23 / 75
こえ・・・?
しおりを挟む家に着くと、りゅるはオレにぬいぐるみを手渡してくれた。
ぬいぐるみを受け取り、窓横のクッションへ行き寝転がる。
やっぱり柔らくてすごく手触りがいい。
暫く頬擦りをしてぬいぐるみの感触を楽しんでいたけど、何だか日の温かさとぬいぐるみの温たさに包まれて眠たくなってきた。
ぎゅうとぬいぐるみを抱き締め顔を埋める。
・・・いい夢見れそう・・・。
ガチャリという音がして目を覚ました。
・・・りゅるが居ない・・・?
頭を持ち上げて辺りを見渡しても見当たらない。
少し遠くでまたドアが開閉する音が聞こえた。
・・・お出かけ?
ぬいぐるみを抱き締め、クッションから降りる。
「りゅる、うー、ぐるる」
バッと手で口を押さえる。
今、オレ・・・獣みたいな音出さなかった?
「う、うー、ぐる、るる」
え、え、言葉は?
「あうう、ぐる、あー」
しゃ、喋れなくなってる?
昨日は喋れてたよね?
何で・・・?
「ぐうるる、うー」
だ、ダメだ、オレ・・・喋れなくなってる。
いや、まぁ、どうせ言葉通じないし、別に困りはしないんだけど・・・でも、喋れなくなるって・・・えー・・・。
「りゅる、クロ、がるる」
りゅるとオレの名前だけかぁ。
まぁ、問題ないから・・・いっか。
クッションにもたれ掛かるように座り、ぬいぐるみの手をムニムニと揉む。
人間はペットで、普通の人は獣の特徴を持ってる。
人間だって猿が進化した姿のはずだけど、猿みたいな人もいたから進化の仕方が違うのかもしれない。
ペット・・・ペット、ねぇ。
窓から見える空には、月が3つ浮かんでいた。
上側の欠けた蒼い月、下側の欠けた紅い月、丸い白い月・・・まだ昼間なのによく見える。
この位置から太陽は見えないけど、1つなのだろうか・・・。
白い雲がゆっくり流れていき、形を変える。
しん、と静まりかえった部屋の中で一人でいるのは、一体いつぶりだろう。
いつも虫が飛び、身動ぎすればゴミが動き音がする。
あの人達が居る時は笑い声と怒鳴り声、テレビの音がずっとしていた。
床に重なっていくゴミと、隣の部屋からの殴るような音。
そんな音ばかり聞いてたから、静まり返ったこの部屋では安心出来る。
近くに誰か来れば気付けるから・・・。
りゅるは怒らない。
オレが近付いても、オレが触っても、オレが声を発しても。
何一つとして否定されず、頭を撫でてくれたし、抱っこもしてくれた。
あの場所で望んでいた事を、りゅるは叶えてくれる。
お腹いっぱいご飯を食べる事、傍に居てくれる事、いっぱい寝れる事・・・一緒にお出かけしてくれる事。
オレが返せるものなんて何も無いのに、色々なものをオレに与えてくれる。
・・・もう、今死んでもおかしくないくらい、オレは幸せだ。
今までの辛さは、昨日今日の出来事で十分吹き飛んだ。
ポタリ、ポタリと目から涙が落ちていく。
・・・帰りたくない。
ずっとここで暮らしたい・・・ちゃんと名前を呼んでくれる人が居る、オレを見てくれる人が居る、ここで・・・。
「ぐすっ、うるる、ぐるう」
何度も鼻をすすり、目から溢れる涙を手で拭う。
キレイな服が着れる、暖かいお風呂に入れる、オレだけの寝床がある。
ここがどこでも、オレがペットでも関係無い。
・・・もう、痛い思いだけはしたくない。
霞んだ視界は徐々に暗くなっていく。
寝て起きたら、あの場所かもしれない。
色んな事がごちゃ混ぜになった思考は、一瞬にして閉ざされ落ちていった。
13
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~
あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。
その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。
その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。
さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。
様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。
ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。
そして、旅立ちの日。
母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。
まだ六歳という幼さで。
※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。
上記サイト以外では連載しておりません。
異世界に迷い込んだ俺は異世界召喚された幼馴染と再会した
たたたかし
ファンタジー
俺〈中森ゆうた〉が8歳の頃ある日突然異世界へ迷い込んだ。
そんな俺が8年後に異世界召喚された幼馴染〈八条夏目〉に再会する話
あぁ、なんかこんな話しあったらいいなと思って見切り発車で作った話しかも初めて書いた小説。誤字も脱字も意味もわからないと思います。そこは何とか説明修正させていただきます。
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる