尻拭い、のち、リア充

びやヤッコ

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ある日の昼休み 小話

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 (本編とは直接関係ないおまけのお話です)


 期末祭後のとある昼休み。

 山迫君はハッとしたような表情で何かを思い出したようだった。

 「緒里君…………僕たちまだ新君にお礼してない」

 「あ」

 そういえば山迫君が講堂を突破できるように手伝ってもらったんだった。

 「え、じゃあ今からパッツンのクラス行く?確かB組だったよな」

 「そうだね!でもお礼どうする?」

 「あー……どうしようか……」

 ボンボンだしなー……いい物を買うのもありだけど、それだとかしこまりすぎてるしな……

 俺は今まで友達にあげてきた誕プレを思い出す。

 地元の野郎どもには適当にお菓子買ってたな……それか奢りでご飯とか(親のお金)。

 「山迫君は友達にどんな誕プレ渡したことがある?」

 「え、えーと、僕はその……友達があまりいなかったというか……あ、幼なじみが1人いるんだけどね、その子は読書が好きだから本を買ってたかな」

 顔を赤くしながらワタワタとする山迫君に笑みがこぼれる。

 何この子。男なのに可愛いんだが。

 「そっか、本かー……それは相手の好みに詳しくないと買えないな」

 「そうだよね……」

 そもそもパッツンが本を読むイメージが皆無。

 「緒里君は?お友達にいつも何をあげてたの?」

 「俺?俺は一緒にご飯食べに行ったり、適当にお菓子でも食ってろって感じでイモリコとか買ってた」

 「……いいなー」

 「え?」

 山迫君は力無く微笑むと、「僕もそんな青春過ごしたかった」と言う。

 「僕家が貧しいから、奨学生は学費全額免除のここを受けるためにずっと勉強してて、あまり遊べなかったから」

 「……今からでも遅くないと思うけど?ちなみに山迫君誕生日いつ?」

 「え?4月26日だけど……」

 「過ぎてるならちょうどいい。今から味わわせてあげるよ、スナック菓子地獄を」

 「え?!」

 俺は状況を理解しきれていない山迫君を引っ張り、B組に向かう。

 クラスの中を覗き込むと、知らない顔がたくさんあって一目見ただけではどこにパッツンがいるのか分からなかった。

 しかしなんのこれしき。

 俺はパッツンが人混みにいる時の探し方を知っているのだ。
 
 その名も「神の傑作キューティクル」

 俺はそこにいる人達の髪をサッと見渡すと、1番キューティクルで眩しい光を放っている男を探す。

 ……しかし……

 「おかしいな……みんなキューティクルが弱い……教室にいないのか?」

 「キューティクル?」

 山迫君が首をコテンと傾ける。

 「そうそう、キューティクル。パッツンを探すには、まず頭で見分けた方が早い。あいつの頭は常に光ってるからな」

 「へ~誰の頭が光ってるって?」

 「ん?だからパッツンの頭が…………あ」

 「あ、じゃないわ!!」

 異変を感じで後ろを振り向くと、相変わらず般若の如き怒り顔で仁王立ちをするパッツンがそこにいた。

 「パッツン!どこにいたんだよ、探したぞ。光る頭が見当たらなくて焦ったよ」

 「光る頭って言うな!!ハゲてるみたいだろうが!!」

 「はははっ」

 「何笑ってるんだ片倉緒里!!」

 しおらしいパッツンも見てきたが、やっぱり通常運転のパッツンには安心感を覚える。

 「なあ今暇か?暇ならちょっと付き合ってもらいたいんだけど」

 「はあ?!僕が暇なように見える?!…………暇だけどさ」

 山迫君が呆然と見ていることにようやく気がついたのか、風船がしぼむように語気の威力がなくなる。

 「……で?何の用だ?」

 「あ、その新君、この前は期末祭で僕を助けてくれたでしょ?だからお礼をしたくて来ました……」

 山迫君がふにゃっと笑ってそう言うと、パッツンはやや戸惑ったように手を振る。

 「いや、あれは片倉緒里からの借りを返しただけで、お礼をするようなことじゃないよ」

 へー、パッツンは普段こういう喋り方なのか……と思って見ていると、ジトッと睨まれる。

 「何だよ、なんか文句ある?」

 「なんで俺にだけそんな喧嘩腰なんだろうなって思って」

 「ふん、そんなのあんたの顔が気に入らないからに決まってるじゃん!」

 「あ、そういう事ね」

 そんなやり取りをしていると、山迫君がクスクスと笑う。

 「2人とも面白いね」

 「……」

 「……」

 「あんたなんでこんないい子とつるんでるの?脅しでもしてるの?」

 「そんなわけないだろ!普通に友達だわ!なあ、山迫君!」

 「え?!う、うん!!そうだよ!!」

 「それならいいけど……」

 山迫君から溢れ出る「いい子オーラ」に、パッツンもタジタジのようだ。

 「話は戻るけど、本当にお礼はいいから」

 「そ、そっか……どうしても感謝を伝えたかったんだけど、迷惑だったかな?……ごめんね?」

 明らかにシュントする山迫君に心動かされない人はいるのだろうか。否、いない。

 「全然!そういうことならありがたく受け取るよ!」

 パッツンおまえ変わるのが本を捲るより早いぞ。

 「やった!やったね緒里君!」

 「そうだな」

 「……それで、どこに行くの?」

 嬉しそうに笑う顔から一転、山迫君は「はて?」といった風に俺を見る。

 「山迫君も知らないんかい!!」

 ナイスツッコミパッツン!

