尻拭い、のち、リア充

びやヤッコ

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悩み 4

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  ドキドキのお風呂タイムもなんやかんや終わり、勉強を始めようとしていたその時、俺は重要なことを思い出した。

 クローゼットの中から制服のスラックスを取り出し、ポケットを漁る。

 あったあった……

 お風呂でのがインパクトが強すぎて、悠里から奪い取ったUSBメモリのことを忘れるところだった。

 勉強机で教科書を広げている黒永先輩に、そのUSBメモリを「はい」と手渡す。

 「これは?」

 「悠里から奪い取ったUSBメモリです。先輩の盗撮写真が入ってると思います」

 俺がそう言うと、黒永先輩は眉をひそめる。

 「また1人で悠里に会いに行ったのか?」

 「違いますよ!6人の仲間と共に攻め入りました」

 先輩がまず気にするポイントが俺の事で若干嬉しく感じつつも、誤解されないように全力で首を横に振る。

 気をつけるって先輩に約束したばっかりだもんな。

 不満そうな顔の黒永先輩だったが、俺の話を聞いて渋々納得したのか、眉間のシワがなくなった。

 「会いに行かないと先輩の盗撮写真をばら撒くって脅されたんで、取ってきちゃいました」

 「次からはそう脅されたとしても行かなくていい。安全第一に考えろ、いいな?」

 コクリと頷くと、頬を優しく撫でられた。

 結局先輩に心配をさせてしまった……

 でも……

 「俺は先輩が盗撮されるのも嫌だし、写真がばら撒かれるのも嫌だし、その写真が不特定多数の人に見られるのも嫌です……だから犯人特定しましょうよ」

 俺の頬に当てられた黒永先輩の手を握り、まっすぐと目を見つめる。

 「分かった、なら見てみるか」

 俺の気持ちが伝わったのか、先輩はノートパソコンを取り出して起動すると、USBメモリを差し込んだ。

 「このファイルですよね?悠里が言うには、見れば犯人が分かるらしいんですけど……」

 ファイルをクリックして開くと、そこには予想よりも遥かに多くの写真が入っていた。

 そして言うまでもなく、盗撮だと分かるものばかりであった。

 「これって……ほとんどがS棟での写真ですよね?しかも先輩の勉強部屋が多いですよ」

 「部屋に隠しカメラが設置されてたのか」

 「えっ……でもその部屋って鍵がかかってるし、俺と先輩以外に誰か入れるんですか?」

 「いや、入ることはできない」

 「じゃあ誰か部屋に入れたことがありますか?」

 「今までペアになった人たちと…………高1の時に1回だけ万喜を入れたことがあったような……」

 「それならその人たちの中に、カメラを設置した人がいるんですかね?」

 「いや、ペア学習をする時は常に机に向かってたからカメラを設置する時間なんてなかったはずだ」

 「それじゃあカメラは……」

 万喜先輩が?

 黒永先輩をチラリと見ると、分かりずらいが、やや暗い表情をしている。

 3年間黒永先輩の友達として過ごして、ついこの前渾身の告白をした人がこんなことを……?

