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第一章
第36話
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博美は既にお茶をテーブルに用意しており、高坂は愛美をリビングに招き入れてソファに座らせた。
「さて、本題に入りますね。社長が退いた後は、愛美さんが次期社長を務めることになるのですよね?」と高坂が切り出す。
「はい、そうなると思います」と愛美がうなずく。
「それで、現在の惨状を見せておいた方が良いかと思いまして」と高坂が続けた。
愛美は眉をひそめる。「惨状って、どこですか?」
「まずは二階の様子をご覧ください」と高坂はデジカメで撮った写真を見せてから、愛美を二階へと案内した。
「これが……こんなに綺麗になったんですか?」と愛美は驚きの声を上げた。
「整理整頓して、ゴミ以外は一通りまとめました」と高坂が淡々と説明する。
「本当に大変だったんですよ。仕事が終わってから毎日少しずつ片付けて妻と二人で、やっとここまできました」と言って、ゴミの山の写真も見せた。その後、一階に降り、窓から庭を指差して説明する。
「あの廃タイヤは産業廃棄物なので、市の焼却場には持って行けません。裏に積んでおくしかないんです。そして、これらの廃材は市の焼却場に運びます。お隣の奥様からも、生垣の木が越境しているから切ってほしいと言われているので、休みの日に対応しようと思っています」と立て続けに話す。
「業者を呼びます」と愛美が申し出た。
だが高坂は少し声を強めて言った。「業者を呼ぶつもりなら、そもそもこの惨状を見せませんでした。私が何を伝えたいか、分かっていただけないのですか?」
愛美は気まずそうに俯き、「すみません」と力なく答えた。
「そして、まだ途中ですがベランダのこともお話しします」と高坂は続けた。
「はい」と愛美は神妙な顔で耳を傾ける。
「あの散乱したゴミのせいで、二階には鼠が住み着いていました。部屋に獣の臭いが染み付いていて、洗濯物を部屋干しすると臭くなってしまうんです。今は消臭剤を使っていますが、初めてこの家に入った時は本当に酷かったです。外に干したくても、勤務中に雨が降ると取り込めませんから、仕方なく部屋干ししています。それで、ベランダに屋根を作って、少しでも快適にしようとしているんです」
愛美は肩を落とし、再び「すみません」と申し訳なさそうに言った。
高坂は静かに微笑み、「何を謝るんですか? 社長が退職される時に私はきちんと本人にお話ししますが、次期社長である愛美さんには、今のうちに分かっていてほしいんです」と言葉を続けた。
愛美は再び「はい」と、元気のない声で答えた。
「どんな人でも、こんな汚い寮に住まわされたら、まともに仕事なんてできません。これから大きな事業を控えているのに、引っ張ってきた人間を大切にしないなんてどうかしていますよね?」と高坂が問いかける。
愛美は深く頷き、「確かに……おっしゃる通りです」と静かに答えた。
「この状況なら、狭い部屋でも良いからアパートの方がまだマシです。社長に頼まれて、この会社に再就職したのに、こんなゴミだらけの寮で、汚れた職場で働いている人たちはパワハラやトラブルだらけです」と高坂は静かに語った。
愛美は真剣な表情で高坂の言葉を聞き、「高坂さんご夫妻のお気持ちを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいです。父であり社長が犯したご無礼、心からお詫びします。本当に申し訳ございませんでした。そして、今日のお話を胸に刻んで、次期社長としての責任をしっかりと学んでいきます」と頭を下げた。
高坂も頭を下げ、「こんなところにお連れして申し訳ありませんでした」と言った。
愛美は深く一礼し、ホテルへと帰っていった。
「さて、本題に入りますね。社長が退いた後は、愛美さんが次期社長を務めることになるのですよね?」と高坂が切り出す。
「はい、そうなると思います」と愛美がうなずく。
「それで、現在の惨状を見せておいた方が良いかと思いまして」と高坂が続けた。
愛美は眉をひそめる。「惨状って、どこですか?」
「まずは二階の様子をご覧ください」と高坂はデジカメで撮った写真を見せてから、愛美を二階へと案内した。
「これが……こんなに綺麗になったんですか?」と愛美は驚きの声を上げた。
「整理整頓して、ゴミ以外は一通りまとめました」と高坂が淡々と説明する。
「本当に大変だったんですよ。仕事が終わってから毎日少しずつ片付けて妻と二人で、やっとここまできました」と言って、ゴミの山の写真も見せた。その後、一階に降り、窓から庭を指差して説明する。
「あの廃タイヤは産業廃棄物なので、市の焼却場には持って行けません。裏に積んでおくしかないんです。そして、これらの廃材は市の焼却場に運びます。お隣の奥様からも、生垣の木が越境しているから切ってほしいと言われているので、休みの日に対応しようと思っています」と立て続けに話す。
「業者を呼びます」と愛美が申し出た。
だが高坂は少し声を強めて言った。「業者を呼ぶつもりなら、そもそもこの惨状を見せませんでした。私が何を伝えたいか、分かっていただけないのですか?」
愛美は気まずそうに俯き、「すみません」と力なく答えた。
「そして、まだ途中ですがベランダのこともお話しします」と高坂は続けた。
「はい」と愛美は神妙な顔で耳を傾ける。
「あの散乱したゴミのせいで、二階には鼠が住み着いていました。部屋に獣の臭いが染み付いていて、洗濯物を部屋干しすると臭くなってしまうんです。今は消臭剤を使っていますが、初めてこの家に入った時は本当に酷かったです。外に干したくても、勤務中に雨が降ると取り込めませんから、仕方なく部屋干ししています。それで、ベランダに屋根を作って、少しでも快適にしようとしているんです」
愛美は肩を落とし、再び「すみません」と申し訳なさそうに言った。
高坂は静かに微笑み、「何を謝るんですか? 社長が退職される時に私はきちんと本人にお話ししますが、次期社長である愛美さんには、今のうちに分かっていてほしいんです」と言葉を続けた。
愛美は再び「はい」と、元気のない声で答えた。
「どんな人でも、こんな汚い寮に住まわされたら、まともに仕事なんてできません。これから大きな事業を控えているのに、引っ張ってきた人間を大切にしないなんてどうかしていますよね?」と高坂が問いかける。
愛美は深く頷き、「確かに……おっしゃる通りです」と静かに答えた。
「この状況なら、狭い部屋でも良いからアパートの方がまだマシです。社長に頼まれて、この会社に再就職したのに、こんなゴミだらけの寮で、汚れた職場で働いている人たちはパワハラやトラブルだらけです」と高坂は静かに語った。
愛美は真剣な表情で高坂の言葉を聞き、「高坂さんご夫妻のお気持ちを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいです。父であり社長が犯したご無礼、心からお詫びします。本当に申し訳ございませんでした。そして、今日のお話を胸に刻んで、次期社長としての責任をしっかりと学んでいきます」と頭を下げた。
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愛美は深く一礼し、ホテルへと帰っていった。
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