1 / 29
転校 1
しおりを挟むそれは突然のことだった。
「え?転校?」
俺は母さんの口から出てきた言葉に唖然とし、持っていた朝食のパンをボトリと落とす。
「ゆうちゃんがさ~、学校でちょーーっとトラブルを起こしちゃってね……」
「またあいつかよ……」
俺はその名前を聞くや否や、頭を抱える。
ゆうちゃん。そう母さんに呼ばれるのは、俺の双子の弟の片倉悠里である。生粋のトラブルメーカーであり、幼いころから「ちょーーっと」問題を起こし続け、その度尻拭いを負わされているのが兄である俺だ。
やつの起こした問題は星の数より多いのではと言われるほど、地元でも有名な問題児である。
「それでね、トラブルの相手がね、まさかの黒永君でね……」
「え、黒永ってもしかして黒永グループの?」
母さんの心底困ったような顔を見て嫌な予感がする。
「そうなのよ~……パパがほら、黒永君のお父様に良くしてもらってるみたいだから……」
「あー……」
嫌な予感的中。
建設から流通、銀行など、幅広い分野でトップに君臨する一流企業、黒永グループ。そんな黒永グループの建設事業を担当するKURONAGA建設では、現在うちの父さんが社長として切り盛りしている。そして、そんな父さんが黒永グループの会長と関わりがあると来た。
万が一悠里の愚行が「黒永君」からその父親に伝わり、機嫌を損ねてしまったら…
「父さんもしやクビ…?」
冗談まじりでそう言うと、母さんが「もお~!」と頬を膨らませながら俺の背中を叩く。
「縁起でもないこと言わないでよ~、パパが可哀そうでしょ?」
ムスッとしながらぶりっ子をする母さんは、父さんには好評だが俺から見ると痛々しい50代にしか見えない。
しかしこの母、普通ではない。代々受け継がれる複数の不動産により、巨額の収入が常時入ってくる、所謂不動産王なのである。父さんも一会社の社長であるため収入は異常なほど多いが、真の稼ぎ頭は母さんなのだ。この両親により、我が家の財布は潤いを通り越して、もはや溢れかえっていると言える。
悠里はそんな両親の財産を存分に使い、去年からとある高校に通っている。
その名も……私立三栄学園。
幼稚園から大学までの一貫校で、中等部から高等部にかけて寮での生活が義務付けられている。大学は各地から集まる学生で構成されているが、高校までは内部進学した生徒が多く、仲間意識の強さが売りらしい。
この学園の特徴は、なんといっても金持ちばかりというところだろう。悠里がこの学園に通うと言い出した際、パンフレットを一緒に見たが、設備がとにかくレベチであった。
トレーニングジムに乗馬場、ボートレースができる程の大きな池に、デパート、レストラン、その他娯楽施設など、痒い所に手が届くようになんでもそろっている。
悠里に一緒に行かないかと誘われたが、小さい頃から地元の学校で育ってきた庶民派の俺としては、学食の値段の「0」が1つ多いことから断固としてお断りだった。
そして俺がこの学園に行きたくない最大の理由。それは……男子校だからだ!
別に女の子と恋愛がしたいなどというわけではない。しかし学校に野郎どもしかいない上に寮暮らしなんて、ただのむさ苦しい牢獄じゃないか。
そんな感じで全力拒否した三栄学園だったが……
「いおちゃん、お願い……♡」
やはり俺は弟の尻拭い業から逃れられないらしい。
「はあ、分かったよ……」
「ありがとうーー!!やっぱりいおちゃんはママの味方だね♡」
投げキッスで飛んできたエアーハートを手で弾き飛ばし、俺はこれから訪れるであろう面倒事に胃痛を感じずにはいられなかった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる