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魔族×人間 ②
しおりを挟む見慣れた部屋の嗅ぎ慣れた匂い。
明るく陽の差す窓辺に座り込み、耳を塞いだ。
俺の大切な日常を壊すかのような、劈く声。
男だろうに高い声で叫ぶ存在に、ただただ苦痛を感じ目を閉じる。
…うるさい。
うるさいうるさいうるさいうるさい。
「う、るさ…いぃ……」
口から漏れた言葉が頭の中で何度も回り続けている。
体を丸め、頭を振る。
うるさい、うるさい。
うるさい!
衝撃と共に目を開ければ、風穴の開いた窓だったモノ。
うるさいって、言ってるだろ。
グラグラと揺れる建物と、ヒビが入っていく壁。
うるさいの。
静かにして。
もう、黙ってよ!
「うるさい……うるさい!」
俺が聞きたいのはギノの声だけなのに。
俺が受け入れるのはギノだけなのに。
俺以外が、ギノの視界に入らないでよ!
独占欲と執着心が諸に出た心の声に、俺は更に強く耳を塞ぐ。
うるさい、うるさいの。
俺も、アイツも、何もかも…消えてしまえば、いいのに。
ギノだけが、幸せに暮らせる世界なら、どれだけいいか!
「きえてよ!」
邪魔な物は全部、全部、消えちゃえば!
「きえ、ちゃえば…いいのに…」
そんな折、鼻が拾ったのは安心出来る匂い。
振り返れば、伸ばされた手が俺の手を上から押さえ、ズラされる。
「ヒノ、耳を塞いだら俺の声が聞こえないだろう?」
優しい声色で笑うギノに、あ、と言葉を落とす。
「いい子だから、俺の傍に居ろ。遠くに行くのは危ない」
気が付けば無意識のうちに立ち上がり壊れた窓枠に足をかけていた。
「騒がしくて驚いたのか?不安にさせたな、ヒノ」
「……ふ、あん…?…」
「ああ、ほら。此方へおいで」
足を窓枠から下ろし、ギノに抱き着く。
「ヒノ、疲れてないか?今日は朝から騒がしくして驚いたか?大丈夫、大丈夫だぞ。俺が此処に居る」
「…うるさいの……あさ、から…」
「ああ、ネズミが入り込んでな。もう片付くから、心配はいらない」
「きえ、たらって…おもった、の」
「俺もさっさと消えろと思っていた。一緒だな、ヒノ」
「いっしょ」
「俺とヒノの居場所に入り込むネズミなど消えてしまえば、ずっとヒノと一緒に居られるだろう?俺にはヒノが必要で、大切な存在だ。そんなヒノに寂しい思いもさせずに済んだものを…後もう少し痛めつけて、もう二度と入り込めぬようにしなければ…」
ギノが仕事の話をしている間、俺はゆっくりと呼吸をしてたった気を押さえつける。
……ギノには俺がいる。
俺が、必要なんだって。
変わった魔族だろう?
人間の俺が必要だなんて…ねぇ?
だから、アイシテルんだ。
??? ver
「これが、元人間の力……か」
山が割れ抉れた大地と、雲ごと引き裂かれた空の光景。
人間であった時でも、多数の魔族と互角に戦えた存在。
その存在が、上位に位置する魔族に嫁いだ事で魔族へと変わりつつある。
前例の無い、人間から魔族への進化。
誰もが鼻で笑いながら、屠れる存在を番に選んだ「主」を見ていた。
「主」はそんな目になど興味を持たず、ただ一心に番を迎え入れる準備をしていた。
俺らもそれに参加し、番殿を探した。
…俺らも、魔獣や兄弟を番にした変わり者だ。
人間も、なれなくはないだろう。
耐えられるか、は分からないが。
そんな事は露知らず、番殿は俺らの前に立ち塞がった。
その目は、何物も思わない無機質なモノだった。
ただ、戦っているだけ。
ただ、何も思わないだけ。
番を失った魔族の如く生きるソレを、一度人間でないのではないかと強く思った。
敢えて言うのならば、魔族の成りそこない。
そう、思ってしまう程に強く儚いモノ。
「主」は笑っていた。
笑って気を失った番殿を抱いて放った。
「何故、俺の番を傷付けた?」
圧力に耐えきれず、膝を着いた仲間も俺も何も言えなかった。
ただ静かに、次は無いと言い放った「主」の気配が遠のく迄、動く事すら出来なかった。
「「主」よ。彼は…番殿は、人間の枠等超えていたのでは…」
「「主」の番殿が、普通である筈が、無いよなぁ」
仲間が笑う中、後片付け、という言葉が鮮明に響いた。
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