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アンさん

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魔王×狼型獣人? ④

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認識に違いは、いつだって互いを理解し合えないものだと思わせる。


欲しい言葉だけを吐く存在は、確かに肯定感が満たされその甘言に酔いしれるものだ。


例えそれが、己の欲しかったものでは無かったとしても、手に入れてから気付けば、手遅れだった。


「どうしたの?レオ」


俺を呼ぶその声も、俺を見るその目も。


手に入れ満足したはずなのに…何故こんなにも違和感を感じるのか。


「そりゃ、心が無いからでしょ?」


そうあっけらかんと言い放ったのは、俺の大切な番の連れ。


「俺にもマコトにも、愛してるなんて言葉は何の意味も無いし。なんなら、言葉なんて必要無いよ。価値が無いんだから」


「価値が、無い」


「君達魔族は魔力で互いを認識してるでしょ?姿形はなんの意味も無い」


「そうだ」


「俺らには言葉なんてなんの意味も無い。欲しいのは、純粋な行動だよ」


「行動?」


「言葉に嘘は込められる。でも、魔族の行動に嘘は孕めない」


何を言いたいのか、何を意味するのか。


「俺達は、何度も裏切られた。だから期待はしない。でも、君達の行動には賞賛を送れるほどには感激してるんだ」


それは……。


「好まない物は消す、必要な物は手元に。簡潔で純粋な行動が、俺達には救いだ」


番の俺を見る目に、感情は浮かばない。


「壊れたものを直せはしない。補う事は出来るけど」


番の俺に触れないその手は、いつも冷たく動かない。


「もし、本当の言葉が欲しいなら他を当たるといいよ。マコトは、もう人の心を持たない人形だもの」


連れがそれを言うのか?


お前にとってこいつは…。


「俺は言葉で補う術を持っているけれど、マコトは持っていない」


何故、こいつは…。


「意志を示すんだよ。記憶を辿るの。簡単でしょ?」


「何を」


「マコトを呼び戻せるのは、君だけだよ。ヴィジュが俺を戻してくれた様に、君だけがマコトに手を差し伸べられる」


悲しそうなその目は、俺と番に何を願う?


「俺じゃ、届かなかったんだ。ずっとそばに居た俺でも、一緒に育った俺でも、ダメだったんだ。君にしか、出来ないんだ」


黒い瞳に、浮かぶものは…。


「マコトも俺も…疲れちゃっただけだよ。何度も死んだから。何度も裏切られて、何度も繰り返してるから。疲れただけなの」


静かに置かれた何かに、俺の番は口角を上げる。


「生きる事が、もう嫌になっちゃっただけなの。だって……」


番が手を伸ばす物は、どれも己を殺す毒物だ。


「君もいつか…番を捨てるでしょ?魂を消滅させれば、何の憂いもなく居られるでしょ」


「お前」


「侮辱じゃないよ。本当に起こりうる事象だ。ヴィジュはそれを変えた。俺を元に戻せた。君に出来ないわけが無いよ。マコトが選んだ唯一の番なんだから」


「何を根拠に」


「俺は常にマコトと一緒だ。ヴィジュとマコトなら、俺はマコトを取る。なぁ、マコトもだろう?」


「え、当たり前じゃん。何言ってるの?」


「マコト!」


「え、何?何怒ってるの?どうしたの、レオ」


「何故俺を選ばない!俺が番だ!彼奴は、お前の番じゃない!」


「知ってるよ?」


「では、何故!」


「え、だって…俺、人間だし?レオもヴィジューラも言ってたじゃん。人間なんか直ぐに死ぬ弱者だって。俺、直ぐ死ぬからトオルと一緒に生きるよ?大丈夫。レオは強いから、きっと俺より優秀な番が見つかるよ」


笑うその顔に悪意は一つもない。


純粋な、言葉。


「マコト。それ以上は言っちゃダメだよ」


「どうして?」


「未来が変わっちゃうから」


「あー、そうだった。忘れてた。あ、ねぇ、レオ。昨日言ってた…どうしたの?」


「未来が変わる?どういう意味だ?何を隠している。ヴィジューラ」


「トオル、俺も聞いてないよ?」


「ん?そうだっけ?じゃぁ言わない。ふふふ、楽しみだなー」


笑う二人は、何を思っているんだ?


能力が使えるようになった二人は、今やもう負け無しの強者だ。






「レオー」


「マコト」


手を振り俺の元へと駆け寄ってくるマコトは、優しい目付きで頬を染めている。


俺の知っているシンになろうと躍起になり、マコトを見失っていたマコトは、やっと本心を俺に見せてくれた。


本当はとても泣き虫で優柔不断で照れ屋なのだと言って、謝りながら理想の番になりたかったのだと泣いていた。


「見て見て、俺めっちゃ魔法上手くなった」


見た目同様言動も幼いマコトは、何かがあるとこうやって俺に見せ自慢しようとしてくる。


トオル曰くマコトは褒められると伸びる性らしい。


だから褒めてもらおうと何かにつけ報告しているとの事だ。


とても健気で可愛らしい番だろう?


