ペットになった

アンさん

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クロと祭り 二

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騒がしい中で平然と眠るクロは俺の腕の中でいつも通りぷうぷうと鼻息をたてている。


半分回った所でクロの腹が膨れ昼寝を開始したのだ。


クロが寝てからやれ飾り屋や的当て屋、くじ引きにオナミと呼ばれる小魚の魚すくいに奔走する母さんと、寝たクロを色々な角度から撮るライージュに連れ回されアッチコッチと多くの出店を見て回った。


寒い季節の筈なのだが、人の多さの所為か暑く感じ時折吹く風が心地いい。


「ねぇ、そろそろ小腹が空かない?クロちゃん起こして何か食べましょう?」


「いや、クロはもう夜まで食わないだろうから、家に帰る。ライージュと母さんはまだ祭りを見て回るなら、別行動にしようか」


「えー…せっかく……まぁ、いいわ。明日も明後日も時間はあるんだから……ライージュは?」


「十分撮れたし、見直したいから俺も帰る……いや、まだ食べさせていない料理を買ってから帰る。クロちゃんとルーシは先に帰るといい。母さん、一緒に探しに行こう」


「そうか?」


「食後のデザートも任せてちょうだい。さ、行きましょ。たくさん買ってクロちゃんに「ちょうだい」を覚えさせないと。きっと可愛いわぁ」


「芸か。きっとすぐに覚えるだろうな」


何やら楽しそうに歩いて行く二人に後は任せ、帰路に着こうとするが人通りが多く前に進めない。


至る所からカメラの音がし、フラッシュがたかれ少し眉間に皺が寄る。


クロを撮るのは好きにしたらいいが、フラッシュとカメラ音は無くすように喚起した筈だが……。


仕方無しにと母さんがクロ用に買った羽織をクロの頭からかけ周りから見えないようにする。


安眠妨害は良くない。






家に着くと同時にクロは起き、トイレへと入っていった。


クロを飼い始めた頃……トイレの訓練など一切させていないのに、トイレの使い方を知っていて驚いたな。


確かに店員に訓練は必要無いと言われたが……トイレ用シートの上でするものだと思い込んでいた。


自分でズボンとパンツを下ろし、用が終わればちゃんと水を流すし、手もしっかり洗う。


外でトイレに行きたい時は「チー」と鳴く。


勝手にそこらでしないし、漏らす事も無いから本当に手がかからない。


……流石にウォシュレットは使っていないみたいだが…使い方を覚えさせれば使うのだろうか?


トイレから出てきたクロはいつものクッションの所まで行き、置いてあった毛布を被って二度寝を決め込んだようだ。


鼻息をたて気持ち良さそうに眠りだした。






大量のお土産を買ってきた二人は早速クロの前に食べ物をチラつかせ、何かを言っている。


「クロちゃん、ちょうだい。ちょ、う、だ、い、よ」


両手を前に出して上下に振る仕草を覚えさせようとする二人に、「なぁ」と声をかける。


「何?今忙しいの」


「それ出来るぞ」


「……え?」


二人が勢いよくキッチンに立つ俺を振り返った。


「出来るぞ、それ」


「ちょうだい、覚えてるの?」


「ああ。目の前で二回大きく上下に振ればするぞ」


その言葉に二人は顔を見合わせ、クロの前で手に持った紙袋を上下に振った。


「何で覚えてるのよ!天才ね!天才だわ!」


「どうやって教えたんだ」


「どうって……散歩の途中でお菓子を貰うのに手を前に出して鼻息をフンフン鳴らせば貰えると知って自分でしだしたが?」


「……食欲か?腹が減ってたのか?」


「まぁ、散歩前は何も食べていないからそれもあるだろうが……でも、散歩中は何も食べずにクッションの下に隠した箱に大切に保管してるぞ。時折食べているが、貰える量の方が多いからもうすぐ溢れそうだ」


「……」


貰った食べ物を抱えたクロの死角から手を伸ばす母さんに「勝手に取ると嫌われるぞ」と落とせば、その手をさり気なく引っ込めた。


「……食べきれない分を隠す習性があるのだとしたら、不向きな習性ね。ヒトって記憶力殆ど無いから……無い、わよね?」


「さあ?クロは結構頭がいいと思うが……他のヒトを飼った時が無いから比べられない」


紙袋からベビーカステラを取り出しポイポイと口に入れていくクロに、全員の視線が行く。


「……とりあえず、今日の夕飯はこの大量の焼きそばとお好み焼きでいいよな?何故こんなに買ってきた?」


目の前には何十人分かの焼きそばとお好み焼き。


そりゃ大荷物にもなるだろう。


「……だって……」


「母さんが匂いに釣られて止める間も無かった」


「お腹空いてたんだもの。仕方ないじゃない」


まぁ、この量なら無くなるだろう。


……クロが味に飽きなければいいが……どうなるだろうか。


結果、前に出された物は自分のモノだと言わんばかりに頬張るクロは誰よりもお好み焼きにがっついた。


どうやら気に入ったらしい。


「……目玉焼きの乗ったお好み焼きにしか目が行っていないように見えるが……お好み焼きが好きなのか?目玉焼き単体か?」


「分けようとするな、ライージュ。目玉焼きしか食わなくなるだろうが」


「卵が本当に好きなのねぇ」


ヒョイヒョイと自分の目玉焼きをクロにやる母さんの所為でクロは母さんに目を付けたらしい。


「あらあら、そんなに見てももう無いわよ」


母さんの皿を覗き見てフンフン鼻を鳴らしている。


「その黄身のかかった場所を寄越せって言っているようだ」


「……意外とがめついのね」


焼きそばの上に目玉焼きを乗せて渡せば、それもスルスルと食べてしまった。


「……卵があれば何でも食べるんじゃない?」


「…………卵は栄養が詰まっているからいいんだ」


何はともあれ沢山食ってくれた事に変わりは無い。


「明日はどんなお店が出るのかしら?とっても楽しみだわ。ああ、あと…クロちゃんの服も明日は違う物にしましょうね?」


明日も大変そうだぞ、クロ。


「朝食はオナミの天ぷらで」と言った母さんに、朝から揚物か…と肩を落とした。


油の処理云々の前に、朝食には少し重くないだろうか?


まぁ、ライージュも反論は無いみたいだから、構わないか。


なら、寝る前に米を研いでおいて……副菜と汁物はどうしようか……。


明日の朝食に気を取られ、気付けば俺の皿から目玉焼きが無くなっていた。


「母さん?」


「だ、だって……クロちゃん、上目遣いでコッチを見てくるのよ?あげちゃいたくなるじゃない」


「俺の皿から勝手に取らないでくれ。クロが覚えたらどうしてくれるんだ」


「悪かったわよぉ」


……こっちはかなり騒がしいが、父さんは今頃、一人きりの夜を過ごしているのだろう。


……静かに酒飲みしてるんだろうな。


帰る機会があれば、酒でも手土産にしようか。


クロも一緒に行く事になるだろうから、父さんのヒト嫌いで一悶着しそうだが。




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