黒羽忍法書~前世ビッチは幸せになりたい~

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第十五章 懐胎の書

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 風鈴喫茶で一休みしていたアマネは、店内の忍びたちが気になる噂話をしているのを聞いた。

「なぁ、花忍クロハって知ってるか?」
「四里同盟一の男好きとか言われてる奴だろ。俺も一度くらいお相手して欲しいもんだね」
「どうもあいつ、死んだらしいぞ」
「なに!? 死因はなんだ」
「腹上死したって噂さ」
「さすが伝説の色忍は死に様も違うな」

 笑う忍びたちの声を背に、アマネは風長の間に向かって走った。

「母様! クロハを殺したのですか!」

 アマネはすぐにクロハの死因に思い当たった。
 クロハは先日、暗殺任務を失敗した上に正体を見破られたと風の里上層部でも噂になっていたのだ。
 間違いなく風長がトカゲの尻尾切りを命じたに違いない。

「いくら次代の風長とはいえ無礼だぞアマネ」

 広いテントの中で椅子に座った少女が煙草をふかしている。

「クロハは何年も我が里に貢献してくれていました。それをこんなあっさり殺すなんて」
「あいつの死因は腹上死だ。そんなに気になるのなら花の里にでもいって確かめればいい」

 冷酷な態度を崩さない風長に、アマネはいきりたって「母様のわからずや!」と叫ぶと風長の間を飛び出した。



 花の里に来たアマネは花長の間を訪れた。
 快活な印象であった花長は、溺愛していた息子を失いすっかり憔悴しきっている。
 風の里の跡取りであるアマネに、ツバメは丁寧に挨拶をした。

「アマネ様、すっかり大きくなられましたね」
「ツバメはすっかり小さくなったみたいだ」
「ははは……クロハがいなくなってから、何をどうしても食事が喉を通らなくて」

 肩を落としているツバメを哀れに思い、アマネは彼に言った。

「どうしてクロハを殺してもなお、風の里に忠誠を誓うんだ」
「それを風の里の跡取りである貴方がおっしゃるのか」
「たしかに母様は裏切り者は容赦なく殺すし恐ろしすぎて逆らえないな」

 ツバメは黙ってアマネの話を聞いていた。

「ところで今夜、四里同盟の会議が開かれるだろう」
「ええ。私も覚悟を決めて行って参ります」
「その覚悟でもう少し恨みを晴らして見ないか」

 アマネはツバメの瞳を覗き込んで言った。
 その途端、ツバメは自身の欲望を鷲掴みにされたような感覚に陥った。

「アマネ様、必ずクロハの仇をとって参ります」

 感情を失った声で返事をしたツバメに満足して、アマネは風の里へ帰って行った。



 その日もアマネは風鈴喫茶で一休みしていた。
 相変わらず店内では噂好きの忍びたちが大声で話している。

「なぁ、四里会議の例の話聞いた?」
「あれだろ? 突然花長が風長をずたずたに切り刻んだとかいうやつ。恐ろしいわ~」
「どうやら捕まった花長が今夜風の里で処刑されるらしいぞ。俺たちも時間があえば見に行こうぜ」
「それは楽しみだな。ところで次の風長になったアマネ様だが、どんな方なんだろうな」
「俺もまだ顔を見ていないが、噂だと至って凡庸な男らしいぞ」
「跡取りに恵まれない里は大変だな。風の里も今代でおしまいか? 他の里は……」

 アマネは一通り彼らの会話を盗み聞きし、お茶を飲み切ると店を出て行った。



 風長本邸の地下室に捕らえられたツバメの元を、アマネは一人で訪れた。
 ツバメは全身を拘束され、口には枷を嵌められたまま転がされていた。

「入るぞ」

 アマネは牢の鍵を開けて中に入ると、ツバメの頭のそばに座った。

「僕は忍法のほうはからっきしでね、一人でも力のある忍びを手元に置いておきたい状況なんだ。
 君の身代わりは既に用意してある。
 強盗殺人で後日に処刑される予定の男だ。
 処刑の直前に彼と入れ替わって逃げろ」

 アマネはツバメに命令するだけして、そそくさと地下室から出て行った。
 ツバメは自分勝手な風長たちに腹を立てながら目を閉じてひたすら時が経つのを待った。
 


 アマネはいかにも横暴な長の顔をして、死装束をまとった一人の男を処刑場に連れてきた。
 その男は前日、ツバメに似せるように髪型を変えさせられ、顔を糸で変形させられていた。

「今日は未来の貴様の姿を見せてやる。特等席でしかと見届けろ」

 彼らは処刑台から少し離れた場所に設けられた席に座り、ツバメが連れられてくるのを見ていた。
 処刑場には噂を聞きつけた民たちが集まっており、執行の瞬間を今か今かと待ち侘びている。

