if物語

アンさん

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人間×人間 将軍×元敵軍人 ②

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ジンジンと痛む体に鞭打ち敵を見据える。


「何故!何故貴様がここに居る!リウロ・ジュガナー・・・・・・・・・!!」


ざわめく周囲を無視し、一歩足を踏み出す。


「俺に用があるんだろう?」


普段付けている狐面を投げ捨て、剣を引き抜く。


「貴様が!貴様が最後まで俺の言う通りに動けば!全て上手く行ったというのに!何故裏切った!」


「俺は最後まで掛け合った。全てを拒絶し、あまつさえ俺を非難し、退役クビ扱いしたのはお前だろう?」


「っ!!き、さまぁぁ!!」


「俺は受け入れただけだ。そして自由になった。俺はもう、何かに縛られて動けない人形じゃないんでな。何か文句があるというのなら、簡単な話。実力を示せ」


軍団相手に単騎で挑むのは初めてでは無い。


何度も戦い、何度も死にかけ、それでも戦う以外に道の無い俺は挑み続けた。


結果、後一歩で勝鬨を挙げられた…筈だったのに。


最後の最後に、コイツは欲に眩み勝手に作戦を変えた。


俺は反対した。


結果上官に逆らったとして情状酌量有りで国外追放に処され、仕方無しに海を渡った。


その後作戦の失敗を知り頭を抱えた。


別に守りたい誰かがいた訳でも、この命を捧げた相手がいた訳でもないから、特に何かを感じた訳でもない。


ただ、そうただ俺の積み上げた絶対的な勝者としての栄光を奪われ崩された事に頭が痛くなっただけだ。


それだけだ。


コイツは敗北した。


命からがら逃げ出してきたのか、新しくどこかの国と繋がろうとやって来たのか。


でも。


でもな。


勝利を挙げていたあの時なら許されていた行為も、敗北した今では許されないと理解するべきだ。


俺は私情もあったが、八割方は仕事としてここに居る。


不法入国者の排除若しくは捕縛を主に、この国の軍人達が到着する迄これ以上の進軍を遅延させるのが今回の仕事だ。


まぁ、話し合いの場が出来るから受けたのもあるがな。


俺の戦歴に泥を塗った阿呆の顔が見れる機会は、もう二度とないだろうから。


抜いた剣を構え、踏み出して来た者から順に片して行く。


簡単な仕事だ。


コイツらに戦い方を教えたのは俺だ。


コイツらに指揮の取り方や合図を教えたのは俺だ。


俺に通用する術をコイツらは持っていない事ぐらい、分かりきっている。


どれだけの期間一緒にいたと思う?


お前達に出来て俺に出来ない事など、ありはしない。






投げ捨て少し汚れた狐面を付け、ドサリと腰を下ろす。


慣れていても疲れはする。


死体の傍で一晩明かした時も敵の塹壕地で身を潜めていた時も有るけれど、体力よりも魔力と精神力が削られる感覚に疲労感は拭えなかった。


乱れた息を整えながら、空を見上げる。


戦争をしていた時よりも肩の荷は無く楽に戦えた。


死ねば国が潰えると云う思いを持たずに戦える今は気楽に事を進められる。


雲のかかる青空に、少しの呻き声。


……戦争の時は常に爆音が響いていた。


そんな中小さな呻き声や多少の愚痴は溶けていき拾われる事無く消えていく。


「はは、ほんと、ばか」


パンッと乾いた音の後に倒れる音が聞こえ腕を下ろし植物を生やして倒れているヤツら全員を蔦で簀巻きにする。


今更一人や二人殺したとて何にも思いはしない。


簡単に人を殺せる武器を持たせて、馬鹿なヤツがどう扱うのだとか、上のヤツらは気にした時もないのだろう。


武器は玩具ではなく誰かを傷付け殺す物だ。


脅す為でも強さを示す物でも無い。


……結局、戦争なんて…終わりがある。


勝つか負けるかは、最後まで気を抜かずここぞと言う時に物事を決められる者が決められる。


……俺は役不足だった、それだけだな。


森の方から聞こえる騒音に目を開ける。


さて、俺の仕事はここまでだ。


尻に敷いた男の恨みがましい目を見て口角を上げる。


何時までも子供のようなこの男に国の命運を預けた上の気持ちなど、俺には一生理解出来そうにない。


「ふっ、ははは、ばかはばからしく、いのちごいでもしてろ」


呂律が回りにくい。


視界が歪み耳鳴りが大きくなってくる。


三日間の強行からくる疲れからか頭から血の気が引いていく。


……あーあ、もしここが戦場だったなら、俺は苦しむ事無く死ねたのかもな。


例え勝てる相手であったとしてもこれだけの軍団相手に戦ったし、昨日までは森の中で野宿をしていた。


流石に真面に寝れていないと体調が崩れる。


「冒険者殿!」


前回軍基地で会った将軍の声が聞こえ顔を上げる。


「一人か?!怪我は?!」


「ああ、そうだ。もんだいない」


「アレオン、周囲を確認しろ!冒険者殿、本当に大丈夫なのか?」


「もんだいない。しんようがないな」


「前科があるからな」


「……そうか」


くわ、と欠伸を落とし伸びをする。


「かたづけはまかせる。おれはさきに「冒険者殿」なんだ」


「無理をしていないか、と聞いている」


低い声に何をと思う。


「もしむりをしていたとして、きでんにはかんけいないだろう」


目を閉じていても時折光る何かに嫌気がさす。


目を開けると想像以上に近い顔に、頬が引き攣った。


「そうか」


グラリと傾いた視界に驚き身を固める。


「暫し木陰で休んでいると良い。動くな。良いな、冒険者殿」


有無を言わさない声にヒクリと喉が鳴る。


「わかった」


まさか人生で二回も横抱きされるとは思っていなかった。


波乱だな、人生は。






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