 パソコンの画面に映る写真には、黒永先輩が着替えている瞬間のものが多く含まれている。

 それから下にスクロールすると、最近の様子が映った写真がどんどん出てきた。しかしどれも様子がおかしい。

 「これ、俺がカットされてますよね?」

 「みたいだな」

 黒永先輩の隣に明らかに俺が映っていたはずだが、邪魔とでも言うように綺麗さっぱり切り取られている。

 俺の存在が受け入れられない……あるいは黒永先輩だけを見るためにその他のものをただ単にカットしただけか……

 どちらにせよ、黒永先輩に対して歪んだ愛を持ってるんだな。じゃなきゃこんなことするはずがない。

 でも……

 「これだけで犯人が万喜先輩だと決めつけられないような……」

 それに正直犯人が万喜先輩であって欲しくない。

 確かに俺個人としてはあの人は好きにはなれないけど、黒永先輩の友人だったことには変わらない。

 黒永先輩は、嫌なことは嫌だと言うタイプの人だ。万喜先輩が自分の傍に3年も一緒にいたことを嫌がってないということは、友人として認めていたのだろう。

 信じていたか信じていなかったかは置いといて、長い間一緒にいた人にこんなことをされたとしたら、黒永先輩の傷が増えていくだけだ。

 俺は縋るような気持ちでそう言うが、当の本人は諦めたように首を振る。

 「いや、確実に万喜だ」

 「なんでそんな断定ができるんですか?」

 「この写真……」

 先輩が指で指したものをまじまじと見る。

 「なんか……先輩がちょっと若いような……」

 「ああ、これは2年前の写真だ。この着ている部屋着はちょうどその頃に新しいものと替えて使わなくなったものなんだ」

 「……じゃあ……」

 「万喜が部屋に来たのもその少し前くらいだったはずだから、時期的に合致してる」

 「……」

 言い逃れができないほどの証拠を掴んでしまい、気分が沈む。

 先輩……ショックだよな……

 人間不信の先輩。詳しい事情は分からないけど、きっとこれまで大切な人に裏切られた経験とかがあったんだろう……

 そんな人にこんな仕打ち……先輩と1ミリも関わりのないただのファンの仕業とかだったらマシだったのに……

 何も言えずにいると先輩が俺の頭をぽんぽんと撫でる。

 「先輩……?」

 「なんで君がそんな泣きそうな顔をするんだ?」

 「だって……友達だと思ってた人にこんなことされたら……」

 そう言うと、先輩は柔らかく微笑む。

 「大丈夫だ。こういう事態もあるだろうと思って万喜に対してはそこまで心を開いてない。それはあいつも気づいてるだろうけど……それに今は緒里……君がそばにいてくれているから、他の人にどれだけ酷いことをされようが、傷つくことが想像できない」

 「先輩……」
 
 一心に俺に愛を注ぐその人を抱きしめられずにはいられなかった。

 心が震えるほど、先輩の言葉が嬉しい。

 しかし、そんな嬉しさの隅でチクチクと主張をする罪悪感のようなものにより、心から笑うことが出来ない。

 俺は、悠里が言っていた通り、先輩を騙してることになるのだろうか?

 俺のは本性じゃないのだろうか?

 だとしたら先輩が好きな俺は偽物?

 いやいや、何を言ってるんだ。

 俺は自己中じゃない。俺は向こう見ずじゃない。俺は人を手のひらで転がすことなんて好きじゃない。

 なのに何でだろう。

 心にどっしりと乗っかるこの鉛の塊のようなものは。

 「緒里?」

 俺のぐちゃぐちゃな内心など露ほども知らない先輩は、相変わらず毒気のない無防備な表情で顔を覗き込んでくる。

 俺はこの人を傷つけてしまうのだろうか。

 俺と一緒にいたら、この人は傷ついてしまうのだろうか。

 「先輩……」

 「ん?」

 「………………なんでもないです」

 何かを話したいのに何を話せばいいのか分からない。

 でも悠里の言葉が繰り返し脳内で再生されて、焦る気持ちが積もっていく。

 もし本当に俺が先輩を騙しているのだとしたらと想像すると、その結果は恐ろしすぎて言葉に表せない。

 でも黙ってるのは違う気がする。

 先輩には正直でいたい。

 その結果がどうなろうと絶対に。

 俺は恐る恐る口を開く。

 「先輩に……聞いて欲しいことがあるんです。でも今は自分でも何を聞いて欲しいのかまとまってなくて、モヤモヤしてるんです。だから……俺の考えがまとまったら、聞いてくれませんか?」

 なんの前触れもなくそう言う俺に驚いただろう。

 しかし黒永先輩はしっかりと頷いてくれた。

 「いつでも待ってる」

 「ありがとうございます」

 先輩に手を握られているのに、こんなに不安な気持ちになるのは初めてだった。
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