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アンさん

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人間×人間 将軍×元敵軍人 ⑫

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数日ガーディは遠征に出る為、暫く会えなくなる。


ガーディの部屋には好きに入っていいし、食堂も利用するならして構わないと言われた。


「いいか、ソラ。無茶だけはしないように。あとあまり遅くまで酒を飲まない事、何かあればすぐに連絡しなさい」


「分かったって。俺は餓鬼か何かか?俺が街から出る訳でもないのによー」


心配性のガーディは夜も同じ事を言ってああ心配だ、本当に大丈夫か、と執拗い。


逆にここまで心配されると俺に問題があるようにしか聞こえない。


「そんなに心配なら俺も連れてったらいいのによー…なぁんでそこまでガーディが彼是思案してるんだよ?俺だって大人だ。何も問題ねぇって」


「そうか、その手があったか。少し席を外すがソラは確り食事を摂りなさい」


「おー?」


急にどうしたんだろうか?


まぁ、美味い飯食えるし安全な寝床も確保出来たから、ガーディが居なくても俺は惰性で過ごせる訳だ。


素晴らしい。


眼前に並ぶ食べ物の前では多少の疑問は何処かへと去っていくもんだ。


「お、ソラウィス。飯食ってるか?」


「見たらわかるだろ」


氷の入ったグラスを傾けると、カランと鳴った。


「そんなに少ないと食ったうちに入んねぇぞ」


「お前が食い過ぎなの。俺は普通だから」


体の大きさ的にも許容量に差が出るのは仕方ない事だ。


「周りを見ろよ」


「周りが食い過ぎ」


「変わんねぇなぁ。将軍は?」


楽しそうに笑うロゼライは、辺りを見渡して頭を傾げた。


「どっか行った」


「ソラウィスを置いてか?珍しい」


「俺別にガーディの付属品じゃねぇから」


「今日は冷たいな。どうした?体調が悪いのか?」


冷たいって…別に普段暑くないだろ。


まぁ、でも…。


「…多分?胸焼けがするんだよな…昨日肉食い過ぎたのかもしんねぇ」


「胸焼けするほどって…どんだけ食ったんだよ」


「昨日は鹿肉だったからな。全力を尽くした」


「程々って言葉を覚えようぜ。治療魔法は?使わないのか?」


「こんなしょーもない事に使わねぇよ。治療魔法は攻撃魔法とかと違って操作が面倒なんだ」


「そう言ってお前…いや、待て。ソラウィス。お前よく見たら…固形物は?何故飲み物ばかり飲んでいる?」


「要らねぇ。ってか今何も食いたくねぇ……」


「なっ、ソラウィス!正気か?おい!医療班は居るか?!」


「うるせぇ。叫ぶならどっか行け」


「どうしたんだ、ロゼライ」


「リーウェン大変だ!あのソラウィスが飯を食いたがらねぇ!きっと病気だ!ソラウィス大丈夫か?!治療室に行こう!」


「ソラウィス、体調が優れないのか?熱は無いようだが…あーして、喉見せて…うーん…問題無いね。鑑定結果も頗る悪いという訳でもないし……」


「ただの胸焼けだって言ってるだろ。騒ぐなよ、ガーディが聞いたらそりゃもう本当に面倒なんだから」


「まぁ将軍はソラウィスの事溺愛してるし、そこは諦めろよ」


「デキアイってのは何だ」


「愛してるって意味だよ」


「この国は難しい言葉が多すぎねぇ?【キャパオーバー】しそうだ」


「そういうソラウィスの母国語も、俺らからしてみたら難しいんだよ」


「…そういうもんか?まぁ何でもいいや。俺部屋に戻るから、お前ら死なずに帰って来いよ」


「ああ、ありがとう。ソラウィスはゆっくり休め」


「おやすみ、ソラウィス」


手を振ってガーディの部屋へと転移する。


…歩くのもしんどい…まさか、風邪のひき始め?


