ばぁちゃんのアンケートに答えたら、異世界へ転生するはめになった。【連載版】

ぴよ

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おかしいんです。

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軽率な行動で皆に迷惑と、心配をかけた罰で俺は3ヶ月の謹慎となった。
オーランドさんは仕事の打ち合わせ中、突然血相を変え飛び出した為、軽い騒ぎとなったらしい・・・・本当にごめんなさい。
部屋と練習場以外は許されず、ひたすら勉強と魔法の練習をして反省することになった。


流石に一人では寂しいからと、話し相手をつけてくれた。
艶烏の髪が腰まである、色白の美女は魔王様の玄孫、グレタさん。
しっかりして、明るく性格も良いグレタさんは正に《美人で誠実  完璧な恋人》にぴったりの女性。
魔王様が謹慎とは名ばかりだと笑っていたから、多分彼女を紹介したかったのだろう。
グレタさんは本好きな人で、題材にもなるハイエルフの俺と会ってみたいと以前から魔王様にお願いしていたらしいが、何故か機会が訪れそうになる度に、俺は皆と旅に出ていたそうだ。
本物のハイエルフに感動していたが、純粋に個として俺を見てくれ、進もうとすれば、恋人になってくれそうな雰囲気が伝わってくる。
これまでの俺なら、有頂天になって申し込んでいただろう。
共に過ごす時間は充実して不満などないはずなのに。


なのに、何でだろう。
オーランドさんの顔がずっと離れない。
あの瞳を思い出してしまう。
傷ついた表情ばかり思い出して、苦しくて、寂しくてたまらない。
また、ガシガシと頭を撫で、俺の名を呼んで笑ってほしい。
温かな笑顔が見たい。


神様、俺どうしちゃったんでしょうか……
最近何だか変なんです。
美女と過ごしているのに、念願の彼女が出来そうだっていうのに、ちっとも嬉しくないんです。
笑っても、楽しいと思えないんです。
おかしいんです。
怖いと思ってるのに、思い出すと今でも体が竦むのに、オーランドさんに凄く、凄く会いたいんです。
胸にぽっかりと穴が開いたみたいで世界が色褪せてるんです。
何でか意味もなく泣きたくなるんです。


いつも咲く花は芽も出さず、まるで心を反映したみたいで。
3ヶ月、一度も見る事はなかった。





謹慎明け、皆に再度謝ると、心配かけちゃ駄目だよって頭を撫でられた。
「痩せちゃって…美食巡りの旅に出ようか。きっと楽しいよ」
レナルドさんの優しさに目頭がじんわりくる。
「それとも私が上書きしてあげようか?もの凄く愉しめると約束するよ?」
「・・・・」
「レナルド、貴方魔王様と他国訪問あるでしょう」
呆れたと、キーランさんがレナルドさんの頭を小突く。
「残念。いつでも声かけてね。待ってるからさ」
頬をするりと撫でレナルドさんは部屋の外で待つ部下と姿を消した。

「あ…の………オ…オーランドさん…は…」
しどろもどろの言葉にキーランさんが苦笑して頭を撫でてくれる。
「遠征で半月後に戻ってくるよ」
「そう…」
「あれから毎日君に会おうと来てたから、魔王様が城に結界張らせちゃってね。
 半月後までは入れないから」
「・・・そう・・・・」
「・・・大丈夫?」
「・・・わかんない」
何も言わずに頭を撫で続けるキーランさんにもたれかかる。
ほっとする・・・・
ぎゅっとしがみ付く俺を、キーランさんは何も言わず優しく抱きしめてくれた。






今度はきちんと許可を得て、外出した。
安全だと確認のとれている、初めて溺れたあの湖。
湖には絶対に入らない、他の場所には行かない、もし何かあったら直ぐに連絡、もしくは戻る、半日でちゃんと帰る、という小学生のような約束をして。
城から離れて一人で色々考えたかった。
キーランさんも解っているようで、行っておいでと送り出してくれた。

