ペットになった

アンさん

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クロの警戒

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朝早く鳴ったインターフォンに、クロは飛び上がり辺りを見渡した後俺の足に抱き着いた。


それでいいのか、と思いながら画面を見ると、見た時のある二人に、そういえば、と思い出す。


祭りがあるから泊まらせてほしいと言われていたな。


新しい住所を教えた記憶が無いのだが、何故分かったのだろうか。


『おはよう、リュルーシ』


「ああ、今開ける」


グルグルとクロが警戒するが、遅いし格好が怯えた子供のそれだから全然迫力が無い。


抱き上げ、目を合わせるとペタリと俺の肩に頭をくっつけた。


落ち着くのも早くなったな。


……あの二人を家に入れたら、クロはどう反応するのだろうか。






「はー、やっと着いたわぁ」


「長旅お疲れ様」


「ルーシ!」


「どうした?」


「その子!クロちゃんだろ!?俺写真撮りたい!」


「あまり大声出すとクロが怯える」


「クロちゃんの写真撮りたい」


そんなにヒト、好きだったか?


「もう少し慣れたら、近くで撮るといい。今はまだ警戒しているからあまり近付かないでくれ」


服を強く掴み、グルグル喉を鳴らすクロは眉間に皺を寄せている。


「吠えない子なのね。声帯を除去したの?」


「いや、していないから鳴きはする」


「そうなの?それにしても、ヒトらしい匂いがしないわね」


「クロちゃんは綺麗好きだから毎日風呂に入ってるんだ。消臭剤も好きだから、毎日自分のクッションに撒いてるのも知ってる」


「クロからすれば芳香剤に近いのかもしれない」


「クロちゃんの好みはぶっ飛んでるからいいんだよなぁ。あぁー、念願の生クロちゃん。俺ルーシの弟でよかった」


「お前やけにクロの事知っているな?」


「推し!クロちゃんは推しなんだ!」


「声」


「クロちゃんの動画も写真も何度見返したか。あー、可愛いー」


昔はもっと無口で無愛想でとてもじゃないが……一体全体何があったっていうんだ。


「ライージュ、少し離れなさい。貴方だってクロちゃんに好かれたいでしょう?」


「離れたら見えない」


「お前のそういう所は変わらないんだな。取り敢えず荷物を置いて何処かに座れ」


茶くらい出そうとキッチンへ移動し、クロを下ろす。


そそくさと寝床へと戻ったクロはホットドールと毛布をクッション下へと移動させ、クッションの上に座りこんだ。


……奪われると思ったのか、自分の物だと主張しているのか。


ライージュはカメラを鞄から取り出し構えだしたし、母さんは部屋を見て回っている。


「ねぇ、リュルーシ」


嬉しそうに笑う母さんが俺を呼ぶと、


「りゅる?」


とクロが後を追うように鳴いた。


「えっ?!誰?!」


聞き馴染みの無いクロの声に母さんは辺りを見渡し警戒を始めああ、と言葉を落とした。


「母さん、大丈夫。クロが鳴いただけだ」


「クロって、クロちゃん?クロちゃんがさっき声を発したの?」


「んーるぅ…ぐるるるる」


少しずつ近寄るライージュに対し喉を鳴らし威嚇を始め、ダンッと床を蹴った。


「ライージュ、そこまでにしておけ。クロが床を鳴らすのは怒っている証拠だ」


「蹴り技がこの目で見れるなら本望だ」


「一生懐かれない覚悟なら仕方ない」


「……一生……」


もう一度床を蹴ったクロに、ライージュは一歩下がった。


こう見るとクロもヒトだったと思い返される。


普段があまりにも他のヒトとかけ離れている所為で、最近はご近所さんに子供のように扱われているし。


カラカラと氷の入ったコップを揺らせば、クロがチラチラとライージュを見ながら寄って来た。


「ほら」


クロにホットミルクに苺とミルクで作った氷を入れたコップを渡し、俺はお茶と茶菓子を盆に乗せて机に運ぶ。


何度もライージュを見ながらある一定の距離を保ちつつ寝床に戻ったクロは、クッションの前に座りゆっくりとミルクを飲みだした。


「あらあら、ライージュの事嫌いなのかしら?顔はそっくりなのに」


「…俺の何がダメなんだ?」


「自分の領域に入り込んだ異分子だとでも思っているんじゃないか?」


「それだったら何で母さんには威嚇しないんだよ…俺だけ……」


「やだ、私近寄ってないもの。一緒にしないでちょうだい」


母さんにからかわれさらに肩を落としたライージュに対し、クロは落ち着いたようでミルクを一心に飲んでいた。


オカワリもして満足したらしいクロはホットドールを取り出しクッションの上で寝に入った。


「写真……クロちゃんの寝顔撮りたいぃ」


「寝ている間なら気にせず近寄っていいぞ。起こさない限り昼まで寝るだろうから」


「昼まで?クロちゃん昼行性だろ?」


「食事とトイレと散歩と風呂以外基本的に寝ている。医者曰くどうやら子供のヒトはよく食ってよく寝るらしい」


「寝ている写真が多かったのはそういう事かぁ」


遠慮無く近寄ったライージュはクロの写真を何枚も撮り始め、母さんと同じタイミングで溜め息が漏れた。


「売れっ子の写真家なんだよな?」


「ええ、そうよ……そのハズ、よ」


無言でだらしない顔をしながら体勢を変え何度も撮り直すライージュはとても楽しそうだ。


「さっき、嬉しそうに何を言おうとしていたんだ?」


「あの子。どうなったのかなって。匂いがしないから」


「…………さぁな」


「貴方も知らない、何て事無いでしょう?」


「……まぁ、この街には居ない。それは確かだ」


「そう。また現れたら…どう始末をしようかしら」


「気にしなくていい。どうせ、世間では有名人だ。そうそう表には出てこないだろうよ」


「ならいいけれど」


軽快に笑った母さんの目は、獲物を狙うかのように細められていてまた溜め息が漏れた。


クロを飼い始めてから考えていなかったが、彼奴とはもう会いたくない。


本当に面倒で逃げ回った結果ヒトを飼うなんてとち狂ったんだ。


まぁ、逆にクロに会えたからちょっと目を瞑ったとして…いや、打ち消せない程には鬱陶しかった。


無理だ、考えないでおこう。


頭が痛くなりそうだ。


「明後日のお祭り楽しみだわ。沢山食べちゃうんだから」


「三日程続くらしいが、毎日行くのか?」


「当たり前じゃない。日によってお店が変わるらしいの。行かなきゃ損よ。クロちゃんも連れていくでしょう?沢山食べさせてもっと太らせないと。細すぎて心配だわ」


「毎日沢山食べさせているんだが…太らないんだ」


「リュルーシも小さい頃は沢山食べても太らなかったから、一緒でしょ?そうだ、クロちゃんの服見に行きましょう!お祭り用に!ライージュ、貴方のセンスが光る時よ」


「……聞こえていないようだ」


「クロちゃんが起きてからにしましょう…当分あのままよ」


また溜め息をついた母さんは茶菓子を口に入れ美味しい、と言葉を落とした。


そうだろう?


クロ用に作ったんだ。


クロも美味しそうに食べてくれた自信作だ。


そう母さんに言えば、貴方も貴方ねと言われた。


……よく分からないが、作ったものを美味しそうに食べてくれているし俺としては満足だ。





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