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第一章
第22話
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夕食の時間、大崎が早番で帰ったため、副支配人の品川が代わりにレストランの業務を担当することになった。いつものメンバーは高坂夫妻、山形、そして女子高生スタッフ。今日は予約が四十五名と珍しく多く忙しい夜だった。
その中には「世界ソプラノミスト」という慈善団体のメンバーが二十名来店していた。専務がこの団体に所属しており、幹部のご婦人たちが定例会として訪れたのだ。彼女たちの担当は専務と品川が引き受け、その他の宿泊客は高坂夫妻と山形、女子高生が対応することになった。
世界ソプラノミストの団体客は、五本の赤ワインを注文した。それを見て高坂は「ずいぶん飲むんだな」と思った。
品川はワインのコルクを開けるため、ペティナイフでキャップシールを切っていたが、手が滑って左手の指を切ってしまった。流血し、品川は慌てて事務所へ駆け込んだ。その様子を見た専務は、「この忙しい時に、何をやってるのよ! ったく!」と苛立ち、舌打ちをしながら叫んだ。
品川が残したワインのキャップシールを外し終えた後、専務自らが五本のワインをトレンチに載せ、テーブルへ運んだ。だが、目の前でコルクを抜こうとしたものの、どうしても抜けない。専務は冷や汗をかきながら、何度も引っ張ったが、コルクはびくともしなかった。
高坂は、その様子を見ていたが、いつも専務から嫌がらせを受けているため、余計なことをしてまた社長に嘘の報告をされるのが嫌で黙っていた。他のお客様へのサービスに集中していたが、あまりに時間がかかりすぎて、お客様が気の毒に思えてきた。
ついに高坂は専務の隣に近づき、「私が開けましょうか?」と声をかけたが、専務は冷たく「大丈夫よ!」と返してきた。高坂はその場を離れ、再び黙々と仕事に戻った。
調理場の料理人たちは皆、専務の様子を見て哀しそうな顔をしていた。専務は最後には、ワインの瓶を股に挟んで抜こうとしたが、それでもコルクは抜けなかった。顔を真っ赤にして「高坂!」と叫んだ。
「はい」と高坂は返事をし、専務のもとへ向かった。
「開けなさいよ!」
「承知いたしました」と高坂は冷静に答え、ポケットから自身のソムリエナイフを取り出した。キャップシールが残っている二本のワインにナイフを一周させて取り除き、スクリューをコルクの真ん中より少しずらして刺し、一度途中まで抜いてからもう一度差し込み、左手で瓶とオープナーを抑えながら、右手でレバーを垂直に引き上げてコルクを見事に抜いた。
その一連の動作は、まるでプロフェッショナルの落ち着きと正確さで行われた。高坂はプジョネをし、ワインを専務に渡すと、彼女は仕方なく自ら注いで回った。
最後の一本を抜き終えた瞬間、世界ソプラノミストの気品あるご婦人たちから笑顔で拍手が贈られた。専務は苦虫を噛み潰したような顔で高坂を睨んでいた。
その後、高坂がレストランで外国人の客と英語で会話している様子を、ご婦人たちは興味深く耳を傾けていた。高坂の下手な英語にも関わらず、その中の数人は英語が堪能で、彼の会話に親しみを感じ、微笑みながら聞き入っていた。
婦人たちは、会合よりもむしろ高坂に興味を持っているようで、彼が動くたびにその目が彼を追いかけた。それを見て高坂も心の中で笑った。
会が終わり、帰り際に三人のご婦人が高坂に握手を求めてきた。その中の一人のご婦人から手のひらに、何か小さな紙片が握らされた。チップかと思い、すぐにポケットにしまったが、後で見てみるとそれは名刺で、裏には「携帯番号」と「電話ください」と書かれていた。
見覚えのある名前が記されていたが、顔をよく見なかったことで、その人なら随分、前だったので誰だか思い出せなかった。
その中には「世界ソプラノミスト」という慈善団体のメンバーが二十名来店していた。専務がこの団体に所属しており、幹部のご婦人たちが定例会として訪れたのだ。彼女たちの担当は専務と品川が引き受け、その他の宿泊客は高坂夫妻と山形、女子高生が対応することになった。
世界ソプラノミストの団体客は、五本の赤ワインを注文した。それを見て高坂は「ずいぶん飲むんだな」と思った。
品川はワインのコルクを開けるため、ペティナイフでキャップシールを切っていたが、手が滑って左手の指を切ってしまった。流血し、品川は慌てて事務所へ駆け込んだ。その様子を見た専務は、「この忙しい時に、何をやってるのよ! ったく!」と苛立ち、舌打ちをしながら叫んだ。
品川が残したワインのキャップシールを外し終えた後、専務自らが五本のワインをトレンチに載せ、テーブルへ運んだ。だが、目の前でコルクを抜こうとしたものの、どうしても抜けない。専務は冷や汗をかきながら、何度も引っ張ったが、コルクはびくともしなかった。
高坂は、その様子を見ていたが、いつも専務から嫌がらせを受けているため、余計なことをしてまた社長に嘘の報告をされるのが嫌で黙っていた。他のお客様へのサービスに集中していたが、あまりに時間がかかりすぎて、お客様が気の毒に思えてきた。
ついに高坂は専務の隣に近づき、「私が開けましょうか?」と声をかけたが、専務は冷たく「大丈夫よ!」と返してきた。高坂はその場を離れ、再び黙々と仕事に戻った。
調理場の料理人たちは皆、専務の様子を見て哀しそうな顔をしていた。専務は最後には、ワインの瓶を股に挟んで抜こうとしたが、それでもコルクは抜けなかった。顔を真っ赤にして「高坂!」と叫んだ。
「はい」と高坂は返事をし、専務のもとへ向かった。
「開けなさいよ!」
「承知いたしました」と高坂は冷静に答え、ポケットから自身のソムリエナイフを取り出した。キャップシールが残っている二本のワインにナイフを一周させて取り除き、スクリューをコルクの真ん中より少しずらして刺し、一度途中まで抜いてからもう一度差し込み、左手で瓶とオープナーを抑えながら、右手でレバーを垂直に引き上げてコルクを見事に抜いた。
その一連の動作は、まるでプロフェッショナルの落ち着きと正確さで行われた。高坂はプジョネをし、ワインを専務に渡すと、彼女は仕方なく自ら注いで回った。
最後の一本を抜き終えた瞬間、世界ソプラノミストの気品あるご婦人たちから笑顔で拍手が贈られた。専務は苦虫を噛み潰したような顔で高坂を睨んでいた。
その後、高坂がレストランで外国人の客と英語で会話している様子を、ご婦人たちは興味深く耳を傾けていた。高坂の下手な英語にも関わらず、その中の数人は英語が堪能で、彼の会話に親しみを感じ、微笑みながら聞き入っていた。
婦人たちは、会合よりもむしろ高坂に興味を持っているようで、彼が動くたびにその目が彼を追いかけた。それを見て高坂も心の中で笑った。
会が終わり、帰り際に三人のご婦人が高坂に握手を求めてきた。その中の一人のご婦人から手のひらに、何か小さな紙片が握らされた。チップかと思い、すぐにポケットにしまったが、後で見てみるとそれは名刺で、裏には「携帯番号」と「電話ください」と書かれていた。
見覚えのある名前が記されていたが、顔をよく見なかったことで、その人なら随分、前だったので誰だか思い出せなかった。
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