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第一章
第41話
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朝食の時間、高坂の仕事は順調に進んでいた。何事もなくサービスを終えた頃、副支配人の品川が慌ただしく近づいてきた。
「高坂さん、急で悪いんですが、今日の昼、ライメンズのランチを手伝ってもらえませんか? 賄いを食べて、奥様を寮に送られてからで構いません。それに残業代もちゃんと出しますから」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
高坂のホテルでの基本的な勤務時間は朝六時から十時まで。その後、賄いを食べて一旦休憩し、ディナーの十八時から二十二時までのシフトだ。だが、時折この間に各種団体の会合が入ることがある。今日はまさにそのケースで、急遽スタッフが足りなくなり、高坂が対応することになった。
高坂は賄いを急いで平らげ、妻を寮に送り届けてからホテルに戻り、品川にランチのセッティング方法を教わった。それぞれのホテルで設定のやり方は微妙に違うため、素直に先輩から教わるのが一番だと高坂は考えていた。
今回の会合は二十名程度の洋食ランチで、メインは肉料理という小さなコースだった。
「じゃあ、最後にホットコーヒーを淹れてディスペンサーに移しておいてください」と品川が指示を出したので高坂は「承知いたしました」と言った。担当のスタッフは品川、愛美、そして高坂の三人だけだった。
定刻通りに会合が始まり、調理場から次々に料理が運ばれてくる。しかし、温蔵庫に入れられていた皿は熱すぎて、手で持つのは到底、無理なほどだった。温蔵庫の温度は八十度くらいあるだろうと高坂は考えていた。突然、品川が「アチーッ!」と叫んだ。
するとシェフが調理場から顔を出し、「そんなのも持てないのか!」と怒鳴りつけた。高坂も試しにその皿を手に取ってみたが、テーブルまで運ぶのは到底、不可能な熱さだった。そこで、洗い場にあったワゴンを持ってきて、十人分の皿を一度に載せて運ぶことにした。
「高坂さん、何でシェフはワゴンを使うと何も言わないんでしょうね?」と品川が小声で不思議そうに言った。「今まで私が同じことをしたら、シェフに鬼のような顔で怒鳴られていたんですけど」
「いや、あんなに熱い皿なんか誰も持てないですよ。シェフだって、自分で持ってサービスなんかできないでしょうし。皿を落としたらそれこそ大変なことになりますよ」と高坂は冷静に返した。
「高坂さん、本当に怖いものなしですね」と愛美が感心したように言う。
「愛美さんがやっても、シェフは何も言わないと思いますよ」と言って「平目社員ですから」と言いそうになったが、言葉を飲んだ高坂が笑って返した。
「じゃあ、言われるのは俺だけか……?」と品川は悲しそうな顔をして苦笑いした。
十人分の料理をテーブルにサービスした後、高坂は調理場に顔を出して、笑いながら言った。「シェフ、あんなに熱い皿なんか持てませんよ!」
するとシェフは申し訳なさそうに「すみません、以後気をつけます」と返した。
高坂は再びワゴンを使って次の十人分を運び、今度は下げる作業もワゴンでこなした。重ねて持っていくと、洗い場の目黒がニコニコしながら感謝の目を向けていた。高校一年生の時、バイトで洗い場を半年ほど経験していた高坂は、同じ大きさや形のものを重ねて洗うと効率が良いことを知っていたのだ。
その経験が今でも役に立っていることに、高坂は少し満足感を覚えた。
「高坂さん、急で悪いんですが、今日の昼、ライメンズのランチを手伝ってもらえませんか? 賄いを食べて、奥様を寮に送られてからで構いません。それに残業代もちゃんと出しますから」
「はい、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
高坂のホテルでの基本的な勤務時間は朝六時から十時まで。その後、賄いを食べて一旦休憩し、ディナーの十八時から二十二時までのシフトだ。だが、時折この間に各種団体の会合が入ることがある。今日はまさにそのケースで、急遽スタッフが足りなくなり、高坂が対応することになった。
高坂は賄いを急いで平らげ、妻を寮に送り届けてからホテルに戻り、品川にランチのセッティング方法を教わった。それぞれのホテルで設定のやり方は微妙に違うため、素直に先輩から教わるのが一番だと高坂は考えていた。
今回の会合は二十名程度の洋食ランチで、メインは肉料理という小さなコースだった。
「じゃあ、最後にホットコーヒーを淹れてディスペンサーに移しておいてください」と品川が指示を出したので高坂は「承知いたしました」と言った。担当のスタッフは品川、愛美、そして高坂の三人だけだった。
定刻通りに会合が始まり、調理場から次々に料理が運ばれてくる。しかし、温蔵庫に入れられていた皿は熱すぎて、手で持つのは到底、無理なほどだった。温蔵庫の温度は八十度くらいあるだろうと高坂は考えていた。突然、品川が「アチーッ!」と叫んだ。
するとシェフが調理場から顔を出し、「そんなのも持てないのか!」と怒鳴りつけた。高坂も試しにその皿を手に取ってみたが、テーブルまで運ぶのは到底、不可能な熱さだった。そこで、洗い場にあったワゴンを持ってきて、十人分の皿を一度に載せて運ぶことにした。
「高坂さん、何でシェフはワゴンを使うと何も言わないんでしょうね?」と品川が小声で不思議そうに言った。「今まで私が同じことをしたら、シェフに鬼のような顔で怒鳴られていたんですけど」
「いや、あんなに熱い皿なんか誰も持てないですよ。シェフだって、自分で持ってサービスなんかできないでしょうし。皿を落としたらそれこそ大変なことになりますよ」と高坂は冷静に返した。
「高坂さん、本当に怖いものなしですね」と愛美が感心したように言う。
「愛美さんがやっても、シェフは何も言わないと思いますよ」と言って「平目社員ですから」と言いそうになったが、言葉を飲んだ高坂が笑って返した。
「じゃあ、言われるのは俺だけか……?」と品川は悲しそうな顔をして苦笑いした。
十人分の料理をテーブルにサービスした後、高坂は調理場に顔を出して、笑いながら言った。「シェフ、あんなに熱い皿なんか持てませんよ!」
するとシェフは申し訳なさそうに「すみません、以後気をつけます」と返した。
高坂は再びワゴンを使って次の十人分を運び、今度は下げる作業もワゴンでこなした。重ねて持っていくと、洗い場の目黒がニコニコしながら感謝の目を向けていた。高校一年生の時、バイトで洗い場を半年ほど経験していた高坂は、同じ大きさや形のものを重ねて洗うと効率が良いことを知っていたのだ。
その経験が今でも役に立っていることに、高坂は少し満足感を覚えた。
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