if物語

アンさん

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人間×人間 将軍×元敵軍人 ①

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人間   「ガーディ」   ×   人間   「ソラウィス」



曇天の空模様を見ながら買ったばかりのパンをちぎって食べる。


こういう日は、決まって何か起きるんだよな。


騒がしい街中に、何人もの足音が際立って聞こえる。


……俺に関係無ければ、良いんだけど。


そう思った瞬間に光った通信石にため息を零す。


……今日はついてない。


朝から喧嘩に巻き込まれ、頼んだ食事は床へと吸い込まれていった。


気分転換に外に出れば曇天で、屋店は殆どが祭りの準備中で閉まっている。


……仕事内容が楽であればまだ救い様があるけれど…希望は持たない方が良さそうだ。


通信石が緑から赤に変わり、立ち上がる。


強制要請は断れないんだよな。


最後の一切れを口に放り込み、ミルクで流し込む。


さて、一仕事しますか。






これは中々に酷い惨状だな。


刺傷に切傷、銃創に火傷…治せなくは無いが魔力が持つかどうか…。


「ここに居る兵達を治して欲しい。完治じゃなくとも構わないが、出来るだけそれに近い形で頼む」


何人もの治療師と補助術士が魔力切れ寸前状態で壁際で休憩している。


成程……これでも一応応急手当をした後って訳か。


雑で目も当てられない物だが…まぁ、即席であれば上々、か。


「魔力回復薬は支給されるのか?」


俺以外に呼ばれたもう1人の冒険者が声を上げる。


「勿論だ。補助術士も派遣する」


渡された回復薬の品質は良くなさそうだがないよりマシだな……使わないに越したことはないが。


補助術士も居るなら特に問題無く終わるだろう。


俺は割り当てられた治療場へと案内され、更に眉間に皺を寄せた。


さっきの所よりも酷く、かなり臭う。


衛生面が全くもって良くない最悪だ。


補助術士や治療師が限界なのは分かるが、衛生兵は居ないのか?


それとも、ここよりも酷い現場があるのか……。


まぁ、だが仕事だ。


切り替えろ、俺。


息を吐き出し近場の人間から魔力を流して怪我の状態を把握し、治療を開始する。


「解熱の補助を。点滴を右腕から左腕に変えてくれ」


割り当てられた補助術士に指示を出し、深い傷から治していく。


「りょ、了解」


濡らしたタオルで体を拭き始め、驚いてピクリと指先が跳ねた。


術式と治療者の間に入られたら困る。


「魔法は?使えないのか?」


「その…魔力不足で……すみません」


「じゃぁ解熱はいい。点滴だけ頼む」


「了解」


三重に治癒魔法を重ね自然治癒出来る所まで治し次の人に移る。


何度も同じ様に治していき、約20人弱を治癒し部屋全体に清浄魔法を掛けてから担当者に報告し、邪魔にならない壁際に腰を下ろした。


流石に魔力をこれだけ使うと疲れるな。


回復薬は副作用があるし、飲まずに済んだ以上良好か。


髪飾りを弄りながら魔力切れによる吐き気を堪える。


取り敢えず、魔力が一割位回復するまでは誰も近寄らないで欲しい…切実に。






ーガーディver


「報告します。第一軍四番隊の治療が終了しました」


「やけに早いな?」


「かなりの腕の持ち主だったようで、治癒魔法を重ね掛けし、補助術士への負担も最小限に抑える事が出来たようです」


それはまた、中々に良い人材だな。


重ね掛けが出来る等、一握りの逸材だ。


「そうか。確認へ行く」


四番隊はかなりの惨状だったが、皆殆ど完治しているとは驚いた。


これだけ早いのであれば、多少の後遺症等を想定していたのだが……。


それに、部屋が綺麗になっている?


