黒羽忍法書~前世ビッチは幸せになりたい~

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第十九章 新枕の書

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 リンムは荷物をまとめて両親に別れの挨拶を済ませると、シスイと共に月の里へ向かった。

 二人で月の里に入ると、時々、彼らの姿を見た里の民が小声でなにかを話していた。
 リンムは一体なんだろうと思いながらも、シスイと手を繋いで月長の屋敷へやってきた。

 玄関の掃除をしていたひとりの月忍は、二人の姿を見た途端に大声で叫び出した。

「ああっ、ついにシスイ様が風鈴喫茶の坊ちゃんを誘拐して帰ってきてしまった! 頼みますからいますぐ風の里に返してきてください!」

 月忍はほうきを投げ捨るとシスイからリンムを引き剥がして保護した。

「坊ちゃん大丈夫ですか? うちのシスイに変なことはされていませんか」
「大丈夫。というか誘拐じゃないよ?」

 リンムは小首を傾げて背の高い月忍を見上げた。

「はぁ……可愛い……。じゃなくて、誘拐じゃないのでしたら安心しました。月の里になにか御用ですか」
「しばらくこの子を預かることにしたんだ。ゆくゆくは正式な婚姻を考えている」

 シスイはリンムの肩を抱く月忍を突き飛ばして愛する少年を取り返した。

「婚姻!? あんたこの子と何歳差だと思ってるんですか」
「二十歳差だ」
「待ってよ二人とも、まだ結婚するなんて決まってないんだから」

 満更でもなさそうなリンムの態度に、月忍はどうやら本気で結ばれているらしいことに気付いた。

「月長が許すかはわかりませんが、そういうことならどうぞお入りください」

 リンムはざわつく月忍たちに歓迎されながらシスイの部屋に同居することとなった。
 もっとも懸念事項であった月長といえば、リンムの顔を見た途端に全てを察したのか好きにしろと言って去っていった。
 それを側で見ていた見知らぬ月忍たちはコソコソと噂話をしていた。

「さすがに月長もひ孫は諦めちゃったのかな」
「シスイ様、風鈴喫茶の坊ちゃんにやたら貢いでいるって昔から有名だったものな」
「その前も花忍の美少年にぞっこんだったというし」
「あれだけ可愛い子なら俺も嫁にもらいたいね」
「やめとけって。若様の嫁に手を出したら、全身の皮を剥がれて泉の底に沈められるって噂だぞ」

 なんだか物騒な会話が聞こえてリンムは背筋がぞっとした。
(まさか本気でそんなことはしないよね……)
 何も聞かなかったことにして、その場を離れることにした。



 リンムはシスイや風長、風長の親戚たちと共に質素な夕飯を頂いた。
 月の里は贅沢を禁じ、質実剛健を掲げているため酒なども振る舞われない。
 夕食後、シスイはリンムを部屋へ送るとすぐに、用事が残っているといってどこかへ行ってしまった。

 部屋に残されたリンムは黙々と押し入れから一人分の布団を出し畳に敷いた。
 その布団は懐かしい、クロハが忍法塾に通っていた頃にシスイが買ってくれた上等なものだった。

「あいつ普段は布団で寝ないくせに、まだこんなの取ってるのか」

 そう呟きながらも、リンムはどこか嬉しそうな顔をしていた。

 すると、誰かがコンコンと窓を叩く音がした。
 何かと思ってリンムが窓を開けると、そこには黒装束姿のカエデが立っていた。

「カエデ兄様、こんなところで何をしているのです」
「クロハ様、どうか私たちを再びあなたの配下として使ってはくれませんか」

 そう頭を下げるカエデの後ろには、驚いたことに黒装束の男たちが何人も膝をついて並んでいた。

「ちょっと待って。ここ月の里だし、見つかったらいけないからまずは中に入ってよ」
「ではお邪魔致します」

 リンムが窓から離れると、黒装束の男たちが次々とシスイの部屋に乗り込んできた。
 決して広くはないシスイの部屋は、途端に人口密度が上がり狭苦しくなった。

「我々は十五年もの間、秘術を継承する長を失い、ただの傭兵として小銭を稼ぐことしか出来ませんでした。
 しかし四里同盟配下の忍びの里として蘇ることができれば、今よりは里の民たちの生活が楽になるはずです。
 もしクロハ様が花長として再び花忍をまとめ上げてくださるのなら、我々はどこまでもついていきます」
「どうかお願いいたします」

 大の男たちに並んで頭を下げられ、リンムは困りきってしまった。
 今のリンムはただの風の里の忍びであって、花の里と特別縁が深いわけでもなく、彼らを助ける義理などないのである。
 しかし前世良くしてくれた彼らを見殺しにすることも出来ない。