いそいそとベッドへと潜り込み、頭から布団を被る。


まさか、俺が体調を崩すなんて…寝たら治る、治らなかったら治療魔法を使うしかない。


暫くすると耳鳴りと頭痛もしてきた。


……本格的に、ヤバいかも。








ガーディver


規則的に呼吸をするソラのおでこを触ると、少し熱い。


熱があるのか…気付かなかった。


朝から少し気怠そうにしてはいたが、時折朝に弱いソラだから今日もそうなのだろうと思い込んでしまっていた。


「ソラ」


薄らと開いた目が俺を映すと数度瞬きをしてからあー…と枯れた声を発した。


「熱があるようだが、大丈夫か?」


「問題無い。治療魔法使うから手退けろ」


「ああ」


繊細な操作が必要な治療魔法を熱があるのに悠々と使う様はいつ見ても感服する。


「共に遠征に連れて行こうと思っていたが、止めておこう。今日はゆっくり休みなさい」


「おー。悪ぃな」


「いや、こちらこそ不調に気付けなかった。不甲斐ない」


「んー…ガーディ、時間だろ?早く行けよ」


伸びをしたソラは時計を見て眉を顰めた。


「行ってくる…が、ソラ」


「今日は安静に、だろ」


「分かっているならいい。緊急要請があろうと体調を優先しなさい」


ソラの冒険者用の通信石を外して代わり俺と繋がる通信石を着けてやる。


「何かあれば、小さな事でもいいから、連絡しなさい」


「おー、早く帰ってこいよー」


「分かっている。直ぐに片付けて帰還するから、それまでいい子にしているんだぞ」


「ガーディが帰ってきたら悪い子になってもいいのか?」


「ああ、俺が確り教育し直すから気にする必要は無い」


「…っ、ふ…ふふっ、あはははは、分かった。楽しみにしておく」


笑うソラの頭を撫でてから、脱いでいた上着を羽織る。


「気を付けろよー。特に夜…明るくなる前だ」


「ああ、覚えておく」


ソラの見える未来には間違いがない。


例え意味合いが違ったとしても事象としては起こり得るものばかり見えてしまう。


…未来が見える事は皆から羨望の眼差しを受けるが、見える本人は辛いだろう。


物事の詳細を伝えたいが、逆に伝えすぎると未来が変わる。


望まない未来に変えないために、ある一定の犠牲を受け入れなければいけないのだから。


俺なら、どうするだろうか。


ソラのように、己を犠牲にするか?


己を優先し、多少の犠牲を黙認するか?


犠牲無くして、勝ち得るものは何だ?


未来が見えたならば、俺は間違いなく損得を勘定し十を救うため一を捨てるだろう。


…ソラのように直ぐに諦めがつく性格では無い以上、あの簡潔さは真似出来ない。


体調が優れない恋人に寄り添えない職務に少しばかり歯痒さを感じた。


可能であれば、一日共に居てやりたかった…。












ガーディが出ていった後、俺は少し胸に違和感を覚えた。


胸焼けでは無い、何か。


例えるならば、穴が空いたかのようだ。


…病気ではない…呪いでもない…これは何だ?


先程まで笑えていたはずなのに、何故か口角が上がらない。


言葉を発するのも億劫で、何だか嫌な感じだ。


息を吐き出してまた布団を頭から被る。


治療魔法でも治らないなんて…一体コレは何なのだろうか?


ガーディの匂いがする枕を抱き締め、俺は意識を手放した。






ガーディver


連絡を受けたのは、もうすぐ街に着く頃だった。


『大変です、将軍。ソラウィスの様子が…』


「何があった?」


『分かりません。将軍達が街を発してからこの数日間姿を見た者が居なく、申し訳ありませんが部屋に入らせて頂きました。ソラウィスなのですが…その…』


「何だ、早く言え」


『別人の様です。見た目はソラウィスですが、性格が全く違います。まるで……リウロ・ジュガナーに戻ったかのように感じます』


「性格が?もう時期街に着く。ソラを外に出すな」


『了解しました』


一体何があったのだ?






「ソラ。ソラ、聞こえているか?」


微睡みの中聞こえるガーディの声に、無意識に舌打ちを打った。


触れられた肩が異様に冷えたかのように感じ擦るが、熱が伝わって来ずイラつきが募る。


ああ、何なんだろう、この表し様の無い何かは。


「ソラ…体調が優れないのか?何処か痛いか?」


【うるせえ、触んな】


俺の顔を触る手を叩き落とし、薄いタオルケットを羽織直して目を閉じる。


ボヤける音が耳障りだと、チラつく光が鬱陶しくて嫌いなのだと頭の中で誰かが叫んでいる。


俺、一体何に悩んでたんだっけ…何でこんなにも怒っているのだろう…なんで…なんで?


ぐるぐると同じ思考が回って何も理解出来ない状態がずっと続いている。


……何に、俺は……あれ、えっと…ここ、どこだっけ?


騒がしい声がいつもの日常で、もっと爆音と温風が吹き荒れていたはずだ。


そうだ、は?


あいつ、どこに行ったんだっけ?


作戦は何処まで進んでた?


いや、違う。


戦争は終わったはずだ。


あれ、でも…国は?


