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第十七章 解錠の書

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「てめぇロリコン野郎、ついに手を出しやがったな!」

 キョウコツはいきなり襖を上けて部屋に入ってくると、リンムと同じ布団で横になっているシスイの背中を蹴り上げた。

「あらあらリンムちゃん大胆ねぇ」

 ノエはキョウコツの後に続いて部屋に入ると襖を閉めた。

「……うるさいなぁ……」

 騒ぐキョウコツにリンムは両耳を塞ぎながら目を開けた。
 眠った時は背中から抱きしめられていたはずだが、起きたら正面からシスイに抱きしめられて眠っていた。
 顎をあげるとすぐ近くにシスイの顔があり、思わずリンムは頬を染めた。

「っ……シスイ、ちょっと離れて」

 照れたようにもぞもぞと距離を開けるリンムに意味深なものを感じたキョウコツは、

「まさか四里同盟一の高嶺の花をおまえっ……」

 などと言ってシスイの胸ぐらを掴み上げた。

「ただ酔い潰れたリンムを看病してやっていただけだ」
「なんで看病で添い寝なんてするんだよ」

 言い争うキョウコツとシスイをのろのろと体を起こしたリンムは仲裁した。

「僕がシスイに頼んで抱き枕になってもらったんだ」

 リンムの言葉にキョウコツはようやくシスイの胸ぐらをはなした。

「ところでリンムちゃん、だいぶ体調悪そうだけど大丈夫かしら?」
「扉の調査は明日にするか?」
「大丈夫、ちゃんと案内できるよ。でも……」

 リンムは胸元を丁寧に整えたシスイを見上げて両手を伸ばした。

「歩くと頭がズキズキするから、おんぶして」
「ああ」
「おいおい、そのロリコン野郎は危険だぞ。俺様にしとけよ」

 ぼやくキョウコツをよそに、シスイはリンムの背中と足の下に腕を伸ばし、そのまま抱き上げた。

「わわっ、シスイ、僕はおんぶって言ったのに」
「こっちの方が揺れない」
「もう~」

 ノエはいちゃつく二人に呆れながら「早く終わらせましょう」と言って廊下に出た。



 三人はリンムの案内で隠された金庫部屋にこっそり忍び込んだ。
 リンムはシスイの腕から降りると、ヨロヨロと畳の側に座ってそれをずらした。

「この下に階段があるんだ。降りた先に例の扉があるよ」

 キョウコツは懐から携帯用の灯りを取り出し火をつけると、階段の中に腕を伸ばして下の様子を探った。

「そんなに深くはないみたいだな。四人とも降りられそうだが」
「私は上で見張っていよう」

 シスイは黒羽忍法書に興味がないのか、階段に目もくれずに金庫部屋を探索し始めた。
 それを見てキョウコツは「なら上は任せた」といって早速灯りを口に咥えて下へ降りていった。
 先を行かれたノエは慌てて後を追いかけ、リンムは痛む頭に眉をしかめながら慎重に地下へ降りた。

「この扉の鍵穴、たしかあれと一緒ね」

 ノエは鉄製の扉をコツコツと叩いて言った。
 複雑な紋様が刻まれた扉はちょっとやそっとじゃ開きそうもない。
 キョウコツは鍵を取り出すと、扉の紋様に差し込んだ。
 ガタンと低い音が鳴って、扉はゆっくりと開く。
 三人か中に入ると、そこは洞窟のようになっていた。
 奥の方を照らすと鉄製の金庫がただ一つ鎮座していた。

「なんだこの金庫」

 金庫にはよくみる形の錠前が取り付けられており、これならリンムでも簡単に開けられそうだった。

「解錠なら任せてよ」

 早速リンムは懐から鍵開け道具を取り出し、金庫の鍵をいじり始めた。
 それを大人二人は大したものだなとリンムの腕前を褒めて見ていた。
 数分後、カチリという小さな音を立てて金庫の錠前が外れた。

「開いたみたい」

 リンムは早速金庫の蓋を開けた。
 中身はやはり、前世の黒歴史・黒羽忍法書であった。
 それを取り出すと、リンムは懐に入れて「じゃあ戻ろうか」と言った。

 その瞬間、先ほどまで温かい目で見守っていた二人の目つきが変わった。

「チビ忍、それどう見ても黒羽忍法書じゃねえか! 大事な戦果を守る役目なんてまだ早いだろう。俺様に寄越せ」
「そうよそうよ、お姉さんが代わりに持って行ってあげるわ」
「えっ……僕だってそれくらいできるよ」