「僕も力にはなりたいけど、四里同盟がそれを許してくれるとは……」

 その時、突然襖が開かれてシスイが部屋に入ってきた。

「もしリンムが花忍を復活させたいのなら、私がいくらでも力を貸そう」
「おかえりシスイ。でも相手は四里同盟だよ?」
「簡単なことだ。今回の任務で手に入れた書類を四里同盟に見せつければいい。そしてこう言うんだ。花の里は風の里に脅されていただけで、悪いのは全て風の里と風長です、と」
「うーん、そんな簡単にいくのかなぁ」
「私を信じてくれ」

 シスイはリンムの前に立つと、真っ直ぐリンムを見つめた。

「あなたは花の里をどうしたい」
「救いたい……みんなの居場所を、花忍の誇りを取り戻したい」
「わかった。全て私に任せてくれ」

 シスイはリンムを正面から抱きしめた。
 カエデは「では、花忍復活の暁にはクロハ様が花長を継いでくださるということですね!」と笑顔で言った。

「今更なんだけど、僕のことクロハじゃなくてリンムって呼んで欲しいんだ」
「リンム様……?」
「以前の僕は死んだ。今は風の里のリンム。それでもいいのなら、みんなが望む通りにしたい」

 その言葉をカエデは噛み締めるように深く頷いた。

「わかりました……。リンム様、どうか我々の新しい長となってください」
「僕こそ、これからよろしくね」

 リンムはクロハの腕から抜け出ると、カエデの元に跪いて彼の手を握った。

「全てが解決するまで、どうか花の里を守っていてくれ。
 もうみんなが風忍の追手に怯えなくても良いように、僕も頑張ってみるから。
 その日が来るまではお別れだ」
「リンム様……どうかお元気で」

 リンムは月夜に消えていく黒装束のひとりひとりを丁寧に見送り、部屋の窓を閉めた。
 一息ついて、後ろを振り返りながらシスイに話しかけた。

「ところでシスイ、この布団なんだけどさ」
「今夜は同衾しない」
「まだ全部言ってないじゃんか」
「私もこれ以上は我慢ができないんだ」

 彼が何を言っているのか気づいて、思わずリンムは顔を真っ赤にした。

「両思いなんだから、我慢する必要なんてないでしょ」
「婚姻するまでは駄目だ」
「シスイのばか! 前世ではやりまくりだったくせに、なんで手を出してくれないんだ」

 リンムは小さな拳で彼の胸をぽかぽかと叩いた。
 そんなリンムを困ったような顔のシスイは抱きしめて優しく撫でた。
 
「君も自分で言っていただろう。前世のクロハと今の君は別物だ。ましてや君は処女……初めては私も大切にしたい」
「処女っていうな! 別にシスイにあげたくて守ってたわけじゃないもん!」

 むくれてしまったリンムの可愛らしい頬に、シスイはそっと唇を落とした。

「私のために取っていてくれたのか? ありがとう、リンム」
「違うって言ってるのに!」

 その夜、ご機嫌斜めになったリンムは何も言われなくとも一人でふかふかの布団を占有して眠りについた。



 それから半年後、風の里は牙の里に吸収合併され、花の里は再び正式な四里同盟配下の忍びの里として復活を果たした。
 さらに、リンムとシスイは周囲に盛大に祝われながら婚姻を果たした。
 二人は共に紋付き袴を着て、月の里の神の前で交互に御神酒を飲み、永遠の契りを結んだ。

 式の中で御神酒を飲んで酔っ払ってしまったリンムは、シスイに横抱きにされて二人の家に帰ってきた。
 なんと月長が二人のために、月長屋敷の隅に新居を建ててくれたのだ。
 シスイは寝室の布団にリンムを横たえると、「水を持ってくる」と言って部屋を出ようとした。

「ねえシスイ、お水なんていいから早くシスイをちょうだい」
「リンム、あなたは酔っ払っている。明日にしよう」

 誘いをすげなく断られて、リンムは嫌だとゴネだした。

「この半年間、毎晩毎晩シスイの隣で我慢してきたんだ。ちょっとくらい良いじゃんか」
「私だって我慢していた」
「シスイはもう枯れてるからいいの!」
「枯れてる……」

 シスイはリンムの発言にショックを受けて固まった。

「僕なんてまだ若いのに、こんな生活耐えられない。
 時々クロハの頃の夢だって見るんだ。
 前世でいくらでも気持ちいい記憶はあるのに今世じゃ経験無いなんて!
 今日しないなら、そこらへんの男を捕まえて乗っかってやる」

