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魔王×狼型獣人 ①
しおりを挟む魔王 「レオル」 × 狼型獣人 「シン」
ガンガンと鳴る扉を必死に押さえつける。
「開けろ!」
「やだ!」
「なんでだ!」
「やだから!」
滅茶苦茶強い力で引かれるけど、体重を掛けて何なら身体強化も使って耐える。
尻尾は既に股の間に入り込み、膝が震え出す。
「もう一度言う、開けろ」
「ぅぐ、やだ」
無尽蔵に持っているのではないかと言うぐらいの魔力を放たれ、扉越しだが圧力を感じた。
「シン」
「やだ、怒ってるもん、絶対やだ」
「怒らなければ開けるのか」
「考える」
いや実際には考える余地もないのだが。
間違いなくあっちが本気を出せば、この扉どころか壁も消え失せるだろう。
それでも、今、譲る訳にはいかない。
あの時のことを思い出し、胃液がせり上がってくる。
鍵を閉めた扉から手を離し、蹲る。
「うえ、え、ぅげほっ、ごほっ」
鼻の奥がツンとする。
黄色い液体を吐き出し、口元を手で覆う。
「え、あ、んぐ、うゔ」
気持ち悪い、気持ち悪い。
「シン?」
思い出したくない、ちがう、レオは、違うのに。
気持ち、悪い。
暗い部屋で、ベッドに寝転がるレオに近付く。
「どうした?」
縁に座り、顔を凝視していると、月に照らされた綺麗なレオの顔が不思議そうにこちらを見た。
「なぁ、レオ」
ベッドに登り、右手でレオの左手を強く握りこむ。
ああ、俺って、本当…。
「俺な、俺」
レオの右手が俺の頬を撫でる。
その手の上に俺の手を当て、目を閉じる。
思い出すのは、この世界で出来た思い出。
この世界の子供の身体に乗り移ってしまった事。
「リク」と一緒に6年間冒険者として生きてきた事。
何故か近くに居た勇者と共に魔王城に召喚され、レオと戦った事。
レオと、恋仲になれた事。
良い思い出も、悪い思い出も。
「生きる」事がこんなに凄い事なんだと、俺らは知った。
レオと次に進むかは、この身体の持ち主に託そう。
あの時、この世界に来る前に会った、名も知らぬ方。
その方が残した、俺らに対しての慈悲。
『忘れないで。君達は、ーーになるべきなんだ。だから、もう少しだけ、頑張ってみようよ。この世界で。ーーだと思ったら、そう言ってみて。帰れるように、しておくから』
これは、俺らに付けられた、呪いだ。
「ーー」だなんて、こうやって一緒に居てくれると言われた時から、思っていた。
でも、勇気がなかった。
まだ、一緒に居たかった。
…ああ、うん、もう、良いだろう。
きっと、「リク」も今頃俺と同じ様に思い出に耽って、伝えようとしているんだろう。
ありがとう、レオ。
俺の、最愛の、魔王様。
「俺、すっごい、「ーー」だ」
そう言って、レオに抱きつき、首元に顔を埋め息を吸い込んだ。
俺、レオの匂いが好きだ。
レオの時折見せる笑顔も、冷酷な姿も、酔って赤くなった顔も、俺を呼ぶその優しい目も。
全部、全部…大好きだ。
「あいしてる」
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