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アンさん

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人間×人間 将軍×元敵軍人 ⑬

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「ソラウィス、何をしているんだ?」


〔 魔力循環だ。体の中で魔力を循環させる事で、肉体や精神に異常が無いか確認している。魔力回復を促す効果もあるからお前もしてみるといい 〕


「魔力を循環させる…か。難しいだろう?」


〔 そうでも無い。慣れたら簡単だ。慣れるまで時間を有するが、使えるに越したことはない〕


「それもそうか…ソラウィスは地道に努力するんだな。俺なら直ぐに諦めちまう」


〔 無理して獲得した物ほど扱いにくい。体に慣れさせ常に扱える状態が好ましい〕


ロゼライという言葉の通じる奴はいつも人の動きをよく見ている。


それでいて吸収の早い奴だ。


悪く言えば阿呆だ。


魔眼という魔力の流れを見るスキルを一度見せただけで感覚を掴めるなど、普通なら無理だ。


特に目に使うスキルは使い方を間違えると失明する。


一度見ただけで実践なんて絶対にしない。


俺だってしなかった。


ただ此奴は実践して見事に失明した。


急いで治療してやったんだもっと感謝しろ。


「…はぁ…」


そんなロゼライとは裏腹に、この将軍ときたら俺の喋る共通語を学び始めて直ぐに根を上げている。


「将軍、仕方ありませんよ。カール共通語はかなり難しい言語ですから」


「分かっている…意思の疎通が取れない事が、こんなにも精神的に攻められる物だと知らなかった」


目が合えば多少様相を崩す将軍は、今は疲れきった顔をしている。


〔 何だ?お前狙われたのか?〕


「俺に話しかけてくれているだろうに…全く分からない…」


「狙われたのか、と聞いています」


「誰に?」


〔 誰に?お前誰に襲われたのかも知らないままなのか?少しは警戒すべきだろう 〕


「…うーん…将軍の言った精神的に攻められる、を勘違いしているのか?将軍はソラウィスと喋れない事が苦痛だと言っているんだ」


〔 俺と?気にするな。喋れたとして、俺はお前と仲良くする気は無い 〕


「…何と言っている?」


「…え、いえ…特には…はい…」


〔 仲良くしない、と言っている。どうして通訳しない。お前の仕事だろう〕


睨むが全く意に介さない様子でロゼライは顔を横に振った。


「そんな事は通訳しない。もっといい事を言ってくれ」


〔 いい事?俺に求めんなよ。お前阿呆なのか?阿呆だよな。失明しやがった阿呆だ  〕


「へぇ…将軍、ソラウィスは褒めて欲しいそうです」


「そうか、褒めて欲しかったのか。良い子だぞ、ソラ。とても気立てのいい子だ。凄いぞ」


そう言いながら将軍は俺の頭を撫で賛辞を送ってくる。


〔 待て、お前本当阿呆だろ。そんでもって頭が可笑しい。触るな、お前はお前で距離が近いんだよ。殺されてぇのか 〕


「死にたくなかったらもっと褒めろって言ってます」


〔 言ってねぇだろ!おい!ホラを吹くな!お前本当性格曲がってんな!巫山戯んなよ! 〕


「どうした?照れているのか?気にしなくていい、いつもの事だろう?」


〔 いつもの事?俺はいつもこんな風に過ごしてんのか?一体何やってんだよ!俺! 〕


「それで、本当は何と言っていたのですか?」


「俺の事を阿呆だと連呼していました」


「自業自得ですね」


〔 何処がだ!俺はな!お前と違って素直なんだ!ソラウィスがどんな性格でどんな風にお前らと暮らしてんのか知らねぇけどな!今の俺はリウロなんだ!馬鹿にしてるとこの世から消すぞ! 〕


「…何と?」


「早すぎて…すみません」


〔 クソが!役たたず!意気地無し!お前みたいな奴は嫌いだ!あとお前もだ!好き勝手触りやがって!気安く触んな!気持ち悪ぃ!退け! 〕


「ソラウィス…早すぎる。もっとゆっくり喋ってくれ」


〔 お前ら全員大っ嫌いだ! 〕


「え…ソラウィス、そんな事言うなよ。悪かったから。な?」


〔 うるさい、煩い!嫌いだ!退け!離せ! 〕


「ソラウィス」


〔 俺はリウロだ!お前らの知ってるソラウィスじゃねぇ!!!!〕


叫び終わったあと、ゼェゼェと息を乱し俺は手を強く握った。


〔 フラッシュバックは思い出したくない事や自分を理解出来ない時に起こる。ソラウィスがフラッシュバックしたのはお前らのせいだろうが!逃げたい時に起こる現象を引き起こしたお前らなんて、俺は認めない! 〕


頭の中で流れるソラウィスの感情は、既に悲鳴をあげている。


〔 ソラウィスがお前らの前から消えたなら、それがソラウィスの答えだ 〕


この数日間こいつらを見てきて分かった。


ソラウィスは常に感情を押さえ大丈夫だと言い聞かせてきたんだ。


…もう、限界だったんだ。


無理だったんだ。


戦争で戦う事しかしてこなかった俺が、平和な場所で育ち笑い合っているコイツらに、馴染めるわけなかったんだ。


痛む頭の中で、ソラウィスは「寂しい」と叫び続けている。


…もう一度だけ、機会が欲しいと泣いている。


なぁ、俺。


もう諦めちまえよ。


もう何も期待すんなよ。


今までだって、そうだっただろ。


裏切られ続けて、諦めてきたじゃねぇか。


それでも、と手を伸ばすソラウィスを、誰も救っちゃくれない。


〔 ソラウィスに我慢ばっかさせて!ソラウィスの意志を聞かなかった癖に!今更お前らソラウィスに何が出来んだよ!出来ねぇだろ!何も!お前らは出来ねぇんだ! 〕


「…ソラウィス…」


〔 ソラウィスの欲しい答えはもう見つかった。明日にはお前らの知ってる俺になるだろうよ 〕


「戻るのか?」


〔 ああ、戻る。戻るさ。お前らが苦しめて逃げ出す所まで追いやった俺が戻ってくるんだ。どうした?もっと喜べよ。なぁ? 〕


苛立ちを抑えられないのは、まだ俺が感情と人格を捨てていない証拠だ。


ソラウィスは捨てた。


捨てなければ生き残れなかった。


だから、コイツらの知っているソラウィスは常に楽しそうに見えてただろうな。


何も、感じちゃいなかった。


表情も声色も、操るのは簡単だ。


逃げ出す前は、そう在れたのだから。


〔 の俺なんか、誰も見ちゃいねぇよ。お前らも、ジャギィノも…ソラウィスがなんで逃げたのか、分かっちゃいねぇんだろ 〕


「言わなくちゃ分からない。言ってくれなければ、理解し合えない」


〔 ソラウィスは伝えていた。例え遠回りでも話していた。なぁ、知ってるか?俺は臆病なんだ。誰にも踏み入れられたくない物があって、それを守るためにソラウィスという人格が出来たのだとしたら… 〕


