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想い 1
しおりを挟む「せ、先輩……」
「どうした?」
いやいや、どうした?って…………なんで俺は手を繋がれてるんでしょうか??
ーー数分前
俺はボートから降りると、近くで待っていた先輩の元へ向かった。
「えっと、その……早かったですね」
嬉しさ余って駆け寄ったが、万喜先輩の告白の件を思い出して尻込みする。
しかし黒永先輩の様子はいつもと変わらない。
「君を待たせてるからね」
そう言うと自然な流れで俺の手を掴んだ。
「あ、えっ?!?!?!」
突然の出来事に俺の全語彙力が吹っ飛んでいく。
な、何事?!
完全にパニクっていると、実が「ははははっ」と笑い声をあげた。
「じれったすぎて見てるこっちが恥ずかしくなってくるんですけど!じゃあ僕はこれでお役御免だね~あとは2人で頑張って~!」
喋るだけ喋って満足すると、実は「バイバーイ」と手を振ってルンルンと去っていった。
「………………えーと、つまりどういうことですか?」
「帰ってから説明しよう。それと君に聞いて欲しいこともある」
「わ、分かりました」
聞いて欲しいことって万喜先輩の告白のことだよな?
めっちゃ緊張する……
こうして、結局黒永先輩とは馬の2人乗りもボートの2人乗りもすることなく寮に帰ることとなった。
そこまではいいが…………
冒頭に戻る。
なぜにずっと手を繋がれてるんだ?
もしかし握ったまま忘れてる?
「手……繋いでていいんですか?みんなに見られちゃいますよ?」
「君が嫌じゃなければそのままでもいい」
「嫌ではないです」
そりゃそうだ。好きな人と手を繋いでるんだから。
でも全神経がこの手に集中してすんごいムズムズする!!手汗も多分やばい!!
俺はなるべくその手を意識しないように、前方に視線を集中させる。
そもそも先輩ってちゃんと手を繋ぐ意味を理解してるのかな?まさか幼稚園児相手に繋ぐみたいな感覚でやってるわけじゃないよな?
もし理解してやってるんだとしたら、先輩は俺を選んだってこと?期待してもいいんだよな?
これで違ったらさすがに泣くぞ!
「百面相してどうした?」
「えっ?!いや、緊張するなーって」
俺百面相してたんか……恥ずかしすぎる……
表情を「無」で固定しよう。
表情筋に力を入れて緊張感から耐えようとすると、黒永先輩は「ふっ」と笑って握っていた手に力を込める。
「もうすぐ着く。そんなに緊張する必要はない」
「その言葉、信じますからね」
そう言って先輩を見ると、爽やかな笑顔で「ああ」と返事をされる。
あーーまた殺しにかかってきたよその笑顔……
体の力は抜いたものの、今度は別の意味でドキドキしてくる。
先輩に話すのが待ちきれない。
早く帰って想いを伝えたい。
先輩が俺を想ってくれてるかもしれないという可能性に賭けて……
結局俺と黒永先輩は手を繋いだまま商業エリアから寮の先輩の部屋に戻った。
部屋の扉を閉じるや否や、俺は間を入れず黒永先輩の背中に腕を回してギュッと抱きしめる。
「緒里……?」
やや戸惑ったような声が頭上から聞こえてくるが、俺は手を離さない。
すると、思ってもみなかったことに先輩も俺の背中に腕を回して抱きしめてくれた。
「緒里、可愛い」
「……それは先輩の方ですよ」
「緒里、話がある」
「奇遇ですね、俺も先輩に話があります」
先輩の肩に埋めていた顔を上げると、バッチリ目が合う。
その顔の距離の近さに一瞬で顔が熱くなり、俺はパッと先輩から離れた。
「玄関で話すのもあれなので、中に入りましょうか」
「そうだな」
靴を脱いで部屋に上がり、ソファーに2人並んで座る。
やばい、改めて考えるとさっきの俺どうかしてた……気持ちが昂りすぎて我慢できなかった……
未だに顔の熱が引かない。
恐らく赤くなっているであろう頬を手のひらでぺちぺちと叩いていると、突然先輩に手を掴まれた。