 ジタバタする酔っ払いリンムに困り果てたシスイは、渋々「わかった、初夜を済ませよう」と頷いた。
 その言葉を聞いて、途端に大人しくなったリンムは溶けるような笑顔でシスイに抱きついてきた。

「シスイ~、大好き」

 実際、シスイの方も限界だった。
 毎晩寝るまえに厠で処理していたが、月日が経つほどに収まるまでの回数が増えていたのだ。

「リンム、後悔しても私は知らないからな」

 シスイは自身の着物とリンムの着物を早業で脱がすと彼を布団に押し倒した。

「ちゅーして」

 甘えるリンムの唇に口付けて、舌と舌を深く絡めた。
 何度も互いの唾液を交換しながらシスイは彼の桃色の乳首を撫でた。

「んっ……くすぐったい……」

 クロハの時ほど開発されていない体は、リンムにもどかしさを与えた。

「ねえ、早く触って?」

 リンムはゆらゆらと腰を動かし、立ち上がったものをシスイの腰に擦り付けた。
 シスイは自分のものとリンムのものをまとめて持つと、普段自分がしているように扱き上げた。

「ぁっ……気持ちいい……」
「リンム、愛してる」
「僕もシスイのこと、愛してるっ……」

 直接的な刺激にすぐ限界を迎えたリンムは小ぶりな陰茎からぱたぱたと白濁をこぼした。
 腰を震わせるリンムの陰茎を掴むと、彼が吐き出す液体を全て舐めとるようにシスイは下半身に舌を這わせた。

「いやっ……舐めないで……」

 リンムは腰元で動く頭を力なく掴んだが、シスイはそれに構わず小さなものを口に含んで舌と喉で愛撫した。

「またいっちゃうぅ!」

 ビクビクと陰茎を震わせ、リンムはシスイの口内にトロリとした液体を吐き出した。
 はあはあと呼吸するリンムの胸に口付けて、シスイは彼の後孔に指をあてた。

「入れるぞ」
「うん……」

 布団の脇に用意されている潤滑油を取り出すと、それを小さな後孔に垂らしてよく濡らした。
 シスイはゆっくりと彼の中に中指を沈めた。
 まだ男を知らない少年の中は、きゅうきゅうと無邪気に指に吸い付いた。

「リンム、毎晩ここを解していただろう。すっかり柔らかくなっている」
「気付いてても言うなって! 早くシスイのが欲しかったんだ」

 シスイは指を三本に増やして彼の中をよく広げた。

「俺の中、もう大丈夫だって言ってるよ?」

 リンムは自分の指をしゃぶると、シスイの指が入ったままの穴に自分の指を一本追加した。
 彼は誘うように自身の穴を掻き回すと、最後に入り口をぐいっと開いた。

「きて?」

 新妻の淫猥すぎる姿にシスイは耐えられず、穴から指を引き抜き自身の昂りきった欲望を代わりにあてがった。

「リンム、リンム……愛している」
「うんっ……うぅ……」

 彼の処女穴に、シスイの肉棒が押し込まれていく。
 はじめて感じる圧倒的な質量に、リンムの腰は逃げるように揺れた。
 それをシスイはがっしりと捕まえて奥深くまで自身を埋め込んだ。
 根元まで埋まると、リンムは心底幸せそうな笑みを浮かべた。

「僕のはじめて、シスイにあげちゃった」

 シスイもまた、心の底から幸福そうな笑みを浮かべてリンムに口付けた。

「はじめても、二回目も、その後も、全部私のものだ」

 シスイは不慣れな穴を優しく宥めるように優しく抽挿を始めた。
  二人は長い間ゆっくりとした交合を楽しみ、やがて限界を迎えた。

「あっ、シスイ……前も触って!」
「中に出すぞ」
「うんっ……!」

 シスイの突き上げは次第に激しさを増し、肌のぶつかり合う音が部屋に響いた。
 リンムはシスイの大きな手で屹立をしごかれ、小さく悲鳴を上げながら絶頂した。
 シスイもまた、肉棒を締め付ける中の動きに耐えられず、腰を深く突き込んで大量の子種を奥に吐き出した。

「シスイがたくさんお腹の中に入ってきてる……すっごく嬉しい……」

 上気した顔で微笑む嫁に、シスイの陰茎はまた頭をメキメキともたげて。

「待って、今日はもうおしまいにしようよ」
「待たない。もう一度だ」
「あぁんっ、駄目だってば……」

 興奮しきったシスイは、何度も「抜いて」と懇願するリンムを無視して朝まで彼の胎内をむさぼり続けた。
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