたものは手紙のようなものだった。
 クローヴィスが受け取り、目を通す。

「これは……」

「これは、リアルな模型を作るのが趣味のドミニク・カミュ氏からの手紙だ。
 どうもエレオノーラ嬢は、ゴキブリの精巧な模型をお買い上げされたそうだ。
 そのお礼が綴られている」

「そ、それは虫の好きな親戚の子にプレゼントしたのですわ」
「ほう、それは具体的には誰に?」
「……忘れましたわ。
 だいたい、本当にシルヴィ様の脚に付いたのは模型だと決まったのですか?」
「それが、決まっているのだよ」


 アンジュはまたも胸元に手を入れ、何かを取り出す。

「ぎゃあ!」
「ほら、よくできているだろう」

 Gの精巧な模型である。
 こんなの渡してくるな!
 というかいくら作り物でも、Gを服の中になんて頼まれても嫌だ。

「さっきの写真を撮影したふぁんが拾っておいてくれたのだよ。
 この模型にはカミュ氏の刻印もある。

 ……それだけではない。
 下剤入りのラムネ菓子を作った店も調べは済んでいるし、この小型の録音機器。
 これもそれほど出回っているわけではない。
 これの購入者もエレオノーラ嬢、あなただよ。

 そしてジャンヌ嬢が男子生徒になりすましたときの服や道具も、
 あなたの名前で買われている。

 つまりジャンヌ嬢のお膳立てをした全ての証拠があなたを示しているのだ」

 アンジュはここで言葉を一度切った。

『断罪されるべきは、シルヴィではなくあなたです。エレオノーラ』

 アンジュがゲームのアンジュらしく喋っている。
 ということは、この台詞、確かにゲームにもあるの?

 シルヴィが断罪されないルートが存在する……?


「エレオノーラ、まさか、君が……」

 私が考えている間に、クローヴィスが同じことをまた言い。
 今度こそ、エレオノーラ様は認めた。

「ふ、ふん!
 そうですわよ、わたくしがジャンヌにやらせましたわ!」
「エレオノーラ様……」
「本来ならわたくしが、聖女様のお世話をする名誉を賜っていたはずなのに!
 あんな貧乏人にその役目を奪われるなんて……!」

 エレオノーラ様は、アンジュをライバル視してるのかと思いきや私をライバル視してたらしい。

 エレオノーラ様はギラギラした眼で私を睨みながらまくし立てる。

「アンジュ様付きになれば、クローヴィス殿下達ともお近づきになれる。
 そんな役目がこんな名ばかり貧乏貴族だなんて!
 あなたなんかよりわたくしにこそ相応しいポジションなのよ!」

 あ、そっちも狙ってたのね。
 名ばかり貧乏貴族と言われてもその通り過ぎて特に憤りもわかない。

 怯えるジャンヌ嬢に、キレるエレオノーラ様。

 喚くエレオノーラ様を完全に見下す眼で見つめるアンジュに、ざわつきが収まらない聴衆たち。

 その混乱はこの人の発言で漸く収まる。

「エレオノーラ。君には失望した」
「く、クローヴィス殿下……! お慈悲を……!
 ああ、わたくしは悪くありません!
 話を聞いてくださいまし!」

「君の沙汰は追って決めるとしよう。
 ……残念だよ」

 本当に残念そうに、疲れた声で呟くクローヴィス。
 先生のうちの幾人かが許して、違う、聞いてと叫ぶエレオノーラ様を連れて行く。


 クローヴィスが私に頭を下げる。

「シルヴィ嬢。
 ……済まなかった。どうか許しては貰えないだろうか」
「ごめん、シルヴィ嬢」
「ぼくも、謝らせてください」
「完全に騙されていたんだ、申し訳ない」
「心から謝罪します」

 攻略対象たちが口々に言い、頭を下げていく。
 私がおろおろと戸惑っていると……。

「許さん」
「……え?」

 アンジュが仁王立ちで私の前に立つ。


「許さない。シルヴィを犯人扱いし追い詰めたこと、
 シルヴィが許しても私は許さないぞ」

 そして、アンジュは周りの生徒たちもぐるりと見渡す。
 何人かがあからさまに顔をそむけてるぞ。

「噂を信じるだけならまだしも、
 シルヴィに嫌がらせした奴がいるだろう。
 ……許さん」
「あ、アンジュ。良いって、そんな……。
 私だと疑われるようにうまく立ち回ってたってことなんだし、みんな騙されたんだよ」
「シルヴィ……なんて寛仁さだ」
「海よりも深いその心……」
「まさに聖女……」


 アンジュが感動の面持ちで私を称える。
 攻略対象たちも口々に褒め称え出した。

 嘘臭え~、が、本心なのだろう。
 基本、彼らは善良なのだ。

 乙女ゲームのキャラだからなのだろうか?

「まあ兎に角、私は自分の無実が証明されたならそれでもうなんでもいいから、ね?」

 半笑いで投げやりに言うと、単純なアンジュは納得してくれた。


「そうか、では祝賀パーティを始めよう!」
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