上 下
10 / 20

ちょっと待って。

しおりを挟む


「どこ?」


何も考えずに移転した俺は、目前の光景に声をもらした。
行った場所にしか空間移動できないから、行った事のある場所のはず。
一面の草原。森の中。近くには小川・・・
初めてこの世界に来た時の場所だと暫くして気づいた。
花がないとこういう景色になるんだ。
城に戻る気にもなれなくて、俺はそのまま草原に寝転んだ。
近くを精霊が飛び回ってて青や黄色の光がキラキラしてる。
前回は気づく余裕がなかった。



「嫌な態度だったな・・・」
嫉妬 した。
こんな醜く暗い感情、知らなかった。
知りたくなかった。
きっと酷い顔をしていると思う。
そんな顔を見られたくなかった。
楽しかった気持ちが一気に冷めた。
「・・・・最低だ」
本当に最低だ。オーランドさんにも凄く失礼な事をしてしまった。
謝らないと・・・・
でも、あの場所には戻りたくない。
あのお姉さんといるのを見たくない。
「・・・・いやだよ」
虹色の太陽は心と正反対に清々しい程綺麗だ。




「どこから来た?」

影が落ち、誰かが覗いているのだと目を開ける。
オーランドさんじゃない。
「・・・・エルフ?」
左右の髪以外は短く切りそろえられた、アッシュブロンド、俺よりも長く尖った耳。
人形みたいに整った顔の・・・ハイエルフがいた。
25.6歳くらいの美青年。
「こんな浅い場所で何してる」
「・・・後悔と日光浴を・・・・」
「・・・・・」
俺の答えに呆れた雰囲気が伝わる。
ハイエルフは感情の起伏が乏しく表情がない・・・・か。
「霊薬が群生した事があると聞いて、時々見に来ていた」
「そうですか・・・・」
初めのアレですね。
既に散って消えてしまいました・・・多分あの一度きりかと思います。
トゥルキと名乗った彼は、ずっとずっと奥深くの森にいるそうだ。
俺が魔王城で過ごしていると聞いて、初めて顔色が・・・というか眉間が僅かに動いた。
「魔人族と一緒にいる、だと?」
「皆、凄くいい人達なんです」
思い出して、顔が綻ぶのを、信じられないという空気が伝わってくる。
「私と一緒に行こう」
「え?」
「ハイエルフの里で過ごすんだ」
「あの・・・」
「本来外に出るべきではない。」
ぐいと腕を引かれ、その有無を言わさぬ強さに焦る。
「ちょ・・・ま・・・待って下さい」
オーランドさんと離れる? キーランさん達とも? 絶対に嫌だ!
振りほどけない腕に、移転で逃れようとするが、魔法が発動しない。
「なんで・・・・」
トゥルキさんの目を見た途端、グラリと眩暈が起き力が抜けていく。
何?これ・・・
「な・・・んで・・・」
オーランドさん・・・・
「目覚めた時には里にいる。大丈夫だ」
「・・・ゃ・・・・だ・・・」
会えないのは、嫌だ。傍にいたい・・・・オーランドさん・・・

神様・・・・これは愚かな嫉妬をした罰なのでしょうか・・・

崩れ落ちる体をがっしりと強い腕が抱きとめて、安堵感に目を閉じた。
「返してもらう」
「魔人・・・・」
ビリビリとした空気が肌を刺す。
息をつくオーランドさんは空間移動したのか飛行魔法できたのかわからないけれど、焦って、怒っていた。
また・・・怒らせてしまった・・・・本当にごめんなさい・・・
オーランドさんにすり寄った俺を見て、トゥルキさんの雰囲気が変化するのがわかる。
「・・・騙しているんじゃないんだな」
「そんな事するか」
「・・・傷つけたりしていないだろうな」
「・・・大事にする。本気だ」
「・・・・そう・・・・そうか。」
暫くオーランドさんと睨みあった?後、トゥルキさんは俺の手に木の実らしきキーホルダーを渡した。
「いつでも戻ってくるといい。呼べば迎えに行く」
「そんな日は来ない」
「さぁ?」
一陣の風と共に、トゥルキさんは姿を消した。
力の抜けた俺はどうなっていたのか見れなかったけれど、何事もなく別れたようで良かった。
「・・・イツキ」
ぎゅっと抱きしめられて、もう大丈夫だと、俺は意識を手放した。
これからもオーランドさんと一緒にいられる。良かった・・・・





ただ、お仕置きだけは、やめて下さい・・・・





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり
BL
ーーーーー魔王の妻、常闇の魔女リアーネは死んだ。 それから五百年の時を経てリアーネの魂は転生したものの、生まれた場所は人間の王国であり、第三王子リグレットは忌み子として恐れられていた。 王族とは思えない隠遁生活を送る中、前世の夫である魔王ベルグラに関して不穏な噂を耳にする。 いったいこの五百年の間、元夫に何があったのだろうか…?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

伴侶設定(♂×♂)は無理なので別れてくれますか?

月歌(ツキウタ)
BL
歩道を歩いていた幼馴染の俺たちの前に、トラックが突っ込んできた。二人とも即死したはずが、目覚めれば俺たちは馴染みあるゲーム世界のアバターに転生していた。ゲーム世界では、伴侶(♂×♂)として活動していたが、現実には流石に無理なので俺たちは別れた方が良くない? 男性妊娠ありの世界

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

隠しキャラに転生したけど監禁なんて聞いてない!

かとらり。
BL
 ある日不幸な事故に遭い、目が覚めたら姉にやらされていた乙女ゲームの隠しキャラのユキになっていた。  ユキは本編ゲームの主人公アザゼアのストーリーのクリアまで隠されるキャラ。  ということで、ユキは義兄に監禁され物理的に隠されていた。  監禁から解放されても、ゲームではユキは心中や凌辱、再監禁、共依存など、バッドエンドばかりが待っているキャラ…  それを知らないユキは無事にトゥルーエンドに行き着けるのか!?

処理中です...