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妖怪×妖怪 大天狗×オニ ⑦
しおりを挟むあれから数ヶ月。
あの黒い塊から、アオがやっと出てきた。
「あー、腹が減った」
そう言って俺の腕を切り落とし、食いつく様はまさに“オニ”だった。
「もう少しだな…節操を持たぬか」
「よく言えたな。僕はアゼツの阿呆みたいな妖力のせいで、生死の境をさ迷ったんだ。しかも最上位種に進化してしまったんだぞ」
「…悪かった」
「素直なのは良いけど、流石に僕も今回は無理だと思ったんだからな」
俺の腕だったものを噛み千切り、食ったそばから己の妖力へと変換していく。
進化には、多大な負荷がかかるがそれ以上に強くなれる。
結果、今のアオは今までよりも強くはなったが万全な状態になるにはまだかかるだろう。
「生肉は好きでないが、大天狗の肉ともなれば中々に美味だな」
「普通は食わんものだ」
「普通はな」
ゴキ、バキ、と音を鳴らしながら骨まで食う姿は…まぁ、嫌いではない。
切られた腕を再生させ、アオに近寄る。
「妖力なら、俺が与えるというのに」
「触るな、僕は許していない」
手を振るい払われ、肩をすくめる。
牙を伸ばし、口元を赤く染めるアオはかなり魅力的だ。
「そう怒るな」
「僕は実力で進化したかったんだ。知っていただろう」
べロリと口元を舐め、肉に齧り付くアオ。
はぁ、と熱い息を吐き出すとアオは顔を引き攣らせた。
「その顔も良い」
「僕はアゼツの趣味を疑うよ」
ギィギィと暁達が騒ぎ、アオは立ち上がった。
「湯殿へ行く。アゼツも来い」
全てを腹に収めたアオは、こちらを睨みつけるような目をしながら言う。
「ああ」
…どうやら、重石の役は解雇ではないらしい。
粗雑に血を拭うアオを見て、暁達がまた騒ぐ。
その様相を見た控えていた烏天狗達が腰を上げる。
「良い、下がれ」
烏天狗達を下がらせ、内湯へ向かう。
「内湯は好まんのだが」
「外湯は枯れておるぞ」
「は?」
「アオが居らんのなら、外湯なぞ不要故に」
「壊したな。この阿呆が」
ゲシと足を軽く蹴られる。
「何、アオからの接触は良いのか」
そう笑うと、また眉間に皺を寄せた。
「アゼツ」
俺の名を呼び足を止めたアオの目を見つめる。
「僕は、進化した。強くなっただろう?」
「む、そうだな。万全ではないがな」
暁達から面を手渡され、迷いなく付けたアオは口角を上げ俺を見る。
「で、あれば…言うことがあろう?」
「言うこと?」
顎に手を当て思案する。
「愛している」
「我も愛しておる。だがな、そうではない」
そうか、嫌われてはいないのか。
「祝言はいつあげる?」
「我は今その話をしたい訳では無い」
「あげるだろう?」
「先の話は今は良いと言うておる」
では、何を言って欲しいんだ、と頭を捻る。
「誠に…アゼツの思考は理解出来んな」
俺の手を取り歩き出したアオは、溜息を漏らした。
「何だ」
「もう良い。後で他に聞け」
内湯に着いた瞬間に服を全て脱ぎ、そのまま湯に入るアオ。
「む、良いのか」
普段であれば、掛け湯をしてから湯着を着て入っていたのに。
「はっ、内湯は既に汚れておろうが。我は忘れておらんぞ」
ああ、そういえば…あったな。
オニにとって湯は神聖なものらしく、湯の中で事に至るは不潔とされ、それを見たアオは酷く内湯を嫌悪していた。
湯を捨て清掃を徹底させたが、それでもやはり距離をとっている。
「故に好まん…早う近う寄れ」
湯の真ん中に座り、催促するアオは本当に綺麗だ。
アオの膝裏まである長い白い髪が湯に浮かび、それを暁達がせっせと洗っている。
「それで、何を拗ねているのだ?」
「拗ねてはおらん」
湯に浸かっても面を取らない時点で拗ねているか怒っているかだろうに。
「ただ」
俺の胸元に頭を預けたアオを横抱きで抱き締める。
「気に入らんだけよ」
そう言って、弛緩した身体。
この状態になれば、もう言葉は通じないだろう。
肌を通して妖力を送り続け、一刻ほどゆっくりと湯に浸かっていた。
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