人間の女の子に恋をした妖怪（あやかし）が人間社会で成功し自他共に幸福になる物語

第二章

第7話 龍児の仕事内容と綾香の様子

　龍児の出勤は十時だ。転勤してから時間が変わった。前は決まってなくて、一日の終わりに支配人から、「明日は〇〇時に来て」と言われていたが、今度からは時間が決まっていたので働きやすかった。クラブで勤務する時は超過の時給がもらえたので給料が増えて嬉しかった。

　事務所に行くと、社長が待っていて、「御神楽みかぐらくん、今日は家の掃除をしてくれ」と言われて社長の車でお宅に行った。社長のお宅はマンションの最上階のワンフロワーだった。一階は会社にテナントとして貸していて、二階から六階までは賃貸マンションとしていた。

　今までは住み込みで夫婦の管理人さんが居たらしいが、辞めてしまったので、掃除をする人がいないとの事で龍児がやる事になった。仕事内容は。外回りの清掃、ゴミ集積所の清掃、玄関の清掃、共用スペースの清掃、エレベーターの中の清掃、管理人室の清掃、そして社長宅の清掃との範囲だった。

　でも一日で終わらせれば良いとの事だったので、何とかできそうな感じだった。

　昼食は社長の奥様が作ってくれて一緒に食べる。奥様は物凄い美人で言葉遣いも丁寧な人で優しかった。そうそう、料理もデザートも手作りで全部、美味しかった。

　こんなに美しくて優しくて料理上手で娘さんと仲が良い奥様がいるのに、何で社長は、クラブのママさんや龍児の姉貴の美奈子にうつつを抜かすのかが不思議だった。

　マンション内は一通り終わって、今度は社長宅の清掃をしていると、奥様から今度の日曜日にお誘いを受けた。社長がゴルフで泊まり、娘さんは大学の合宿で居ないから、寂しいから一緒に夕飯を食べて欲しいとの事だった。

　しかし、奥様曰く、社長にはこの事は内緒にしてほしいとの事だった。そんな事だったらお安い御用だったので、社長にも言わないし、お邪魔する事にした。

　生垣の剪定をすれば今日の仕事は終わりになる。これで社長と奥様に言われた箇所は全部清掃を終えた。

　この日から数日後に社長からマンションの管理人をやらないかと言われた。龍児は仕事さえあれば何でも良かったので有難く承知した。この頃の龍児は貯金が趣味になっていた。

　管理人の仕事は、午前中だけで、午後からは外国クラブの仕事に行く。住むのは管理人室でアパート代が浮くという感じだった。本当にこの会社に就職したら龍児は殆ど、自分のお金を使わないでも生活が出来て嬉しかった。

　毎月約、一万円は貯金ができていたので、一年で約十二万円は確実に貯金ができた。龍児はこの会社が存続する限り勤務させてもらおうと思っていた。

　一年で十二万円貯めて三十三年勤務したら？　なんて皮算用したが、高度経済成長期なので、年々給料は上がって行くので天文学的に貯蓄は増えた。

　その間に結婚するからそんなには貯まらないだろうけどと思いながら、現川村うつつがわむらで結婚の約束をした綾香の今を見に行った。そしたら医科大学病院で研修医をして一所懸命に勤務していた。現川村で出会った時は、龍児の方が頭が良かったが、猛勉強の末に医科大学に受かったようだ。自然な形で逢いたかったので様子だけ見て龍児は帰って来た。

　つづく