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アンさん

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人間×人間 将軍×元敵軍人 ⑤

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「ははは、お前とこんな仮面も付けずに雲のない晴天を見たの、いつぶりだ?」


「10年ぐらい前かな…覚えてないや」


額から垂れる血を拭い口角を上げる。


「1度目は、初めて戦争に参加した時だったな」


「2度目は、最後の一撃をかます時だと思っていた」


「3度目は、今」


「4度目は、未定、か?リウロ」


「はは、何度も死に目があってたまるかよ。ジャギィノ、俺らは勝ったんだぞ?」


「分かってる…俺らは、戦神と軍神だぞ。あと、俺の名前はシーヴィだ」


「それなら俺の名だってソラウィスだ。大人しく寝とけ」


「ばーかばーか」


満身創痍でありながら口から出る言葉は常に軽快だ。


死ぬかもしれないとか、死んでしまうとか。


分かってはいても受け入れてしまう。


国民性だ。これは。


最後の最後まで食らいつき、命の火が消える時まで諦めない。


結果、自分の命はそこらに転がっている石よりも軽く価値が無い。


死ぬのは怖くない。


怖いのは…忘れられてしまう事。


だから皆が歴史に残る様な爪痕を残したがるし、独自の文化が絶対になってしまった。


他者を受け入れられないが故に戦争を起こす器の小ささと心の狭さ。


他国の文化は異端で、他国の在り方は難儀だと悩むヤツらの気が知れない。


結局、主観でしか物事を見れない者達だと思われ、俺らは他国に馴染むのに相当時間がかかった。


……死ぬなら、未練無く死にたい。


「あーあ、告白しとくべきだったかぁ」


「今更何言ってやがる」


「いやぁ、未練がましい自分に酔いしれてるんだよねぇ」


「はっ、両片想いが」


「……うん?」


「生き残ればいいだけだろうが」


「ははっ、現状理解してる?」


「うっせぇ」


ぐにゃりと曲がる視界にぐらつき後ろに倒れ込む。


「アイギスに、怒られちゃうねぇ」


「怒られるだけなら、まだマシだろ」


「たいへんだぁ」


ヘラヘラと笑い、あの人の顔を思い出す。


猛烈で強烈な一目惚れだった。


戦時中に見たあの顔が忘れられなかった。


でも、他には興味を持てなかった。


普段の生き方も生活の仕方も本来の姿にも…興味は湧かずあの時の顔だけが鮮明で全てだった。


だって言うのに…今頃心配してくれる顔や驚いた顔、笑う顔に怒った顔が思い浮かぶ。


…本当自分って天邪鬼だ。


呼吸のおかしいシーヴィに、自分の治療を止め其方に注力する。


自分の治療は粗方終わってるから問題無い。


問題は、シーヴィが自己治癒出来る所まで、魔力が持つかどうか。


「悪ぃな、ソラウィス」


「気にすんな。いつもこうなんだ。慣れてる」


「くはっ、それじゃぁ俺がいつも問題児みたいだな」


「はっ、実際問題児だろ。まぁ、お前は俺よりキツい戦いばかりだからな。俺が押付けたもんの尻拭いぐらいなんて事ないさ」


「それが俺らに合った在り方、ってやつだろ。俺には戦う事しか出来ることはねぇんだから」


「俺だって、未来を見れなきゃなんも出来ねぇよ」


「似たもん同士だ」


「じゃなきゃ、ここまで一緒に生きてこれてねぇよ」


「同意する」


なぁ、シーヴィ。


もし、俺だけが先に死んだら…お前は俺の事を笑うか?


それとも怒るか?


死んだ後の事を考えるようになったのは…なんでだっけ?






