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魔王の側近×猫型獣人? ③
しおりを挟むニコニコと、あの日のように笑う不死鳥。
押し付けられた両手を解放しようと動かそうとするが、力が強く恋人繋ぎのように握り直されてしまった。
「嬉しそうだね」
「もちろん。トオルが帰ってきたから」
「…帰って、きた…」
真面に能力を使えない今、思考は全て読まれているだろう。
それでも、思案してしまった。
俺がもう「リク」では無い事を、あの別れの日を。
「トオル、トオル。俺は嬉しい」
そう笑う不死鳥は、俺が「リク」だった時のように俺の頬に擦り寄る。
「怒ってるね」
「うん、嬉しいし、怒ってるし、悲しい」
いつもは隠している感情が、「リク」の前では晒されていた。
無表情で何を考えているか分からない…そう、他の魔族には思われている不死鳥は、「リク」の前では何も取り繕わなかった。
それが今、俺に向けられているのは…どうなのだろう。
「トオル、撫でて、触って、トオル」
右手が離され、不死鳥の離れていった左手が俺の頭を抱き込む。
…本気の甘えモードに移行したようだ。
だが、いくら待っても俺の右手が動くことは無い。
「トオル?」
不思議に思ったのか、不死鳥が頭を上げ俺と目を合わせる。
「触れない」
「何で?」
「…触れない、から」
今の俺では、不死鳥の望む全てを察して動くことは出来ない。
不死鳥の許しがあっても、不死鳥の身体に触れるのに魔力や体力が馬鹿にならないくらい吸われるし、何より未だ踏み込めない理由がある。
「トオル、あっちの音聞こえる?」
思いついたかのようにそう言われ、不死鳥の視線が動いた方に意識を向ける。
そっちから聞こえた声に、さぁと血の気が引いた。
「な、なに、を」
聞こえた声は、間違いなく「リク」の雄叫びと「シン」の遠吠え。
あの、鳴き方は…。
「何を、してるの」
「ん?んんー」
悩むかのように頭を傾げ、また俺の首元へと顔を埋めた不死鳥は、鼻を鳴らして笑った。
「お仕置」
そんなわけない。
あの鳴き方が、お仕置なんて可愛らしい名前の物なんてあるわけない。
拷問、の間違いだろう。
「俺にとって、番は1人だけ。なのに、あの獣人達煩かったから」
魂は違えど、記憶は引き継がれている。
だから、あの二人の反応は間違っていなかっただろう。
それが、魔王と不死鳥に通用するかは、別として。
…俺たちの、せいなのだろう。
「トオル」
ウットリと俺の頬に手をあて撫でる不死鳥は、先程よりも機嫌が良さそうだ。
今頃痛みだした手を一瞥してから、不死鳥の目を見る。
「よく、我慢出来たね」
ふふ、と声を漏らして笑った不死鳥は、機嫌良く髪の間から伸びた触角を揺らし目を細める。
遠くに居るマコトは、全てをさらけ出し受け入れられていた。
俺もそうなるという保証はなく、死ぬと分かっていてここに来た。
…番とは、一体何なのだろう?
魂なんて分からない。
魔族とは似ても似つかない種族である獣人から、今やただの人間になってしまった俺では、魔力の質すら分かりはしない。
だから、どんなに悩んでも、答えは出ないのだろう。
…マコトの犠牲で知れたことは、役立てようか。
「君は、どうしたいの?」
俺も、マコトと同じように全てをさらけ出そう。
少しでも、不死鳥の記憶に残れるのであれば、このまま焼き尽くされても構わないから。
「全てを教えて?」
じわりじわりと接触した部分から魔力が入ってくる。
昔であれば拒絶した行為も、今の本当の姿であれば受け入れられる。
「記憶を見て。俺は口下手なんだ」
そう言い残し、能力で触れないように不死鳥を横向きに寝転がして、その横に寝転がって目を瞑る。
例えどんな未来が訪れても…今の俺なら悲観せずに居られそうだ。
不死鳥の温かさに身を任せ、俺は意識を手放した。
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