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第一章
第42話
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高坂はライメンズクラブの会合を、どこか滑稽で面白いものだと感じていた。返事をする時には全員が「ガオー!」と叫ぶ決まりがあり、初めて参加した人はその異様な掛け声に驚き、思わず吹き出してしまうことも少なくなかった。
参加者は高齢の自称、紳士淑女たちで、一般的な会合とは一線を画している。さらに、このクラブにはこのホテルグループの社長もメンバーとして名を連ねており、その影響か、参加者たちは何かにつけて威張る傾向があった。
高坂がこれまで経験してきた、叔父が経営するホテルでの経済同友会やロータリークラブのメンバーの会合とは、まるで異質な雰囲気を感じていた。とはいえ、威張り散らす人々がいないわけではなかったが、このライメンズクラブのように露骨な態度を取る人々は珍しかった。
特にこのクラブの特徴として、参加者たちは、まるで自分が特別な存在であるかのように錯覚してしまうらしい。彼らは、自分を「ホテルのスタッフなど虫けら同然だ」と考え、自分が偉い存在であると勘違いしているのだ。
ロータリークラブは「一業種一社」を守っているため、競合が少ないが、ライメンズクラブはその規則が緩く、同じ業種のメンバーが複数社所属することも珍しくない。彼らは基本的にクラブ内で仕事を回し合っている。また、寄付をして「ライメンズクラブ寄贈」と銘打つことで、慈善事業を行っているとアピールしていた。さらに、ロータリークラブに入れなかった人たちが、ライメンズに拾われているような印象もあった。いずれにせよ、メンバーの紹介がなければ入会はできないのだ。
その日の会合で、高坂は一人の年配の男に目を留めた。その男は、料理には一切手を付けず、ひたすら酒を飲んでいるだけだった。やがて、周囲から「料理を下げて」との指示が出たため、高坂は「失礼します」と声をかけ、皿を下げようとした。
だがその瞬間、男は怒鳴り声を上げた。「この野郎! 何やってるんだ!」
高坂はすぐに頭を下げ、「大変申し訳ございません」と謝罪し、下げた皿を再び男の前に戻した。
次に、デザートを提供する時間が訪れた。しかし、用意していたデザートスプーンが一つ足りないことに気づいた。仕方なく、酒ばかり飲んで料理を全く食べていないこの男はデザートも食べないだろうと見込み、アンバランスな大きさのサーバースプーンを彼の前に置いた。
このホテルでは、食器が揃わないことがよくあった。必要なものは百円ショップで買い足すという有様で、外見だけは立派な建物だが、内実は貧乏くさいことこの上ない。高坂は心の中で、まるで品のない集まりだ、と冷ややかに見ていた。
その酔っ払いの老人は、結局酒だけを飲んで料理には手をつけないまま、千鳥足で会場を後にした。途中、階段でつまずき、前のめりに倒れ込んだが、周りのライメンズクラブのメンバーたちは笑いながら見ているだけで、誰一人として助けようとしなかった。
高坂はその場に駆け寄り、老人を支えようとしたが、彼はそのまま眠り込んでしまった。仕方なく、副支配人の品川に助けを求め、二人がかりで老人を階段から引き上げ、中二階の個室のソファーに寝かせた。
その後、高坂はレストランの片付けを終え、寮にいる妻を迎えに向かった。
参加者は高齢の自称、紳士淑女たちで、一般的な会合とは一線を画している。さらに、このクラブにはこのホテルグループの社長もメンバーとして名を連ねており、その影響か、参加者たちは何かにつけて威張る傾向があった。
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ロータリークラブは「一業種一社」を守っているため、競合が少ないが、ライメンズクラブはその規則が緩く、同じ業種のメンバーが複数社所属することも珍しくない。彼らは基本的にクラブ内で仕事を回し合っている。また、寄付をして「ライメンズクラブ寄贈」と銘打つことで、慈善事業を行っているとアピールしていた。さらに、ロータリークラブに入れなかった人たちが、ライメンズに拾われているような印象もあった。いずれにせよ、メンバーの紹介がなければ入会はできないのだ。
その日の会合で、高坂は一人の年配の男に目を留めた。その男は、料理には一切手を付けず、ひたすら酒を飲んでいるだけだった。やがて、周囲から「料理を下げて」との指示が出たため、高坂は「失礼します」と声をかけ、皿を下げようとした。
だがその瞬間、男は怒鳴り声を上げた。「この野郎! 何やってるんだ!」
高坂はすぐに頭を下げ、「大変申し訳ございません」と謝罪し、下げた皿を再び男の前に戻した。
次に、デザートを提供する時間が訪れた。しかし、用意していたデザートスプーンが一つ足りないことに気づいた。仕方なく、酒ばかり飲んで料理を全く食べていないこの男はデザートも食べないだろうと見込み、アンバランスな大きさのサーバースプーンを彼の前に置いた。
このホテルでは、食器が揃わないことがよくあった。必要なものは百円ショップで買い足すという有様で、外見だけは立派な建物だが、内実は貧乏くさいことこの上ない。高坂は心の中で、まるで品のない集まりだ、と冷ややかに見ていた。
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