揺れる波紋

しらかわからし

文字の大きさ
上 下
43 / 109
第一章

第42話

しおりを挟む
高坂はライメンズクラブの会合を、どこか滑稽で面白いものだと感じていた。返事をする時には全員が「ガオー!」と叫ぶ決まりがあり、初めて参加した人はその異様な掛け声に驚き、思わず吹き出してしまうことも少なくなかった。

参加者は高齢の自称、紳士淑女たちで、一般的な会合とは一線を画している。さらに、このクラブにはこのホテルグループの社長もメンバーとして名を連ねており、その影響か、参加者たちは何かにつけて威張る傾向があった。

高坂がこれまで経験してきた、叔父が経営するホテルでの経済同友会やロータリークラブのメンバーの会合とは、まるで異質な雰囲気を感じていた。とはいえ、威張り散らす人々がいないわけではなかったが、このライメンズクラブのように露骨な態度を取る人々は珍しかった。

特にこのクラブの特徴として、参加者たちは、まるで自分が特別な存在であるかのように錯覚してしまうらしい。彼らは、自分を「ホテルのスタッフなど虫けら同然だ」と考え、自分が偉い存在であると勘違いしているのだ。

ロータリークラブは「一業種一社」を守っているため、競合が少ないが、ライメンズクラブはその規則が緩く、同じ業種のメンバーが複数社所属することも珍しくない。彼らは基本的にクラブ内で仕事を回し合っている。また、寄付をして「ライメンズクラブ寄贈」と銘打つことで、慈善事業を行っているとアピールしていた。さらに、ロータリークラブに入れなかった人たちが、ライメンズに拾われているような印象もあった。いずれにせよ、メンバーの紹介がなければ入会はできないのだ。

その日の会合で、高坂は一人の年配の男に目を留めた。その男は、料理には一切手を付けず、ひたすら酒を飲んでいるだけだった。やがて、周囲から「料理を下げて」との指示が出たため、高坂は「失礼します」と声をかけ、皿を下げようとした。

だがその瞬間、男は怒鳴り声を上げた。「この野郎! 何やってるんだ!」

高坂はすぐに頭を下げ、「大変申し訳ございません」と謝罪し、下げた皿を再び男の前に戻した。

次に、デザートを提供する時間が訪れた。しかし、用意していたデザートスプーンが一つ足りないことに気づいた。仕方なく、酒ばかり飲んで料理を全く食べていないこの男はデザートも食べないだろうと見込み、アンバランスな大きさのサーバースプーンを彼の前に置いた。

このホテルでは、食器が揃わないことがよくあった。必要なものは百円ショップで買い足すという有様で、外見だけは立派な建物だが、内実は貧乏くさいことこの上ない。高坂は心の中で、まるで品のない集まりだ、と冷ややかに見ていた。

その酔っ払いの老人は、結局酒だけを飲んで料理には手をつけないまま、千鳥足で会場を後にした。途中、階段でつまずき、前のめりに倒れ込んだが、周りのライメンズクラブのメンバーたちは笑いながら見ているだけで、誰一人として助けようとしなかった。

高坂はその場に駆け寄り、老人を支えようとしたが、彼はそのまま眠り込んでしまった。仕方なく、副支配人の品川に助けを求め、二人がかりで老人を階段から引き上げ、中二階の個室のソファーに寝かせた。

その後、高坂はレストランの片付けを終え、寮にいる妻を迎えに向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

カフェの住人あるいは代弁者

大西啓太
ライト文芸
大仰なあらすじやストーリーは全く必要ない。ただ詩を書いていくだけ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...