揺れる波紋

しらかわからし

文字の大きさ
上 下
92 / 109
第一章

第91話

しおりを挟む
高坂は昨夜、帰って来てから何もしないで入浴後、直ぐに朝まで寝てしまった。最近の高坂は精神的に疲れていたので、自分の中では精神状態をニュートラルに持って行こうとして様々な試みをしていたが、男性は仕事が一番なので、何をやってもスッキリしないでいた。

まずは起きてシャワーを浴びながら歯磨き、その後髭を剃って洗濯をした。このような日常生活が苦も無くできるのは前妻が何もしない人だったから逆に良かったと思っていた。

バスタオルで体を拭いてパソコンの電源は入れたままで寝ていたが、熟睡していた所為か気付かなかった。

見ると昨夜から愛美からメールと留守電が入っていた。

大久保愛美
 こんばんは、帰宅して母と話しをしました。
「何で高坂さんにあんなに冷たくするのか」と訊いたら、
「冷たくした覚えがない」と言ったので、娘の私から見ても、
「失礼千万だと思う」と言うと、
「愛美、ダメよ。貴女、茂雄さんと結婚しているのよ」と言われました。
私は「ママ、何を考えているの?」と言ったところ、「高坂さん、高坂さんって煩いからよ」と言われて、その後は話しになりませんでした。
役に立たずにすみませんでした。

高坂
おはようございます。
昨夜、疲れて寝てしまったので返信できなくてごめんなさい。
やはり専務は答えませんでしたね。
分かっていた事なので、愛美さんは気にしないで下さい。
色々とお気遣いありがとうございました。

留守電を訊くと、「愛美です、こんばんは、もう寝ちゃったのでしょうか、この後にメールしておきます」だった。

 ※

毎朝、ホテル周辺を箒と塵取りを持って歩き、最後にお社の周りを清掃して、「幸福になりたい」「災難は避けたい」と願ってはいるものの神様は、「お前は人生の修業が足らん、もっと修業せぇ!」と言われているかのように、災難が降っては沸いている高坂だった。

人それぞれに幸福や災難を測る物差しを異にするにしても願う気持ちは共通している。世の中は嫌な事があまりにも多過ぎて、良い事には中々巡り逢えない。少なくとも悪い巡り合わせには巻き込まれないようにといつも願っていた。交通事故、火災、パワハラ、苛めなど増える一方ですし、事件も多様化していると良く耳にする。

既に毎日のように身に覚えのない事で経営者から苛められていた。まるで悪性のウイルスと紙一重で生活しているようなものだ。

反対に呼び込みたい「福」は、それらのウイルスを自身に近付けたくない事だ。健康を維持して、日々楽しく生きる事ができればこんな幸福な事はないのだが、中々平凡には生きていけないものだ。

高坂は東京で必死に仕事に明け暮れていた時期が懐かしかった。

「過去を振り返るな!」とは良く耳にする言葉だが、今は過去の楽しかった日々を思い、歯を食いしばって生きている高坂だった。救いは、愛美の優しさだ。

「さぁ、今日も頑張って仕事しますか!」と自分を鼓舞したと日記に書いてあった。その足で、妻に声をかけてホテル外の清掃に出掛けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

峽(はざま)

黒蝶
ライト文芸
私には、誰にも言えない秘密がある。 どうなるのかなんて分からない。 そんな私の日常の物語。 ※病気に偏見をお持ちの方は読まないでください。 ※症状はあくまで一例です。 ※『*』の印がある話は若干の吸血表現があります。 ※読んだあと体調が悪くなられても責任は負いかねます。 自己責任でお読みください。

一人暮らしだけど一人暮らしじゃない

ツヨシ
ライト文芸
心霊スポットから女の子が憑いてきた。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

グッバイ、親愛なる愚か者。

鳴尾
ライト文芸
学生寮に住む『僕』は人と関わるのが得意ではない。人は心が分からなくて、それがとても恐ろしいから。 対照的に、ルームメイトの『彼』は社交的で友だちも多い。 けれど彼には、秘密があった。 ※他サイトからのセルフ転載です

お題に挑戦した短編・掌編集

黒蜜きな粉
ライト文芸
某サイトさまのお題に挑戦した物語です。 どれも一話完結の短いお話となっております。 一応ライト文芸にいたしましたが、ポエムっぽい感じのものも多いです。

咲かない桜

御伽 白
ライト文芸
とある山の大きな桜の木の下で一人の男子大学生、峰 日向(ミネ ヒナタ)は桜の妖精を名乗る女性に声をかけられとあるお願いをされる。 「私を咲かせてくれませんか?」  咲くことの出来ない呪いをかけられた精霊は、日向に呪いをかけた魔女に会うのを手伝って欲しいとお願いされる。  日向は、何かの縁とそのお願いを受けることにする。  そして、精霊に呪いをかけた魔女に呪いを解く代償として3つの依頼を要求される。  依頼を通して日向は、色々な妖怪と出会いそして変わっていく。  出会いと別れ、戦い、愛情、友情、それらに触れて日向はどう変わっていくのか・・・  これは、生きる物語 ※ 毎日投稿でしたが二巻製本作業(自費出版)のために更新不定期です。申し訳ありません。

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

処理中です...