フラッシュバックが何故おきるのか。


何故ソラウィスが今頃逃げ出したのか。


…答えなんて、簡単に見つかった。


それでも戻らなかったのは、ソラウィスが望まなかったから。






「恋人だとか巫山戯た事言いやがって…ソラウィスの重荷の元凶が…引っ込んでやがれ、クズ」


残された言葉に空気は凍り、ソラウィスは部屋から消えた。






「あちゃー…やっちゃったかー…どうしよ…困ったなぁ」


頬を掻く顔上部を狐面で隠した青年は街を背後に駆け出した。


「感情か…また面倒な事が増えたなぁ」


隠された目は何を語るのか。


ただ、今は此処に居れない、と青年は足を早めた。


「答え、か。知らなくても良かったかもなぁ」


困った、と言いながら口角を上げる青年は、一体何を思うのか。







九年間だ。


十二歳に徴募され九年間、戦争に身を置いていた。


初めから肉壁として国に飼われていた身だった。


まともな食事も、服も、寝床も無い。


全て管轄するシスター達に取り上げられ、生きる為に物を盗み泥水を啜った。


何故そこまでして生きながらえようとしたのか…年下の孤児のためだといえば聞こえはいい。


誰かに必要とされる訳がなく、痩せっぽっちで小さな孤児はどんどんと死んでいく。


それでも孤児が減る事はない。


価値の無い孤児に、誰も手を貸そうとはしない。


まぁ、出来なかった、が正しいかもしれないが。


皆戦争の所為で食事やお金に困っていた。


普通の家庭でそうなんだ。


「せんそうは、いつおわるの?」


「せんそうがおわったら、おなかいっぱいごはんたべれる?」


「あったかいおふとんでねれるかな?」


そんな言葉に返ってくるのは何時だって暴力だ。


「煩いんだよ!いいかい?!クソガキのお前らはさっさと戦争に参加して此処にお金を入れるんだよ!簡単に死ぬんじゃないよ!取り分が減るんだから!」


好き勝手生きるシスター達は、皆横に大きかった。


だからか、大きな人が怖くて嫌いだった。


戦争に出れば、俺より小さいヤツは居なかった。


皆体が大きく、俺らを見下ろし物のように扱った。


…理不尽だ。


生まれたくて生まれたわけじゃないのに。


生きたくて心臓が動いているわけじゃないのに。


味方も敵も関係無かった。


怖くて震えるだけなのはやめた。


辛くて泣くのはもう出来なかった。


死ぬまで戦う、だから誰か俺を止めころしてくれ。


そんな淵、目を惹かれた存在が居た。


誰よりも強く、誰よりも惹き付けられる男。


「戦いに来たんじゃない」


腕で味方を制し、守ろうとするその姿勢に。


「武器を取りたくない」


その存在を信頼する味方の目に。


「頼む。見逃してくれないか」


俺は息を飲んだ。


間違いなくその言葉は、上層部の者が出させる事は無いモノ。


それをいとも簡単に、味方の為に放つのか。


この国ではありえない事を、平然とやってのけるのか。


〔 三百秒後、砲撃が始まる。それまでに此処を去れ。さも無くば、敵と見なす 〕


言葉が通じないだろうに、此方から目を一切離さないその男は…迷いなく仲間に背を向けさせた。


…自分一人残って、俺の動きを観察か。


無理矢理念話を繋げた俺は、問いかけた。


「〔 何故お前は彼奴らの為に命を賭ける 〕」


「っ、その価値がある」


「〔 お前が残って何になる〕」


その目に映る俺は、どれほど滑稽なのだろう。


「〔 無駄な事だ。どうせお前達の捜し物は此処には無い 〕」


「…知っているのか…」


落とされた言葉は驚愕がありありと浮かんでいた。


「〔 敵が増えないのであればそれでいい。そうだな…南東なんてどうだ。あっちは俺の管轄外だ 〕」


「何が言いたい」


「〔 答えは探しに行けばいい、それだけだ 〕」


遠くで聞こえる叫び声に、男は俺から目を離した。


「〔 お前は気に入った。お前の仲間も多少は使えそうだ。ほら、さっさと行かねぇと…守れるもんも守れねぇぞ 〕」


迷いなく引いた引き金の音の後、小さな衝撃波によって倒れた男に俺は笑いかけた。


ああ、久々に笑えた気がする。


「〔 武器を取って戦え。殺し合えとは言わねぇが、周りを見ろ。此処は戦場だ。敵も味方も、見えやしねぇよ 〕」


倒れた男の横では、脳天を貫かれて死んだ何か達。


その何か達の胸元にあるのは、俺と同じ国旗の印。


気に入った…そう、気に入ったんだ。


俺と真逆の倒れた男に、俺は髪に着けていた石を投げた。


「〔 探知に使える魔石だ。好きに使え。生き残ってみろ、ガーディ・グロンティア将軍 〕」


残り百七十秒、何処まで足掻ける?


お前は、俺の期待に応えられるか?


地響きが轟く中、俺は武器を仕舞って空を飛んだ。


何処までも続く暗雲の下で、俺は太陽を見つけた気がした。




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