あれ?


あれ?


何、してたんだっけ?


俺、今……何考えてたんだっけ?







ドクンと強く打った心臓に、目を開け息をひとつ吐く。


鈍器で殴られたかのような頭痛と、やけに強く聞こえる心臓の音。


視線を動かせば俺の手を握り眠る男が一人。


…シャク王国第一軍将軍ガーディ・グロンティア…何故俺の手を掴んで熟睡しているんだ。


普通敵国軍の軍人は拘束するし、お前みたいな上層部は出て来ねぇだろ。


殺されてぇのかこいつ。


魔力を循環させて治療を行うが全く効果が無い。


成程…フラッシュバックしたのか、俺。


本来フラッシュバックは記憶を追うだけのはずだが、どういう訳か普通とは違う状態になってしまう。


過去の自分に戻る、っていうのが一番合う言葉だろう。


まぁ、フラッシュバックは初めてではないから驚きはしないが…寧ろ今の状況の方が驚きだ。


魔力循環が出来るという事は、本当に何も拘束されていないという事だ。


一部の能力が使えなくなるから俺的には問題だが、それでも多種多様な能力は使える。


そんな中で知らなかったとしてもこんな無防備に寝ているなど…。


意味が分からない。


…未来の俺は、一体何をしたんだ。


「起きたのか、ソラ」


ソラ?


新しい偽名を付けたのか?


「熱は下がっているな。痛い所はあるか?とりあえず、水を飲もう」


渡されたコップを持ち固まる。


透き通っている水を見たのは久しぶりだ。


「ソラ?」


鑑定結果も普通の水と出ているし、安全なのは分かったが…こいつ距離近くないか?


喉は乾いていたから有難く貰うが…。


「ソラ、何かあったのか?俺が帰ってきた時かなり怒っていたようだが…何か問題が起きたのか?何か嫌な事でもされたか?」


【無い】


「ソラ、共通語で話してくれ。俺はその言葉を理解出来ない」


〔 特に無い 〕


「ソラ?カール共通語ではなく、フィリア共通語だ。どうした?揶揄っているのか?」


【フィリア?海の向こうの国の言語なんぞ喋れねぇぞ】


「…っ、少し待っていてくれ。カール共通語を喋れる者を連れてくる」


【そんな事よりジャギィノを知らないか?俺と一緒に居たはずだ。あいつをどこに連れていった?】


「ソラ、分からない」


【ジャギィノ、ジャ、ギィ、ノ】


「ジャギィノ?シーヴィ殿の事だな。分かった、彼にも連絡を入れよう」


…あいつも生きているのか。


一方通行の会話は面倒だし、翻訳出来る奴を待つとするか。






「カール共通語ですか?そうですね…ロゼライは、少し喋れましたっけ?」


「ほんの少しですよ?聞き取りは出来ますけど喋り方は単語だけです。崩した喋り方だと意味合いが変わる言語ですから、俺の発音で伝わるかどうか…」


「とりあえず喋ってみてくれ」


「了解です。〔 ソラウィス、言葉、分かる? 〕」


〔 分かる 〕


〔 フィリア、共通語、知る、ない? 〕


〔 海の向こうの言葉は知らねぇ 〕


〔 遅い、願う 〕


〔 海の向こうの言葉は、知らない 〕


「え?!知らない?!」


「どうした?」


「ソラウィスが、フィリア共通語を知らない、と。それに、海の向こうと言っているので…ソラウィス言い回し方が…少しおかしいです」


〔 国、違う? 此処、何処だ? 〕


「そんな…此処はシャク王国だ。ソラウィス、本気で言っているのか?!」


〔 俺は今、戦争中だったはずだ。お前ら、俺を殺す気配ない…おかしい…何故国外に?〕


「うん?待て、ソラウィス聞き取れているのか?」


〔 聞く事は出来る。通信の言語だから、少しは理解出来る 〕


「通信の言語…暗号文の解き明かしのために聞き取る力はあるみたいですね。こちらの言葉は聞き取っています。ソラウィスから伝えることが出来ないだけみたいです」


「聞き取れるのか。ソラ、今お前はどんな状態なんだ?何処まで記憶がある?」


〔 お前を俺は知っている。敵の軍人だろ。俺は口硬い〕


「将軍を敵だと言っています。口を割らないと言っているので、尋問だと思われているのではないでしょうか?」


「尋問?!ソラにそんな事はしない。ソラ、本当に、何も…分からないのか?この国の軍基地に居る事も、この部屋に居る事も…分からないのか?」


〔 軍基地?主命令塔…司令塔?何故俺を此処に連れてきた? 〕


「ソラウィス、お前からこの軍基地に来たんだぞ?」


〔 俺は亡命などしていない 〕


「何をしていない?」


〔 亡命だ。他国に逃げたりなど俺はしない 〕


「逃げる、他国…亡命か?」


「亡命した訳では無い。ソラ、今のソラは何処まで知っている?」


〔 亡命じゃない?俺からこの国に来た?戦争は?終わったのか? 〕


「戦争は終わった。終戦したんだ。もう戦わなくていい」


〔 意味が分からない。終戦しても戦いは終わらない。覇権国家を他国は認めない。だからお前達も戦っていた。何故終わった?…滅んだのか?自滅?国はもう無い、のか? 〕


「……もうあの国は地図に無い」


〔 そうか。阿呆が前へ出たんだな。俺の読みは案外合っていたのか…不遇だ 〕


「読み?見たのではなく?」


〔 未来視には限界がある。ある一定見たら後は勘だ。お前達が知っているは何も言わなかったのか? 〕


「現状を理解しているのか?」


〔 この現象は初めてではない。だから慌てはしないが、この現象時は未来視が使えないから、お前達との関係性は分からない 〕


「…どうやら現状は理解しているらしいですね。この現象も初めてではないらしいです」


「どういう事だ?戻り方は?」


〔 戻る方法?時が来れば戻る、それを待つだけだ 〕


「待つ以外には無いようです」


「待つ…待てるのか?ソラとしては無理だろう?」


〔 気にするな。言語が伝わらない程度で慌てなどしない。早速外へ行こう。安全で平和な街とやらを見ておかなければ 〕


「外に行くなら俺も行こう。通訳は必要だろう?将軍も共に行く」


〔 将軍は要らん。別に肉壁となる訳でもなし 〕


「将軍。ソラウィスが一人では不安だと言っています。一緒に街へ行こう、と」


「そうか…知らぬ場所に急に来て不安か」


〔 おい!お前!通じねぇ通訳者は要らねぇんだぞ! こっち来んな!不安じゃねぇ!俺は一人で行ける! 〕


「そんなに慌てて…大丈夫、此処は安全だ」


〔 安全なら尚更お前は要らねぇよ!おい!こら!デカブツ!てめぇマジで巫山戯んな! 〕


「どうして急に叫び出した?」


「早すぎて聞き取れないので分からないです」


〔 何なんだよお前ら!邪魔だ! 〕


「ソラ、今のお前では不自由することもあるだろう。此方で支援するから、少し落ち着きなさい」


〔 支援?ああ、そういや買い出しには金がかかるんだったか。そこらの奴らに集るつもりだったが…お前らの方が金持ってそうだな。よし、行くぞ将軍さいふ 〕


「今度は急に大人しくなったが…どうした?」


「奢ってもらえると知り喜んでいます」


「そうか、そうか。好きなだけ見て回って欲しいものがあったら言いなさい」




小声・三者ver


「…将軍、やっとソラウィスに貢げて喜んでますね」


「まぁ、ほら…ソラウィスは奢ってもらえて、将軍は貢げる…いい関係だと思うよ」


「ソラウィスも将軍も、お金持ってますからね…羨ましいです」


「正直将軍よりソラウィスの方が稼いでいますしね。貯金額聞いて卒倒したのは仕方ない事ですよね…思い出したくないです」


「軍は給金の金額が決まってますが、ソラウィス殿は決まっていませんから。稼げる時に稼ぐ冒険者で、階級が高く持って来る素材も珍しいものばかり。一度査定を見に行きましたが、その時の金額は俺の三ヶ月分の給金と同じ位でした…一日で、ですよ…」


「言わないで下さい。副官の三ヶ月分とか…もうそれだけで当分働かなくていいのに、ソラウィスは冒険が好きですから…ああ、一月に幾ら稼いでるんだろうか…知りたいけど知りたくない」


「今の状態のソラウィスに、将軍幾ら貢ぐと思います?」


「ソラウィス豪華なものに興味無いからな…飯か髪飾りか武器か…あと防具も見そうだな…」


「案外、普段着とか?」


「ソラウィスの自我が戻ったら、発狂しそうだ。俺がお金出すのに、って…想像出来る」


「早く戻ってきて欲しいですね。当分将軍は辛い日々になるでしょうから」


「そっか…夜とか一緒に居れなくなるかもしれないし…」


「何より普段ベッタリな将軍がソラウィスに触れなかったら…うわぁ…会議とか地獄じゃん」


「……あはは、マジかぁ…どうしよう…」





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