揺れる波紋

しらかわからし

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第一章

第39話

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今日の夕食は、高坂夫妻と愛美の三人だけだった。山形が休みの日は、こうしてこぢんまりとした食事が続く。夕食後、片付けをする前に、高坂は賄いにかけてあったサランラップを取っていると、愛美も自分の賄いを持ってテーブルに着いた。

「今日は色々と勉強になりました」と愛美が静かに口を開いた。

「そんな、たいしたことはしていませんよ。むしろ、私こそ失礼しました」と高坂は謙遜する。

しかし、愛美はニヤリと笑いながら、「でも、高坂さんが相当なエッチだってことも分かりました」と冗談を飛ばした。

高坂は少し驚きつつも笑顔を浮かべた。「ああ、そうなんですか。そんなことまでバレちゃったか……?」

愛美はふざけて、「洗い場の人たちくらいの年齢の熟女が、高坂さんのお好みなんですね?」と言って高坂の腿を抓った。

「イテェー!」と高坂は大げさに叫んで、「はい、大正解!」とおどけながら、愛美を指さした。

愛美は冗談混じりに、「私、高坂さんの一番の女性になりたいんです。だから、洗い場の人との会話を聞いて、妬けちゃいました」と打ち明ける。

「まだ何もしていないのに?」高坂は驚いた顔を見せる。

「だから、余計かもしれませんね」と愛美は少し照れながら答えた。

「でも、愛美さんにはご主人がいるでしょう? 失礼ですが浮気体質なんですか?」と高坂がからかう。

「そう思われても仕方ないかもしれませんが……、高坂さんが気になって」と愛美は苦笑する。

その時、博美が戻ってきた。「遅くなってごめんなさい。トイレに行ってたの」と言いながら賄いを持って席に着いた。

「じゃあ、いただきましょう」と高坂が言い、三人は手を合わせた。

食事を始めると、愛美が話題を切り出した。「それにしても、シェフと品川さんをうまくまとめましたよね。」

「あの瞬間を逃すわけにはいかなかったですからね」と高坂は軽く答える。

「高坂さんって、本当にチームをまとめるのが上手ですよね」と愛美が感心した様子で言った。

「いや、そんなことはないですよ。でも、やっぱり職場って意思疎通が大事で、それができている方が、結局お客様のためになるんじゃないですか?」

「高坂さんに言われて恥ずかしいですが、今まで誰が一番かって社長やシェフのことばかり考えていて、お客様が一番だってこと、忘れていました。」

「そう。サービス業の一番の目的は、お客様が楽しめる空間を提供することですものね」

ふと、思い出したように高坂が問いかけた。「ところで、あのケチャップ事件はどうなったのですか?」

愛美は少し顔を曇らせた。「あの件は……正直、社長や専務に相談せずに、私が勝手に処理して有耶無耶にしてしまいました。もうそれしか方法がなかったんです」

「確かに、あの問題は簡単に結論を出せるものじゃなかったですからね。スタッフたちもあまり触れたくないでしょうし、あれで良かったと思いますよ。」

「そう言っていただけると、少し気が楽になります」

食事が終わると、三人で食器を洗い場に持って行き、協力して洗った。その後、三人は事務所に行ってタイムカードを押し、職員通用口へと向かった。

「今日は一日が長かったな……」と、高坂は深く息をつき静かに星空を見上げた。
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