 俺は行き先を知らない2人を引き連れ、庶民にはお馴染みのあの店へとやってきた。

 そう、我らの救世主、コンビニ。

 「ま、まさかここに入るのか?生まれてこのかた利用したことがないんだが」

 顔を引き攣らせるパッツンの背中を俺は「まあまあ!とりあえず入りましょうよ」と言って押す。

 カランカランという開閉音と共に入店した俺達がまず向かったのはお菓子コーナーだ。

 「なるほど!こういうお菓子もプレゼントになるのか!」

 山迫君は感動したように目を輝かせる。

 「プレゼントになるかどうかは時と場合と相手によるよな」

 「今はまさにその時と場合と相手ってことだね」

 「たぶんそうだな」

 「分かった!じゃあ新君、この中から好きなの選んで」

 物珍しそうに辺りを見渡すパッツンに、山迫君は期待の眼差しを向ける。

 この楽しみよう……学生生活でこういうのがやりたかったんだろうな、山迫君は……

 「え、えーとこの中から?」

 慣れない動作で商品棚をじーっと見つめるパッツンの顔は、まるで難解問題でも解いているようにしんどそうだ。

 「ま、まるで分からない。何が何なのか1つも分からない……」

 「はははっ」

 その様子がおかしくて、ついつい笑ってしまう。

 「何笑ってるんだ片倉緒里!笑ってる暇があるなら解説しろ!」

 「了解です。えーとまずここら辺はグミで……」

 「ああ、グミか。それなら僕も聞いたことはある」

 「聞いたことしかないんかい」

 「うるさい!で?グミってのは美味しいの?」

 「まあ個人の好みだよな。だいたいブニブニしてて、噛んで飲み込む。食感は硬めのものから柔らかめのものまで色々。それから味もフルーツ味から変な味まで色々あるよ」

 「変な味?!」

 「で、次はチョコ系でーー」

 こうして1つ1つ大雑把にだが説明し終わると、パッツンはそれを参考にしながら気になるお菓子を数個手に取った。

 「じゃあお会計行くね」

 山迫君が買い物かごをレジに出すと、店員さんがレジ打ちをしてくれる。

 「ほお~これがコンビニか……」

 どうやらパッツンはコンビニを気に入ったようだ。

 2人がレジにいる間、俺もお菓子コーナーでイモリコやポテチ、それから小さめのチョコのお菓子に2人分のまぜまぜまぜまと飲料をカゴに入れる。

 レジ打ちが終わり、お代を払うと俺はコンビニの外で待っている2人の元に向かった。

 「緒里君も何か買ったの?」

 「そう、言ったでしょ?スナック菓子地獄を味わわせてあげるって」

 そう言って袋を手渡すと、山迫君は驚いたようにそれを受け取る。

 「これを僕に?」

 「うん、誕プレってことで」

 「あ、ありがとう!」

 お菓子を抱え、眩しい笑顔で笑う山迫君に俺とパッツンは浄化されそうだった。

 「で、パッツンは何買ってもらったの?」