ガーディver


「居た!大丈夫ですか?!シーヴィ殿!ソラウィス殿!」


激しい物音が止み砂埃が未だ舞っている森の中で、戦い負傷したであろう冒険者の2人を捜索していた。


前衛が発見した2人は地面に寝転がり何やら話し合っている。


「ああ、大丈夫、だ」


「おい、どう見てもお前は大丈夫じゃねぇだろ」


「うっせぇばーか」


「この!この!」


軽口を叩き合い、ゲシゲシとソラがシーヴィ殿を蹴っている。


「いてぇ!」


「ほーら、大丈夫じゃねぇなぁ」


「てっめぇ!いてぇだろうが!」


口先では元気だが、シーヴィ殿の身体はピクリとも動いていない。


「俺もいてぇわ、このデカ物」


足は動かせるようだが…血の滲む左腕は脱力して動くソラの体に連動して揺れるだけだ。


「怪我人が無理しやがって」


「てめぇもな!」


「2人とも!怪我人なんですから!動かない!」


アレオンに怒鳴られ2人は少し眉間にシワを寄せてから息を吐き出した。


…前々から思っていたが息ぴったりだな、この2人。


「ほーら怒られてやんの」


「おめぇも入ってんだよ。2人って言ってたろ。聞こえてねぇのかツンボ」


「ちいせぇくせに生意気なんだよチビ」


「オラッ」


「いっでぇぇ!!」


「動くなっつってんだろうが!」


アイギスの怒鳴り声に2人は視線を泳がせた。


「「ういっす」」


アレオンとアイギスでこれ程態度に差が出るのもどうなのか…。


ああ、それに…仮面を付けていない2人の顔をこうやってマジマジと見るのは初めてだが、かなり整った顔をしているんだな。


血が流れ大きな痣が出来ているのに、全くそれを気にしない様は少し異常だ。


「はーあ、しんどい。体重いし…おい、街まで運べ」


「こっち見て言うんじゃねぇよ。どう見ても俺よりお前の方がデカくて頑丈なんだからお前が俺を運べ」


「はあ?俺の方が重傷だぞ」


「あー、無理。俺か弱いから。絶対無理だわ」


「てめぇが弱かったら世界は破綻してるな」


…まぁ、確かにあの戦いを見た後だと、弱い様には見えないな。


「ああ?どこからどう見てもか弱くて保護欲誘うだろうが」


「あ?鏡見てから言えや」


「はーん、妬みですかぁ?」


「ちげぇよ!アホか!」


「は、どうだかっ、いっ、ちょ、いった。え、痛いんだけどアレオン」


「ああ、すみません。つい力が入りすぎたようです」


「え、痛たた、いったい。え?怒ってんの?いったぁぁああ」


「はは、ざまあ゙ぁぁあ、いっでぇぇぇえええ!!」


「はい、大人しくしてね」


「いた、痛たた、あ、まって、いったあぁぁぁあ…あ゙ぁぁあ、死ぬぅ、いづぁああ」


「いっだぁぁあ、もっと優しく丁寧にだな?!いだぁぁぁああ!!」


「大丈夫です。元気そうなので」


「そんな睨まないでよ。手当だよ、手当」


…大変だな。






「ああ、マジもげるかと思った」


治療魔法を受け治った左腕を擦るソラに、アレオンは頭を下げた。


「すみません。まさか本当に締めすぎているとは」


「後もうちょっとで腕無くなるとこだったんだけど…治療費払ってよね。ああ、もしくは一生責任取ってくれても良いよ」


……!


ピクリと眉が動きアレオンの顔を見ると、目が合った瞬間顔を青ざめながら横に振った。


「あ?お前ぐらいだぞ欠損治療出来んの」


「え?そんなわけないだろ。戦時中何回もお前以外はもっと早く出来るんだから周りに倣えって言われてたし」


「それ常套文句だろ。俺は見た時ねぇぞ」


「え?まじ?俺超有能じゃん」


「そういうとこなけりゃあな」


「は?お前怪我治ったらただじゃおかねぇぞ」


「安心しろ。少なくとも一ヶ月は安静だ」


「…頑張れ」


「お前もだよ!破ったらどうなるかはアイギスに聞いてみろ!」


「えー?俺も?……あ、えっと……寝まーす」


視線だけで何かを察したのかソラは顔を逸らして地面に寝転がった。


「え?大丈夫だよ?自由にしていいんだよ?」


「あっは、ま?…嘘です。ワタシ、ツカレテ、ウゴケナイ、ヨ…アハハ」


「本当?もし…ねぇ?分かるよね?」


「ういっす。安静にしてマース」






「待って待って待って、まさかこのまま街に入るつもり?!」


「ああ、そうだ。早く休みたいだろう?」


「ゔぁぁあ、まじか…まじか…」


「嘘だろう?!仮面無しで街に入るなど…予備持ってねぇのかソラウィス!」


「持ってたら付けてるだろ!持って…るわ、一個」


「よし、俺につけろ!」


「俺のだぞ?!」


「フードでも被っとけ!」


「てめぇ!クソが!」






「それで…あれは何ですか?」


「見たらわかるだろ」


「部屋の片隅で蹲っている様にしか見えませんが」


「仮面無しで街に入ったからな。お前らでいうと…裾の短いスカート履いてノーパンで街中に居たようなもんだ」


「……それは……なんというか……」






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