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第一章
第14話
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夕食の仕事が終了しビールディスペンサーの洗浄をした。カウンター内の生ビールの冷却機械の洗浄作業をしようとしたら富田が来て、「え……、そうやって洗浄するんだ?」と言った。
「今までどうやっていたの?」
「洗浄なんかした事ないよ」
高坂は驚き、「酒屋が来て教えなかった?」
「うん、納品するだけで帰っちゃうから」
本来はビールメーカーの下請けが一か月に一回程度、洗浄指導に来るし教育が為された酒屋は定期的にサービスとして洗浄をして帰るものなのだが、このホテルでは実施されてなかった。
「今から洗浄するから見てもらってもいいかな?」と言いながら今まで洗浄をした事がないと言ったのでスポンジ通し洗浄をやって見せた。スポンジ洗浄を行う前にレバーのタップ(内部)の組み換え作業を行う、これはスポンジを通すためにタップを逆さにする作業だ。
レバーと取り外して弁棒を抜き取りタップ本体を回転させ再度弁棒を差し込んで上の穴から覗いてタップ本体の穴と弁棒の穴を重ねた状態でレバーを組み本体に戻して繋げる。洗浄タンクに八割方の水を入れてホースの水通しヘッドを接続しタップにバケツを掛ける。
ビール継ぎ手を外してスポンジをホースの中に入れる。
ディスペンスハンドルを下げて減圧弁のダイヤルは二以下にしている事を確認してから炭酸ガスボンベの元栓を開ける。水が出始めてやがてスポンジボールも出てきて水が無くなると炭酸ガスだけが出てくるので、炭酸ガスボンベの弁を閉め音が無くなるまで待つ。
洗浄ボンベのガス抜きボタンを押して中のガスを抜いてディスペンスハンドのレバーを上げて取り外してタップ内部を元に戻して本体に取り付ける。バケツの中の水を見ると案の定、白い汚れのカスが沈んでいた。
高坂が富田に見せた洗浄作業に対して、彼女は「汚いね」と呟いた。高坂は笑って「じゃあ、同じようにやってみてよ」と促し、富田にやらせてみた。すると、その様子を見ていた厨房のスーシェフ、新橋、そして良太が、いつの間にか集まり、じっと見つめていた。
「そうやって洗浄するんですね?」と神田が感心したように口を開く。
「知らなかったんですか?」と高坂が問いかけると、神田は肩をすくめて答えた。
「料理人は厨房の仕事だけでいいと思っていましたから」
高坂は心の中で呆れた。「料理人はレストラン全体に責任を持たなければならないはずだ。ここの料理人たちは何を考えて仕事をしているのだろうか。これはきっとシェフの指導方針なんだろう」と。
その時、富田が不安そうに声をかけてきた。「ねえねえ、この後どうするんだっけ?」
高坂はスーシェフに向き直り、「すみません、明日の朝で構わないので、酒屋に言って生ビールのディスペンサーの清掃方法が書かれた説明書を取り寄せてください」と頼んだ。
その後、富田に手順を教えていると、他のスタッフは次々に帰って行き、最終的にレストランには富田と高坂夫妻の三人だけが残った。夕食の賄いを共に食べた後に帰寮した。
寮に戻り、妻の博美が入浴している最中、高坂の携帯が突然鳴った。誰だろうと思いながら電話に出ると、相手は目黒だった。
「こんばんは。私、目黒だけど、今、お時間大丈夫ですか?」と、少し緊張した様子の声が響いた。
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」と高坂が応じると、目黒はさらに声を小さくした。
「他でもないんですけど、博美さんには黙っていてもらえますか?」
「…どうしたの?」と不安を感じながらも高坂は続けた。
「休みの日に、二人で会って相談したいんです。夫婦のことについて」
「博美と一緒じゃダメなのかな?」
「高坂さんと二人だけでお願いしたいんです」
一瞬、言葉が詰まったが、高坂は冷静に答えた。「ごめん、それは無理だよ」
「やっぱり、そうですよね。高坂さんは奥さん思いですもんね」目黒の声が少し寂しげに響いた。
「そんなことはないけど、休みの日に一人で行動したら博美に不審に思われるよ」
「そうですよね」目黒は深いため息をつく。
「休み時間に聞くっていうのはどうかな?」と提案してみるが、目黒はすぐに断った。
「今回の話は忘れてください。ごめんなさい。それではおやすみなさい」
「うん、ごめんね。おやすみ」
