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第一章
第21話
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高坂は昨夜、遅くまでベランダの屋根を取り付けていたせいで、朝起きるのが辛かった。しかし、妻には早めに休んでもらい、朝の掃除に付き合わせないように配慮した。高坂だけが意を決して起き、一時間早く出勤することにした。
いつものルーティーン通り、ホテルの外周を掃き、駅舎前、自転車置き場、派出所前と進む中、見回りをしている派出所の警察官である顔見知りの山田に声をかけられた。
「いつも見ていますよ。貴方がホテルに入社してから、駅の周りが綺麗になった。綺麗になると犯罪も減る。貴方の働きは立派だ。いつもありがとうございます」
「恐縮です」と、高坂は軽く頭を下げる。
山田は続けた。「貴方のことを、署長に話したんだよ。先日の防犯委員会で、うちの署長が社長に感謝を伝えたって聞いたけど、社長から何か言われましたか?」
「いえ、特に何も。ただ、私は褒められたくてやっているわけではないので」
「そうですよね。分かっていますよ。これからも頑張ってくれ。陰ながら応援していますから」
「ありがとうございます」と、高坂は笑顔で答えた。
その後、高坂は駅舎前の生垣の中に落ちているゴミを取り除き、掃除を終えると寮に戻って妻を迎えに行った。博美は家事を済ませており、「日頃できなかった分、片付けておいたわ」と言った。高坂は彼女に優しく微笑み、「もう少しゆっくりしていいんだよ。身体が一番大事だからね」と労った。
その後、二人は一緒にホテルに出勤した。到着すると、社長から指示があった。「毎週月曜の朝食後、派出所と駅舎にコーヒーを持っていってくれ」とのことだ。「承知しました」と高坂は答え、以後、自身の休み以外の月曜はその指示を守ることにし、上司の大崎にも伝えた。
※ ※ ※
朝食と賄いの時はいつも通りで、中抜け休憩の時間にはタイムカードを押し、レストランのガラスを磨いた。その後、寮に戻り、ベランダの屋根取り付け作業の一部である部材の色塗りに取りかかった。白の水性ペンキを使い、屋根が完成すれば、洗濯物を外に干して出勤できる。
今は部屋干ししているため、二階に住みついた鼠の臭いが洗濯物についてしまい、その匂いで吐き気を催すこともあった。高坂は「早く何とかしなければ」と焦りを募らせていた。
東京のマンションで前妻と離婚後、独身時代をだらしなく過ごしたこともあったが、獣が住みつく家に住むのは初めてだった。人は慣れれば大抵のことは受け入れられるものだが、この臭いだけは、どうしても慣れなかった高坂だった。
いつものルーティーン通り、ホテルの外周を掃き、駅舎前、自転車置き場、派出所前と進む中、見回りをしている派出所の警察官である顔見知りの山田に声をかけられた。
「いつも見ていますよ。貴方がホテルに入社してから、駅の周りが綺麗になった。綺麗になると犯罪も減る。貴方の働きは立派だ。いつもありがとうございます」
「恐縮です」と、高坂は軽く頭を下げる。
山田は続けた。「貴方のことを、署長に話したんだよ。先日の防犯委員会で、うちの署長が社長に感謝を伝えたって聞いたけど、社長から何か言われましたか?」
「いえ、特に何も。ただ、私は褒められたくてやっているわけではないので」
「そうですよね。分かっていますよ。これからも頑張ってくれ。陰ながら応援していますから」
「ありがとうございます」と、高坂は笑顔で答えた。
その後、高坂は駅舎前の生垣の中に落ちているゴミを取り除き、掃除を終えると寮に戻って妻を迎えに行った。博美は家事を済ませており、「日頃できなかった分、片付けておいたわ」と言った。高坂は彼女に優しく微笑み、「もう少しゆっくりしていいんだよ。身体が一番大事だからね」と労った。
その後、二人は一緒にホテルに出勤した。到着すると、社長から指示があった。「毎週月曜の朝食後、派出所と駅舎にコーヒーを持っていってくれ」とのことだ。「承知しました」と高坂は答え、以後、自身の休み以外の月曜はその指示を守ることにし、上司の大崎にも伝えた。
※ ※ ※
朝食と賄いの時はいつも通りで、中抜け休憩の時間にはタイムカードを押し、レストランのガラスを磨いた。その後、寮に戻り、ベランダの屋根取り付け作業の一部である部材の色塗りに取りかかった。白の水性ペンキを使い、屋根が完成すれば、洗濯物を外に干して出勤できる。
今は部屋干ししているため、二階に住みついた鼠の臭いが洗濯物についてしまい、その匂いで吐き気を催すこともあった。高坂は「早く何とかしなければ」と焦りを募らせていた。
東京のマンションで前妻と離婚後、独身時代をだらしなく過ごしたこともあったが、獣が住みつく家に住むのは初めてだった。人は慣れれば大抵のことは受け入れられるものだが、この臭いだけは、どうしても慣れなかった高坂だった。
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