20 / 75
クロの煽り方
しおりを挟む駅に移動し、クロに歩いてもらい電車に乗る。
ドア付近に立つと、クロは俺の腰に手を回して抱き着いた状態で俺を見上げた。
俺が左手で持っているホットドールに視線が行ったりしているが、基本的には俺の顔を見ているようだ。
空いている右手で頭を撫でてやると、更にぎゅっと抱きついてきた。
・・・不安なのか?
来た時は抱いていたからな、だからといって今は席が空いていないし・・・バランスが崩れたら危険だし、我慢してもらうしかないな。
頭を撫で続け、鳴きださないように気を配る。
さすがにこの荷物で専用車両はな・・・。
1つ目の駅で電車が止まり、乗客はクロを避けるように乗ってくる。
まぁ、自らヒトに近付きはしないものだしな・・・。
クロは大人しく俺に抱きついているが、普通のヒトならいつ暴れてもおかしくないし、口輪を付けてないとなれば更にな・・・だからといって口輪を付けたりはしないが。
周りに合わせたせいで、クロに余計な負担を強いる事はしたくない。
電車が発車すると、近くに立っていた犬人が舌打ちをした。
「なぁ、何でヒトがここに居るんだ?後ろが専用車両だぞ?」
何言ってるんだこいつ。
「ヒト乗車禁止車両は、1両前だぞ」
「はぁ?そんな事知ってんだよ!何でここにヒトが居るんだって言ってんだよ!」
「・・・?乗車可能だからだが?」
「ちっ、あのなぁ、分かるか?普通、ヒトは乗らねぇんだよ!」
・・・声がでかいし、意味が分からない。
まぁ、無視しよう。
後2駅だしな。
はぁ、と息を吐き出してクロの頭をポンポンと叩き、ゆっくりと撫でる。
こいつが話しかけてきてから、クロの手は俺の服を強く握るようになった。
大きい音が苦手の様だし、こいつの声に驚いたんだろうな。
「何無視しようとしてんだてめぇ!」
ギャンギャンと煩くて耳を塞ぎたくなるが、生憎両手が塞がっていて出来ない。
クロの片耳を俺の腹に当て、もう片耳を右手で塞ぐ。
少しでも、クロの負担を減らすために。
「聞いてんのか!?ああ?!」
「はぁ、わかったわかった」
「あ゛?」
「俺が飼ってるヒトより、元気なのは分かった。ここをよく見ろ。この絵と文字、見えるだろ?」
電車の窓に書いてある「吠えない・暴れない・ゲージ入りのヒト乗車可能」の文字とそれに因んだ絵を指す。
「お前の知能が高いことを、俺は期待するよ」
どこからか吹き出す声が聞こえた。
「ヒトより元気」という言葉は、云わば「お前はうるさい」というエミュウ内の隠語だし、「知能が高いことを期待する」は、「馬鹿じゃなければ分かる」という意味だ。
意味がわかったのか、笑われたのが恥ずかしかったのか、顔が真っ赤になった犬人。
「てめぇ、表に出ろや!」
「電車は駅以外では止まらないし、次の駅に用事は無い」
所々から笑い声が聞こえ始めた。
「ちょ、笑ったら、ふふ」
「だって、ふふ、んふふ」
「やだぁ、ふふふふ」
「おかしいわ、ふふ」
「ダサすぎ、はは」
「やめてやれって」
「お前も笑ってんじゃん」
そこそこ人が乗っているし、声がでかかったからか目立っていたようだ。
静かだったのに、そこかしこから声が聞こえるようになった。
「な、な・・・!」
ぶるぶると震える犬人。
クロがチラリと犬人を見て、目が合った瞬間にベッと舌を出し顔を逸らした。
その光景を見ていた乗客は、むせ込むように笑いだした。
「ぶほっ、ごほっ、ふふ、んぐふ、ヒトに煽られるやつ、ふ、初めて見た、ぶふっ」
「ぐっふ、おい、んふふ、笑ってやるなって」
「え、人に煽られたの?んふふ」
「ふふ、かっこわる、ふふ」
さらに顔を赤くした犬人は、電車が止まるなり一目散に出ていった。
肩を揺らしながら他の乗客も降りていく。
・・・まさか、クロが煽る行為までするとは。
あいつ、嫌われやすいんだろうな・・・。
13
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
【本編完結】魔眼持ちの伯爵令嬢〜2度目のチャンスは好きにやる〜
ロシキ
ファンタジー
魔眼、それは人が魔法を使うために絶的に必要であるが、1万人の人間が居て1人か2人が得られれば良い方という貴重な物
そんな魔眼の最上級の強さの物を持った令嬢は、家族に魔眼を奪い取られ、挙句の果てに処刑台で処刑された
筈だった
※どこまで書ける分からないので、ひとまず長編予定ですが、区切りの良いところで終わる可能性あり
ローニャの年齢を5歳から12 歳に引き上げます。
突然の変更になり、申し訳ありません。
※1章(王国編)(1話〜47話)
※2章(対魔獣戦闘編)(48話〜82話)
※3章前編(『エンドシート学園』編)(83話〜111話)
※3章後編(『終わり』編)(112話〜145話)
※番外編『王国学園』編(1話〜)
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~
あきさけ
ファンタジー
とある平民の少女は四歳のときに受けた魔力検査で魔力なしと判定されてしまう。
その結果、森の奥深くに捨てられてしまった少女だが、獣に襲われる寸前、聖獣フラッシュリンクスに助けられ一命を取り留める。
その後、フラッシュリンクスに引き取られた少女はノヴァと名付けられた。
さらに、幼いフラッシュリンクスの子と従魔契約を果たし、その眠っていた才能を開花させた。
様々な属性の魔法が使えるようになったノヴァだったが、その中でもとりわけ珍しかったのが、素材の声を聞き取り、それに応えて別のものに作り替える〝錬金術〟の素養。
ノヴァを助けたフラッシュリンクスは母となり、その才能を育て上げ、人の社会でも一人前になれるようノヴァを導きともに暮らしていく。
そして、旅立ちの日。
母フラッシュリンクスから一人前と見なされたノヴァは、姉妹のように育った末っ子のフラッシュリンクス『シシ』とともに新米錬金術士として辺境の街へと足を踏み入れることとなる。
まだ六歳という幼さで。
※この小説はカクヨム様、アルファポリス様で連載中です。
上記サイト以外では連載しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる