ペットになった

アンさん

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こえ・・・?

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家に着くと、りゅるはオレにぬいぐるみを手渡してくれた。


ぬいぐるみを受け取り、窓横のクッションへ行き寝転がる。


やっぱり柔らくてすごく手触りがいい。


暫く頬擦りをしてぬいぐるみの感触を楽しんでいたけど、何だか日の温かさとぬいぐるみの温たさに包まれて眠たくなってきた。


ぎゅうとぬいぐるみを抱き締め顔を埋める。


・・・いい夢見れそう・・・。






ガチャリという音がして目を覚ました。


・・・りゅるが居ない・・・?


頭を持ち上げて辺りを見渡しても見当たらない。


少し遠くでまたドアが開閉する音が聞こえた。


・・・お出かけ?


ぬいぐるみを抱き締め、クッションから降りる。


「りゅる、うー、ぐるる」


バッと手で口を押さえる。


今、オレ・・・獣みたいな音出さなかった?


「う、うー、ぐる、るる」


え、え、言葉は?


「あうう、ぐる、あー」


しゃ、喋れなくなってる?


昨日は喋れてたよね?


何で・・・?


「ぐうるる、うー」


だ、ダメだ、オレ・・・喋れなくなってる。


いや、まぁ、どうせ言葉通じないし、別に困りはしないんだけど・・・でも、喋れなくなるって・・・えー・・・。


「りゅる、クロ、がるる」


りゅるとオレの名前だけかぁ。


まぁ、問題ないから・・・いっか。


クッションにもたれ掛かるように座り、ぬいぐるみの手をムニムニと揉む。


人間はペットで、普通の人は獣の特徴を持ってる。


人間だって猿が進化した姿のはずだけど、猿みたいな人もいたから進化の仕方が違うのかもしれない。


ペット・・・ペット、ねぇ。


窓から見える空には、月が3つ浮かんでいた。


上側の欠けた蒼い月、下側の欠けた紅い月、丸い白い月・・・まだ昼間なのによく見える。


この位置から太陽は見えないけど、1つなのだろうか・・・。


白い雲がゆっくり流れていき、形を変える。


しん、と静まりかえった部屋の中で一人でいるのは、一体いつぶりだろう。


いつも虫が飛び、身動みじろぎすればゴミが動き音がする。


あの人達が居る時は笑い声と怒鳴り声、テレビの音がずっとしていた。


床に重なっていくゴミと、隣の部屋からの殴るような音。


そんな音ばかり聞いてたから、静まり返ったこの部屋では安心出来る。


近くに誰か来れば気付けるから・・・。


りゅるは怒らない。


オレが近付いても、オレが触っても、オレが声を発しても。


何一つとして否定されず、頭を撫でてくれたし、抱っこもしてくれた。


あの場所で望んでいた事を、りゅるは叶えてくれる。


お腹いっぱいご飯を食べる事、傍に居てくれる事、いっぱい寝れる事・・・一緒にお出かけしてくれる事。


オレが返せるものなんて何も無いのに、色々なものをオレに与えてくれる。


・・・もう、今死んでもおかしくないくらい、オレは幸せだ。


今までの辛さは、昨日今日の出来事で十分吹き飛んだ。


ポタリ、ポタリと目から涙が落ちていく。


・・・帰りたくない。


ずっとここで暮らしたい・・・ちゃんと名前を呼んでくれる人が居る、オレを見てくれる人が居る、ここで・・・。


「ぐすっ、うるる、ぐるう」


何度も鼻をすすり、目から溢れる涙を手で拭う。


キレイな服が着れる、暖かいお風呂に入れる、オレだけの寝床がある。


ここがどこでも、オレがペットでも関係無い。


・・・もう、痛い思いだけはしたくない。


霞んだ視界は徐々に暗くなっていく。


寝て起きたら、あの場所かもしれない。


色んな事がごちゃ混ぜになった思考は、一瞬にして閉ざされ落ちていった。




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