半月後、オーランドさんが戻ってきたら、俺はどうしたいのだろう。
どうしたらいいのだろう。どんな顔をして会えばいのだろう。何を話せばいいのだろう・・・・
あんなにも会いたいと思っていたのに、いざとなると混乱して、今はもう習慣となってしまった祈りに没頭した。
無心に祈っていると、ふいに背後から誰かに抱きしめられた。

バクバクと心臓が大きく鼓動し、体温が上がっていくのがわかる。
「イツキ・・・」
心地よいバリトンボイスはこの3ヶ月ずっと耳にしたかったもの。
首すじに顔を埋め、強く抱きしめる腕は忘れもしない・・・
「オーランドさん・・・」
何度も俺の名を呼ぶ声はまるで縋っているようで、胸の前の腕をそっと掴んだ。

3ヵ月ぶりに見たオーランドさんはひどく疲れた顔をしていて、こんな彼の姿を見たことがない俺は動揺した。
「っ具合悪いの? 治癒魔法・・・っ」
レナルドさんが治癒魔法が使える、早く城へ連絡をと立とうとするが、痛いほど強く抱きしめられ、行くなと止められる。
「イツキ・・・好きだ」
「っ!」
「誰にも渡したくない。ずっと傍にいてくれ」
「・・・・・」
「もう絶対に傷つけないと約束する」
「オーランドさん・・・・」
「時間がかかってもいい。俺を見てくれないか」
「・・・・」
頭の中が真っ白で言葉が出てこない。
「生涯イツキだけを愛すると、オーランド・リー・ラッセルの名に誓うから」
呆然とする俺を黄金の瞳が愛しそうに見つめてくる。
あぁ、ダメだ。
この瞳を見てしまったら何もかもがどうでもよくなってしまう。
悩んでた事が全部消えていってしまう。
「真剣に、考えてくれないか」
「・・・・あ・・・」
どうしよう どうしよう 
迫ってくる顔に目を閉じちゃダメなのに。
無骨な指が唇を撫で、追って少しかさついた唇が合わさった。


「ん・・・」
優しく触れるだけのそれは、徐々に深いものへと変化していき、心地よさに包まれていく。
気持ちいい・・・・頭の中、ふわふわする・・・・
おずおずと、オーランドさんの背に腕をまわせば、口づけが深まった。



神様・・・どうしよう・・・
もの凄く嬉しくて、嬉しくて泣きそうです。



「・・・半日でちゃんと帰る と約束しましたよね」
「・・・ごめんなさい」
あの後、ずっと口づけして過ごした俺は再びキーランさんにお迎えをさせてしまった。
今回もガッツリ見られてしまった・・・
熱をもち今も痺れている唇は赤くなっているだろう。
「イツキ、また色気が増しちゃって・・・」
レナルドさん、今そういう事言わないで下さい。
キーランさんが怖いです。
小さく項垂れる俺をキーランさんは軽く小突いてやれやれと肩をすくめた。
「暗い顔がなくなったから良しとしましょう」
「キーランさん・・・」
「ただし、次は『お仕置き』しますからね?」
にっこりと微笑まれ、俺にとってはトラウマの言葉を口にされれば背筋がゾワリと波立つ。
「ぜっ 絶対に守ります!」
「はい。そうして下さい。私の『お仕置き』は多分止める人がいないでしょうから大変ですよ?」
「だだだだ大丈夫です!!!絶対守ります!!!」
ひぃぃ!
次期魔王候補は伊達じゃない。
ほっとする優しいキーランさんはどこにいってしまったのでしょうか・・・
「オーランドが戻るまで、彼が嫉妬する程楽しみましょうね」
「キーランさん・・・」
「まずはお風呂でも一緒に入りましょうか」
ふふと笑うキーランさんは、悪巧みを思いついたような楽しそうなもので。
「・・・お手柔らかにお願いします」
きっとオーランドさんをからかうネタか何かを思いついたのだろう。
「私はオーランドと違いますから大丈夫ですよ?」
「はは・・・」
レナルドさんも加わりお風呂タイムは賑やかで、楽しいものだった。
オーランドさんが戻るまで毎日一緒に入ることになった。
何故か魔王様も加わり、女性陣の間で黄色い声があがったらしい。



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