「マコトは本当に魔法が好きだな」


「そりゃ、向こうにほんじゃ無かったもん、魔法。楽しいんだよ、覚えるの。いっぱい使えたらレオの役にもたてるじゃん?」


「魔法が使えなくとも俺の自慢の番だ。何も気にする必要は無い」


「えー、ヤダよ。俺レオの為に頑張って習得したんだよ?」


そう言いながら俺の服の裾を掴むのは、褒めて欲しい時の合図だ。


「よく頑張ったな。流石俺の番だ」


頭を撫でてやればふふふと笑い頬を押さえている。


「マコト。今から出掛けよう」


「どこに行くの?遠い?」


「少しばかり遠いが転移するから直ぐだ」


「じゃ、着替えてくるね!」


マコトは軽やかに踵を返して部屋を出ていった。


……また、マコトのレベルが上がっていた。


もうすぐ人間が到れる最高レベルに達しようとしているのに、レベルが上がる速度が恐ろしく早い。


トオルもそうだ。


一体何をしたらあそこまで早く実力を伴うレベリングが出来るのだろうか?


マコトと共に部屋に入ってきてヴィジューラの隣に座ったトオルに目を向ける。


「トオル」


「何?」


「レベルが上がるのが早いようだが、何をしてレベリングしている?」


「レベル?何それ?」


「魔族にはそいつがどの程度強いのか数字で見える。マコトもお前も、この数日で有り得ないほど強くなった。一体何をしたらそうなる」


「ああ、訓練の内容?簡単だよ。殺しあってるだけだもん」


「殺し合う?」


「そう。俺がマコトを殺して、マコトが俺を殺す。もちろんタダじゃ死なないよ。本気の殺し合いをするの。ヴィジュと君が死なない限り何度でも蘇るから、遠慮無く、ね」


「「は?」」


「死んでも蘇る、だから殺す。殺して殺して殺して、何度も死ぬ。その繰り返しだよ」


「待て。お前達は殺し合っているのか?」


「そうだよ。勿論制限もあるから回数は決めてるんだ。今日はもう訓練出来ないからこうやって帰ってきたんだよ。明日頑張ったら俺も何か技術力上がるかな?最近伸び代が無くてやる気下がってたんだけど、今日マコトの技術力上がったから、ちょっと持ち直したし…何が上がるかなぁ」


鼻歌でも歌いそうな程機嫌のいいトオルにヴィジューラは呆気に取られている。


そりゃそうだ。


蘇れるから殺し合うなんて、お前達人間の常識を投げ飛ばし過ぎてやいないか?


「トオル…痛くないのか?」


「ん?痛覚無効と状態異常無効持ってるから、痛くはないよ?ただまぁ、身体が動かなくなって意識が遠のいていく感覚はまだ慣れないけどね」


「どうしてそんな訓練始めたの?」


「どうしてって…ほら、俺ら弱いでしょ?このままだと番も弱い、なんて認定されたら堪らないもん。強いに越したことはないし、何より…」


「何より?」


「……色んな事覚えた方が、ヴィジュに褒めてもらえるし……昔みたいに…一緒に戦える、から……頑張ろうって、思っただけ」


「っ、トオル」


…………成程。


つまり、褒めてほしいし一緒に居たい、と。


「何?何してるの?俺も混ぜて、何してたの?」


服を着替えて戻ってきたマコトは、トオルとヴィジューラを見て俺の元へと駆けてきた。


「マコト」


「何?」


「俺は死んでもお前を誰かに渡す気は無い」


「へ?何?これから戦いに行くの?」


「マコトの未来永劫、隣に居るのは俺だ」


意味に気付いたマコトは顔を赤くしてしゃがみ込んだ。


そんなマコトの前に俺もしゃがみ、顔を上げさせる。


「愛してる、マコト」


「っ、狡い……」


「マコトは?」


「好き!」


「ふぅん?」


「あ、あぃ……あぁあ、言わない!言わないから!俺はTPOを弁える大人なんだからぁぁ」


俺の胸元に顔を埋めたマコトはうーうーと唸りながら俺の服を握った。


「言わなくても伝わるもん…俺だって同じだってレオ知ってるもん……ぅぅ、知ってるんだからァァァァ」


子供のような喋り方だが、確かにマコトは人間の年齢でいえば大人だ。


……俺から見れば、子供どころか赤子当然だがな……。


寿命の無い魔族である俺との年の差は……考えない方がいいだろう。


「マコトって本当君の事好きだね」


何を当たり前なことを。


「当たり前じゃん!あげないよ!」


「俺にはヴィジュが居るから大丈夫。デートに行くんでしょ?行ってらっしゃい」


「うん!行こ!レオ」




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