「先輩?」
「俺は人を好きになったことが今までなかった」
「は、はい」
真剣に話し始める先輩に向き合うために俺も気を引きしめる。
「だから俺が君に向けるこの感情が世間一般で言う好きなのかどうかよく分からない。俺は君のことがとても大事で、本当はどこかに大切に閉まっておきたい。俺1人で独占したいし、君の目に映る人が俺1人だったらいいなとも思う。でも君を拘束して悲しませてしまうようなことはしたくない。ずっと笑っていて欲しいし、一緒にいて君の心が安らぐような存在になりたい…………君にだけは、心を捧げてもいいと思ったんだ」
す、すごく重い。重くて、想いがたくさん詰まってて、ドキドキが治まらない。
そして俺の手を握る黒永先輩の手からは小刻みに震えが伝わってくる。
俺はもう片方の手でギュッとそれを握ると、先輩の目を見つめる。
「好きは人によって色々あると思うんですよ。だから先輩のそれも、好きで合ってると思います」
そう言うと、黒永先輩はほっとしたような表情をする。
「そうか、俺は君が好きなのか……好きというのはもっと純粋な気持ちだと思ってたけど、蓋を開けてみたらすごいものだな」
はにかむようにして笑う黒永先輩に我慢ができず、「俺も話していいですか?!」と叫ぶように尋ねる。
「……ああ、聞きたい」
先輩の美しい瞳に自分が映り込んでいるのを見ながら、俺は慎重に言葉を選ぶ。
「俺は……先輩がとても好きです。でも先輩の気持ちに確信が持てなくて、ずっと言うのを躊躇ってました。正直万喜先輩はすごくかっこよかったですよ、相手にどう思われていようが告白をするなんて、相当の勇気ですし…………それに比べると俺は卑怯な感じになるんですけど、でも先輩と特別な関係になりたい気持ちは負けないです。俺だって先輩を独り占めしたいし、俺だけに笑ってくれたらいいなーとか思っちゃうし、さ、さ……触りたいと思うし……俺の好きも純粋じゃないですよ!だから安心して俺に心を捧げてください、俺も全てを先輩に捧げますので」
お、重い……なんだこのクソ重告白……
言い終わって我に返ると、恥ずかしすぎて穴があれば入りたい気分になる。
黒永先輩と目を合わせることができずに視線を逸らすと、突然頬を掴まれて強制的にそちらを向かされる。
そして次の瞬間、俺の唇に温もりが触れた。
温かくて柔らかいそれは一旦離れると、すぐに向きを変えてもう一度俺の唇に優しく触れる。
あれ?俺、先輩とキキキキ……キスしてる……?
すぐ目の前にある先輩の整った顔。そしてまっすぐと視線を合わせてくる瞳。
状況を理解した途端に全身がゾクッとする。
黒永先輩は口を離すと、いたずらっ子のように笑って「嫌か?」と聞く。
「嫌なわけがないじゃん……」
俺は口元を押さえて少し距離を取ると、ドキドキとする心臓を一旦落ち着かせる。
「俺たちは付き合うんですか……?」
「ああ、そうなるな」
黒永先輩と付き合った……!俺は黒永先輩の恋人で、黒永先輩は俺の恋人……!
あまりの嬉しさに口がだらしなく緩む。
「へへっ、先輩と付き合った」
「好きだよ緒里」
「俺も好きです先輩」
黒永先輩は俺に少し近寄ると、口元を隠していた手をそっと取る。
「君が俺を受け入れてくれて良かったよ。もし君がこれから先俺を裏切ったら、今までにないくらい傷つく自信があるからやめてね」
「も、もちろんです!絶対にそんなことはしません」
そうだよ、人を信じられない人が俺にここまで心を預けてくれるなんて、相当な覚悟のはずだ。
俺が絶対に幸せにしなくちゃ。
俺はギュッと先輩を抱きしめると、心を込めて「よろしくお願いします」と言う。
先輩は同じように俺の背中に腕を回すと、甘えるように肩に頭を乗せる。
そして心のつっかえが消えたような、朗らかとした声音で「こちらこそよろしく」と俺に告げた。
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