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第一章
第27話
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朝食が終わり、賄いを済ませた高坂は、妻の博美を社員寮に送り届けてから再びホテルに戻った。レストランの大きなガラス窓を丁寧に拭き、掃除が終わるとホームセンターへ向かい、社員寮のベランダに設置する屋根の部材を購入した。寮に戻り、取り付け作業に再び取り掛かる。
高坂はかつてレストランを経営していた時、友人の家のデッキが雨水で腐食して壊れたのを修繕してあげたことがあり、DIYは彼の趣味の一つだった。決してプロの大工の腕には及ばないものの、作業そのものが楽しく、何よりストレス発散にもなっていた。今日も、中抜け休憩が終わる頃には、あたりが暗くなるまで作業に没頭していた。
作業中、隣の奥様が「すごいじゃない!」と声をかけてくれ、高坂は照れくさそうに笑った。
※ ※ ※
その夜、寮では女子高生が既に夕食の準備を終えていた。高坂は彼女のもとへ行き、「今日も準備ありがとうね!」と声をかけた。
彼女は最近では高坂の感謝の言葉に慣れてきて、ニコニコと笑顔を浮かべ、「どういたしまして!」と親しみを込めて返すようになっていた。今晩の宿泊客は三十名。半分が外国からの観光客で、残り半分が日本人だった。スタッフは高坂夫妻、山形、富田、女子高生、そして愛美が揃っていた。
大崎は最近、大型自動車免許を取るために早番勤務にしていたので、夕方には退社していた。今日の夕食対応は英語が堪能な山形と愛美がいるため、高坂の出番はないだろうと思っていた。
ふと、高坂は疑問を感じた。山形は夫もいて、立派な家に住んでいる。それにローンも完済しているはずだ。それなのに、どうして彼女は夕食のパートを続けているのだろう。余計な詮索だと分かっていながらも、その理由が気になっていた。
客の対応がひと段落した頃、高坂が洗い場へ行くと、目黒と鈴木がニコニコと笑っていた。高坂は冗談を込めて目黒に話しかけた。「今日も化粧映えしてますね。元が良いから一段と美しく見えますよ!」
「そんなこと言っても、何も出ないわよ!」と目黒は嬉しそうに返しながら笑った。
「出ないでしょうね、若くないんだから」と高坂がさらに冗談を続けると、目黒は「コラァ! 何がよ!」と言って二人で大笑いした。
その後、目黒は高坂の耳元で、小声にして囁いた。「今度、試してよ」
「馬鹿言ってんじゃないよ」と高坂は軽くいなし、二人はまた笑い合った。
そこに、良太が調理場から出てきて、「目黒さんと鈴木さん、高坂さんが来るのを待ってたんですよ」と言った。
「良ちゃん、子供は余計なこと言わないの!」と目黒と鈴木が口を揃えて良太を窘める。
「はいはい、どうせ僕は子供ですよ」と良太は肩をすくめて調理場に戻っていった。店内の雰囲気は、一週間前とはまるで別物のように明るくなっていた。
その時、愛美が入ってきて、「皆さん、楽しそうじゃない? 私も仲間に入れてよ!」と言ったが、目黒と鈴木はシラーッとした顔をして、それぞれの持ち場に戻って行った。
愛美は少し悲しそうに言った。「私が来ると、皆いなくなっちゃう」
高坂は肩をすくめて、「経営者だから仕方ないですよ」と答えた。
愛美はため息をつきながら続けた。「高坂さん、本当にごめんなさい。うちの社長が余計なことを言ってしまって……。本来ならシェフにも同じこと、いや、もっと厳しいことを課すべきなのに、高坂さんにだけ押し付けてしまって」
その言葉を聞きながら、高坂は少し含み笑いを浮かべた。愛美は社長や専務とは違い、少しは人の気持ちが分かる子なのかもしれない、と心の中で思ったが、それ以上は何も言わなかった。
高坂はかつてレストランを経営していた時、友人の家のデッキが雨水で腐食して壊れたのを修繕してあげたことがあり、DIYは彼の趣味の一つだった。決してプロの大工の腕には及ばないものの、作業そのものが楽しく、何よりストレス発散にもなっていた。今日も、中抜け休憩が終わる頃には、あたりが暗くなるまで作業に没頭していた。
作業中、隣の奥様が「すごいじゃない!」と声をかけてくれ、高坂は照れくさそうに笑った。
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その夜、寮では女子高生が既に夕食の準備を終えていた。高坂は彼女のもとへ行き、「今日も準備ありがとうね!」と声をかけた。
彼女は最近では高坂の感謝の言葉に慣れてきて、ニコニコと笑顔を浮かべ、「どういたしまして!」と親しみを込めて返すようになっていた。今晩の宿泊客は三十名。半分が外国からの観光客で、残り半分が日本人だった。スタッフは高坂夫妻、山形、富田、女子高生、そして愛美が揃っていた。
大崎は最近、大型自動車免許を取るために早番勤務にしていたので、夕方には退社していた。今日の夕食対応は英語が堪能な山形と愛美がいるため、高坂の出番はないだろうと思っていた。
ふと、高坂は疑問を感じた。山形は夫もいて、立派な家に住んでいる。それにローンも完済しているはずだ。それなのに、どうして彼女は夕食のパートを続けているのだろう。余計な詮索だと分かっていながらも、その理由が気になっていた。
客の対応がひと段落した頃、高坂が洗い場へ行くと、目黒と鈴木がニコニコと笑っていた。高坂は冗談を込めて目黒に話しかけた。「今日も化粧映えしてますね。元が良いから一段と美しく見えますよ!」
「そんなこと言っても、何も出ないわよ!」と目黒は嬉しそうに返しながら笑った。
「出ないでしょうね、若くないんだから」と高坂がさらに冗談を続けると、目黒は「コラァ! 何がよ!」と言って二人で大笑いした。
その後、目黒は高坂の耳元で、小声にして囁いた。「今度、試してよ」
「馬鹿言ってんじゃないよ」と高坂は軽くいなし、二人はまた笑い合った。
そこに、良太が調理場から出てきて、「目黒さんと鈴木さん、高坂さんが来るのを待ってたんですよ」と言った。
「良ちゃん、子供は余計なこと言わないの!」と目黒と鈴木が口を揃えて良太を窘める。
「はいはい、どうせ僕は子供ですよ」と良太は肩をすくめて調理場に戻っていった。店内の雰囲気は、一週間前とはまるで別物のように明るくなっていた。
その時、愛美が入ってきて、「皆さん、楽しそうじゃない? 私も仲間に入れてよ!」と言ったが、目黒と鈴木はシラーッとした顔をして、それぞれの持ち場に戻って行った。
愛美は少し悲しそうに言った。「私が来ると、皆いなくなっちゃう」
高坂は肩をすくめて、「経営者だから仕方ないですよ」と答えた。
愛美はため息をつきながら続けた。「高坂さん、本当にごめんなさい。うちの社長が余計なことを言ってしまって……。本来ならシェフにも同じこと、いや、もっと厳しいことを課すべきなのに、高坂さんにだけ押し付けてしまって」
その言葉を聞きながら、高坂は少し含み笑いを浮かべた。愛美は社長や専務とは違い、少しは人の気持ちが分かる子なのかもしれない、と心の中で思ったが、それ以上は何も言わなかった。
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