 なぜか黒羽忍法書を持ちたがる二人にリンムは後退りした。
 この本は絶対他人に、ましてや顔見知りの二人には特に読んでほしくない代物だ。

「心配しないで! ほら、本を出してちょうだい」

 ノエがリンムの懐に手を伸ばしてきたとき、苦肉の策でリンムはよろけたフリをしてキョウコツが持つ明かりの炎に黒羽忍法書を近づけた。

 どうにか彼らに奪われる前に、本の片隅でもいいから焼いてしまおうと考えたのだ。

「なっ! リンム、危ねぇじゃねえか!」

 だがキョウコツが明かりを避けたため、あえなく作戦は失敗し黒羽忍法書は焼くことが出来なかった。

「やっぱりチビにはまだはえーよ。俺様によこしな」

 その上、無理やりキョウコツに黒羽忍法書を奪われてしまった。

「なにリンムちゃんから奪いとってるのよ」
「それをお前が言うのかオカマ野郎!」

 ノエは憎々しげにキョウコツを睨み上げた。
 だが、筋肉馬鹿のキョウコツに正面から挑んで奪い返せるとは二人とも思えず、渋々彼に本を持たせて三人は地下から出ることにした。



 三人が金庫部屋に戻ると、シスイは部屋の隅で何枚か紙束を手にしていた。

「シスイ、黒羽忍法書が下で見つかったぜ」
「それはよかったな。ところでこの書類たちを読んでみてくれ。これによるとどうやら花の里は、風の里が四里同盟を通さない裏の任務を任せるため独立させられた里のようなんだ」
「なんだと?」

 キョウコツとノエは資料を受け取って目を通した。

「花の里は風の里の指示で表にできない任務を多数こなしている。だが、彼らは何か失敗するたびに風長の手で処刑され、最後は立場が危うくなった風の里の襲撃を受けた」
「……なんて酷い話だ」

 二人は信じられないという顔で資料を次々とまくり、花忍たちの報告書や細々とした里の記録を読んだ。

 リンムはひた隠しにされてきた花の里と風の里の暗部を暴かれ、心中穏やかではなかった。

「まさかリンム、おまえも四里同盟に言えないような任務を受けているんじゃないだろうな」
「そんなことないよ……?」
「リンムは無関係のはずだ。どうやら風の里は、アマネに代替わりしてからその手の依頼は断るように指示したらしい」

 シスイは明後日の方向を見て言い訳するリンムを庇った。

「だが、この記録の日付を見るに花の里を襲撃したのはアマネだろう? どうしてそんなことを……」
「アマネにも色々あったのかもしれない。だがこの資料は今となっては貴重なものだ。黒羽忍法書と共に持ち帰ろう」
「そうね、とっても美味しそうだし」
「美味しそう……?」

 ノエの呟きにリンムが首を傾げたが、すぐに「なんでもないわ」とはぐらかされてしまった。

 充分な戦果を得た四人は一晩花の里に泊まり、明るくなってから里を出ることに決めて解散した。



 四人が解散してから二刻ほど経った頃、リンムはゆっくりと布団から起き上がった。

「子供はあまり夜更かしするな」
「わかってる」

 目を閉じたまま小言を言うシスイに返事をして、リンムは静かに花長の屋敷を抜け出した。



 キョウコツが里のはずれにある廃屋に潜伏していることは周知の事実だったため、リンムはそこに向かって走った。

 だが、廃屋の前に到着すると、そこには先客がいたのだった。

「ノエ? そんなところでなにしてるの」
「リンムちゃんこそ何しにきたのよ。まあいいわ、ちょっと覗いて見なさい」

 ノエに手招きされたリンムは壁の隙間から中を伺った。
 そこには薄暗い部屋で本を捲る大男の姿があった。
 キョウコツは男泣きに泣きながら黒羽忍法書を読み、

「クロハ、おまえ……風の里と四里同盟の間でたくさん苦労してたんだな。
 こんなのどう考えても全部風長が悪いじゃねぇかよぉ」

 と嗚咽混じりに喋っていた。

「なんだかすごい独り言だな」
「面白いから私はもう少し観察していくわ」
「……僕はもういいや」

 絶賛黒歴史掘り返され中のリンムはとてもじゃないが見ていられず、結局その夜は黒羽忍法書を取り返せずに涙目で帰る羽目になったのであった。
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