電話を切った高坂は、目黒が一体何を相談しようとしていたのか気になったが、それ以上深く考えることはせず、すぐに入浴してそのまま泥のように眠りについた。
「今までどうやっていたの?」
「洗浄なんかした事ないよ」
高坂は驚き、「酒屋が来て教えなかった?」
「うん、納品するだけで帰っちゃうから」
本来はビールメーカーの下請けが一か月に一回程度、洗浄指導に来るし教育が為された酒屋は定期的にサービスとして洗浄をして帰るものなのだが、このホテルでは実施されてなかった。
「今から洗浄するから見てもらってもいいかな?」と言いながら今まで洗浄をした事がないと言ったのでスポンジ通し洗浄をやって見せた。スポンジ洗浄を行う前にレバーのタップ(内部)の組み換え作業を行う、これはスポンジを通すためにタップを逆さにする作業だ。
レバーと取り外して弁棒を抜き取りタップ本体を回転させ再度弁棒を差し込んで上の穴から覗いてタップ本体の穴と弁棒の穴を重ねた状態でレバーを組み本体に戻して繋げる。洗浄タンクに八割方の水を入れてホースの水通しヘッドを接続しタップにバケツを掛ける。
ビール継ぎ手を外してスポンジをホースの中に入れる。
ディスペンスハンドルを下げて減圧弁のダイヤルは二以下にしている事を確認してから炭酸ガスボンベの元栓を開ける。水が出始めてやがてスポンジボールも出てきて水が無くなると炭酸ガスだけが出てくるので、炭酸ガスボンベの弁を閉め音が無くなるまで待つ。
洗浄ボンベのガス抜きボタンを押して中のガスを抜いてディスペンスハンドのレバーを上げて取り外してタップ内部を元に戻して本体に取り付ける。バケツの中の水を見ると案の定、白い汚れのカスが沈んでいた。
高坂が富田に見せた洗浄作業に対して、彼女は「汚いね」と呟いた。高坂は笑って「じゃあ、同じようにやってみてよ」と促し、富田にやらせてみた。すると、その様子を見ていた厨房のスーシェフ、新橋、そして良太が、いつの間にか集まり、じっと見つめていた。
「そうやって洗浄するんですね?」と神田が感心したように口を開く。
「知らなかったんですか?」と高坂が問いかけると、神田は肩をすくめて答えた。
「料理人は厨房の仕事だけでいいと思っていましたから」
高坂は心の中で呆れた。「料理人はレストラン全体に責任を持たなければならないはずだ。ここの料理人たちは何を考えて仕事をしているのだろうか。これはきっとシェフの指導方針なんだろう」と。
その時、富田が不安そうに声をかけてきた。「ねえねえ、この後どうするんだっけ?」
高坂はスーシェフに向き直り、「すみません、明日の朝で構わないので、酒屋に言って生ビールのディスペンサーの清掃方法が書かれた説明書を取り寄せてください」と頼んだ。
その後、富田に手順を教えていると、他のスタッフは次々に帰って行き、最終的にレストランには富田と高坂夫妻の三人だけが残った。夕食の賄いを共に食べた後に帰寮した。
寮に戻り、妻の博美が入浴している最中、高坂の携帯が突然鳴った。誰だろうと思いながら電話に出ると、相手は目黒だった。
「こんばんは。私、目黒だけど、今、お時間大丈夫ですか?」と、少し緊張した様子の声が響いた。
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」と高坂が応じると、目黒はさらに声を小さくした。
「他でもないんですけど、博美さんには黙っていてもらえますか?」
「…どうしたの?」と不安を感じながらも高坂は続けた。
「休みの日に、二人で会って相談したいんです。夫婦のことについて」
「博美と一緒じゃダメなのかな?」
「高坂さんと二人だけでお願いしたいんです」
一瞬、言葉が詰まったが、高坂は冷静に答えた。「ごめん、それは無理だよ」
「やっぱり、そうですよね。高坂さんは奥さん思いですもんね」目黒の声が少し寂しげに響いた。
「そんなことはないけど、休みの日に一人で行動したら博美に不審に思われるよ」
「そうですよね」目黒は深いため息をつく。
「休み時間に聞くっていうのはどうかな?」と提案してみるが、目黒はすぐに断った。
「今回の話は忘れてください。ごめんなさい。それではおやすみなさい」
「うん、ごめんね。おやすみ」
電話を切った高坂は、目黒が一体何を相談しようとしていたのか気になったが、それ以上深く考えることはせず、すぐに入浴してそのまま泥のように眠りについた。
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