揺れる波紋

第一章

第67話

高坂は妻の博美と一緒に賄いを食べ終えると、タイムカードを押し、中抜け休憩に入った。だが、疲れているにもかかわらず、彼は休むことなくレストランの窓拭きを済ませた。やっと寮に戻り、妻と一息ついた。しばらくして、高坂は向かいに住む佐々木さんの若奥様から頼まれていた駐車場の砂利対策を思い出し準備を始めた。駐車場の砂利が散らばらないようにするためにコンクリート工事をするつもりだった。

まず、高坂は自宅から持ってきたブロワーで砂利の間に入り込んだ枯れ葉や小さなゴミを吸い取り、掃除をした。その後、玄関先のツルツルしたレンガの床を確認し、以前雨の日に滑って転んだことを思い出して、コンクリートをスレスレまで打つことを計画した。できるだけ材料費を抑えるため、庭のゴミの中にあった柵の切れ端を使い、資材の節約に努めた。モルタルに混ぜ込む砂利も、駐車場から自力で拾い集めた。腰が痛くなる作業だったが、彼は黙々と続けた。

作業を終え、汗を拭っていると、佐々木さんの大奥様が近づいてきた。彼女は缶コーヒーを二本差し出し、申し訳なさそうに言った。

「うちの娘が余計なことをお願いして、ごめんなさいね」

「いいえ、全然気にしないでください。こちらこそ、お世話になっていますから」

高坂は綺麗に掃除した駐車場を見つめ、明日休みをもらったので、その日に続きの作業をしようと決めた。シャワーを浴びた後、彼は昼寝をすることにした。

「少しは休んでね」と、博美が優しく声をかけてくれた。

昼寝から目を覚ました高坂は、なかなかベッドから起き上がれなかった。眠気を振り払おうと、目をこすりながら隣を見ると、テーブルの上に妻からの置手紙があり、博美は買い物に出かけたようだった。彼は身だしなみを整え、玄関へ向かうと、ドアを叩く音が聞こえた。

「高坂さ～ん！」という女性の声が外から響く。ドアを開けると、佐々木さんの若奥様が立っていた。

「どうされました？」と、高坂が尋ねると、彼女は気まずそうに言った。

「母に怒られちゃって……」

「えっ？　どうして？」

「私が高坂さんに余計なことを頼んだせいだって。」

高坂は微笑み、「もう作業を始めましたので、気にしないでください。この地域で長くお世話になるんですから、ご近所に迷惑をかけないようにしたいんです」

「お手伝いしましょうか？」

「いいえ、大丈夫です。明日お休みをもらったので、続きをやるつもりですから」

「本当にすみませんね。これ、お菓子なんですが、どうぞ」

彼女は恐縮しながらお菓子を差し出し、再びお詫びの言葉を残して帰っていった。

その後、高坂の車が駐車場にあると、若奥様は頻繁に差し入れを持ってくるようになった。彼女との会話が増えたせいで、時折、ホテルの夕食準備に遅れそうになることもあった。博美が帰ってくると、彼女と一緒にホテルに戻った。

事務所に着くと、博美はタイムカードを押し、レストランに向かった。高坂は愛美が話したそうにしていたので、少しの間その場に残った。

「高坂さん、美術館の植野さんから電話があって、スリランカ大使館に一緒に行きたいって言ってたのですが……」と、愛美が少し緊張しながら話しかけてきた。

「人数が分かれば問題ないですよ」と、高坂は軽く答えた。

「良かった！　怒られるかと思って、ヒヤヒヤしてました」

「でも、もうこれ以上は広めないでくださいね。代々木シェフにメールしておいたので、返事がきたらお知らせしますから」

「分かりました！」

「それと、県庁の佐野さんから言われたお皿の件、専務に話してもらえました？」

「その件は、高坂さんと一緒に大使館に行ってから話すつもりです。」

「そうですか。承知いたしました」

高坂はレストランに向かい、スタッフたちに挨拶を済ませると、カウンターの準備に取り掛かった。そのとき、佐藤英子がやってきて、話しかけた。

「あれ？ 夜のパートはどうしたの？」

「今日は休みをもらいました」

「俺たちも今日のディナーは準備をしただけで営業はやらないで明日一日休みをもらったのでこのまま帰るんだ」と高坂。

「たまには息抜きをしないと、高坂さんは男性だからいいけど、奥様の博美さんは疲れちゃうから労わってあげてよ。そうしないとうちみたいにりこんになっちゃうからね」と言った佐藤だった。

「うん。姉貴の経験談だからそうするよ。ありがとう」と言って高坂は博美に声をかけて一緒に帰り途中でスーパーに寄ってお惣菜を買い、ホームセンターに行き、セメントなどの資材を買って帰った。帰寮すると庭に買って着た資材を運び入れた。

妻は夕食の用意をしてくれて一緒に食事をした後に、久しぶりに一緒に入浴をしてベッドに入った。