「術者は治療後治療場を魔法で洗浄し、現在魔力回復の為彼処で休まれています」


指差す先には狐のような顔上部を覆う面を付けた男が壁にもたれ掛かり少し長い横髪の髪飾りを弄っている。


隊員達を見て周り、異常がない事を確認してから術者の元へと足を向けた。


「冒険者殿。此度は助かった、ありがとう」


「どういたしまして」


ヒラリと片手を振り口元を綻ばせる男は、言い難い何かに似ているなとふと思った。


「魔力が回復するまで客間に居ると良い。案内しよう」


「あー、いや、良いよ。悪いけど、俺今動けないし」


「動けない?」


「流石にこれだけ派手に魔力を使っちゃったから、魔力切れ起こしててね。回復したら勝手に軍基地出てくから気にしないでいい」


ヘラりと男が笑うが、ガンと頭を殴られたかのような衝撃が走った。


「魔力切れ?!魔力切れになるまで魔力を使ったのか?!魔力回復薬は?!」


魔力切れなど、ぶっ倒れてもおかしくない状態の筈だ。


「あはは、まぁ、何とかなったし気にするなって。回復薬はほら、副作用がしんどいし、返すよ」


顔が白いなと思っていたが、これは青白くなっているのか?


「バカを言うな!魔力切れの方が辛いに決まっているだろう!」


「んー?魔力回復薬は副作用かなりキツイぞ?体力回復薬と違ってな。使った時無いのか?」


実際使った時は無いが、そんな馬鹿なと後ろに居る副隊長アレオンを見ると頷かれた。


「魔力回復薬はあまり治験されませんからね。需要が無いから治験せず、治験が無いから改善されず、改善され無いから使われず需要が無い。悪循環の一途を辿っています」


「そんな、まさか……それでは、一体上は何の治験を繰り返しているのだ……」


「そりゃ、体力回復薬の方だろう?需要があって、効果が上がれば更に売れるんだから。あと、味もな。魔力回復薬は本当に不味い。効果も薄いし副作用は強い。だから誰も好き好んで使わないって訳」


「では、冒険者殿…何か望むものはあるか?回復の手助け位は出来よう?」


「え、いや、大丈夫。座ってれば大体回復するし」


「寒くはないか?喉は乾いていないか?」


「あれ、聞こえてなかった?大丈夫なんだけど」


「何かあるだろう?」


「えー…ええー……あー、じゃぁ、水」


「任せなさい。アレオン」


「了解です」


副隊長のアレオンに任せ冒険者殿に背を向けると後ろから「……はぁ……」と少し重い息遣いが聞こえた。


振り返り冒険者殿を確り確認すると、手が僅かに震え半分しか見えない顔の色が悪く正常な呼吸をしているように見えない。


息を詰めゆっくり吐き出す様はまさに何かを隠す息遣いだ。


……魔力切れ……俺はなった時は無く隊員の状態を見てきただけだ。


だから俺自身辛さなど分かりはしないが、これはあまり良くないのではないか?


「大丈夫か?冒険者殿」


「あ?ああ、大丈夫。大丈夫」


これ、大丈夫じゃないな。


「アレオン」


「はい。冒険者殿、面を外しても良いですか?」


「良くない。大丈夫だと言っている」


「客観的に見て大丈夫だとは思えません」


「回復する迄は放っておいてくれ。喋る方が…あ、いや、何でもない」


しまったと言わんばかりに口を覆い、顔を逸らした冒険者殿に無理をさせてしまっていた事を再確認する。


「辛いんですね?魔力を多く含む食物を持ってきます。横になっていてください」


「……え……いや、良い」


床は好ましくないという事か?


「少し失礼する」


細身の冒険者殿を抱き上げ、客間へと向かう。


「アレオン、第二室だ」


「了解しました」


身を固め困惑する冒険者殿を出来るだけ振動を与えずに運ぶ。


「あー……その、この抱き方どうにかならないか?」


「腹部を圧迫すれば辛かろう?気にするな、第二室はすぐそこだ」


また固く息を吐き出した冒険者殿にイラつきが募る。


いや、冒険者殿は全力で兵達を助けてくれた。


こちらが怒るのは間違っているだろう、が…それでも身を削って迄無理をさせるつもりは無かった。


ただでさえ冒険者と我ら軍人では考え方が違い捉え方も違う。


もう少し砕いた説明を今後はしていくべきだろう。


魔力切れで亡くなった者は少なくないからな。







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