 「僕はこのグレープ味のザラザラとしたグミと、中がネバネバとしてるチョコと、じゃがいもを薄くスライスして揚げられたお菓子を選んだよ。まさか500円もしないで買えるなんて、コンビニの利益はどうなってるんだ?!」

 俺が説明した通りだけど、なんか全部美味しそうに聞こえないのはなんでだろう。

 それはさておき、俺は手に持っていたメロンソーダとまぜまぜまぜまをパッツンに手渡す。

 「これはなんだ?」

 「メロン味の炭酸飲料と、まぜて食べる魔法のお菓子」

 「はあ??何だそれ…………まあ食べてやってもいいけど」

 おお!出た!典型的なツンデレ。

 ツンを発揮しながらも、いそいそと袋の中にもらったお菓子とジュースをしまうパッツンは心なしか嬉しそうだ。

 「ちゃんと全部食べろよ?あ、茂野さんと一緒に食べなよ」

 「そ、それはダメだ!僕が先に毒味をしないけいけないからね!」

 つまり、独り占めすると。

 これはコンビニ利用者増加の予感では?

 「じゃあ僕はもうこれで戻る!山迫君、このお菓子ありがとう」

 「いえいえ、感謝の気持ちですから」

 笑い合う2人に小さくて可愛いな~と思っていると、パッツンがギロリと俺を見る。

 「片倉緒里!あんたのお菓子も渋々食べてあげるから感謝しな!それから山迫君をいじめたら僕が許さないからね!」

 「渋々食べるな。嬉しそうに食え。それから俺は常に山迫君に優しいから安心してくれ」

 「あっそ、じゃあ行くからね」

 「はいはーい」

 ぷいっと顔を背けたパッツンは、校舎に戻っていく。

 「新君嬉しそうだったね」

 「まあ、そうだな。素直じゃないけど」

 「ふふ、緒里君の前だと素直になれない感じだったね。僕にはとても優しかったよ」

 「この扱いの差は一体……あ、顔か。整形すればパッツンも優しくなるのかな」

 「え?!で、でも緒里君すごく素敵な顔立ちだし、そのままでもいい気が……」

 焦ったようにそう言う山迫君に「うそうそ」と笑う。

 「それじゃあ昼休みもそろそろ終わりだし、俺達も戻るか」

 「待って!その前に……」

 山迫君は俺からもらったお菓子の入った袋をギュと抱きしめる。

 「僕、こういうのしたことがなかったから、すごく楽しかったよ。緒里君と友達になれて本当に良かった。緒里君が誕生日の時は僕がスナック菓子地獄をやるから待っててね!」

 俺の目をまっすぐと見つめて一生懸命言葉を紡ぐ山迫君に心が暖かくなる。

 未だかつてこんなに感謝されることがあっただろうか。

 俺は照れくささを感じつつも、この友人を大切にしようという気持ちが強くなった。

 「山迫君にもまぜまぜまぜま買ってあるから、一緒にやろうな」

 「うん、楽しみ!」

 こうしてパッツンへのお礼イベントは無事に終了した。

 後日、B組でまぜまぜまぜまがちょっとしたブームになったのは、また別のお話。
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