 やがて処刑台に両手を拘束されたツバメがやってくる。
 乱暴に台の上で座らされたツバメの背後で、風の里の処刑人は刀を振り上げた。

 処刑人が見事な腕前で男の首を切り落とした瞬間、民たちは大きく歓声をあげた。

 アマネは自身の隣に転移してきたツバメの腕の拘束を素早く切り落とした。

「なっ、貴様、いつの間に拘束を解いたのだ!」

 下手な芝居を打ったアマネの声を聞いて、ツバメはすぐに民の雑踏にまぎれて姿を消した。



 処刑が行われた後、アマネは新たな風長として初めて四里会議に参加した。
 だが、周囲に祝われるものと思っていたアマネの予想に反して、他里の長たちの態度は冷たかった。

「最近不祥事ばかり起こしている花の里だが、あの里は元々風の里から独立したはずだろう」
「風長を切りつけた時の花長の様子もおかしかった。それなのにろくに調べもせず花長を処刑するとは、どういうことだ風長殿」
「そんな……、たしかに花の里は風の里から独立した里だが、独立後はお互い干渉せずにやってきた。花の里の内部事情など僕は知らないよ」
「それはたしかかな」

 口々に責められてアマネが冷や汗をかいていると、月の里長が一冊の本を机に出した。

「黒羽忍法書……?」
「これはクロハが生前、自身の房中術の全てを書いたと言われている本だが、実際はほとんどが彼の閨事日記とも言えるようなくだらない内容だ。
 しかしこの本、ところどころに気になる箇所がある。
 予想するに、この男は花長とはまた別の者から指示を受けて動いているように見える」
「それが風の里であるとでもいうつもりか! 風の里は花の里とは無関係だと言っているだろう!」

 机を叩いて立ち上がったアマネを、月長は鋭い目つきで見た。

「この日記の通りなら、花の里全体が腐りきっていたことは明白だ。そこまで身の潔白を証明したいのなら、裏切り者共を処分は風の里に任せよう」

 牙長は、「少しでも花の里に甘い顔を見せてみろ。その時は俺が貴様の首をかき切ってやる」と言って会議室を出て行った。
 それに続いて他の長たちも部屋を出ていく。
 アマネは一人だけ会議室に取り残され、ついに感情を抑えきれなくなり、小さく笑い声を上げた。



 ツバメは花の里に戻ってくるなり、花長の館の様子がおかしいことに気がついた。
 泥棒でも入ったかのように館のあちこちが破壊されており、主人を失った使用人たちは今後どうしようかと玄関に集まって話し合っていた。

「なにをしているんだ」

 ツバメが彼らに話しかけると、使用人たちは幽霊でも見たかのように悲鳴をあげて飛び上がった。

「花長様!? 処刑されたはずではなかったのですか」
「この通り、私はまだ生きている。それよりこの惨状は一体どうしたんだ」
「実は昨日、四里同盟の忍びたちがやってきて、家中のものをひっくり返して行ったのです」
「そうか……お前たち、怪我はしていないか」

 ツバメは心配そうに使用人の様子を一人一人確認すると、全員が無事そうなことに安堵した。

「皆には悪いが、館の片付けを手伝ってもらいたい」
「ええ、もちろんでございます」

 哀れにも破壊された玄関の扉を乗り越えて、ツバメは無くなったものがないか確認して歩いた。
 貴重品の一部や表の仕事の帳簿が無くなっていたが、裏の仕事の書類は厳重に隠されていたこともあって無事なようであった。
 だが、ツバメはクロハの死後、大事に保管していた彼の日記がどこにもないことに気がついた。
 その時、ツバメの元に一羽の風鳥がやってきた。
 風鳥の首元に瓶がぶら下がっているのに気付いて、それを外してやると風鳥は再びどこかへ飛び去っていった。
 瓶の中には薄い紙束が入っている。
 それを取り出して紙束を広げると中に書かれた文を読んだ。

「月の里が持つ黒羽忍法書を破壊しろ……?」

 ツバメはすぐに紙束を燃やすと腹心の部下たちを呼び、月の里へと向かわせた。
 だが、部下たちは思ったより早く花の里へと戻ってきた。
 それも小脇に本を二冊抱えて。

「花長様、月の里へ潜入した際にシスイとかいう忍びがこれを渡してきたのです」
「何やらこの本をここに置いていてはいけないとか言って……それとこれも」

 二冊の本の片方は黒羽忍法書だった。
 もう片方の本は見たことのない古い本だった。
 表紙には金遁禁術・懐胎の書というおどろおどろしい文字が書かれている。
 禁術の書には一枚の手紙が挟まれていた。
 
『ーー私はまだクロハを諦めてはいない。
 彼と再び会うためならば何でもするつもりだ。
 黒羽忍法書と月の里に伝わる禁術を用いれば彼を復活させることができる』

 ツバメは信じられない思いで禁術の書を開いて中身を見た。
 そこには数多の生贄と引き換えに、書物に宿った記憶を現世の者に与えると書かれている。
 ツバメは(なるほど、これが禁術として闇に葬られたわけか)と思い書物を閉じた。

 数多の生贄を捧げるというが、花の里には生贄を用意する手立てなどない。
 里の民は皆善良で、四里同盟を裏切っている者は多いが犯罪者など一人もいないのだ。

 だが、すぐにその機会は訪れた。



 アマネは月の里から黒羽忍法書が失われたことを噂で聞いたが、ツバメから何の報告もないことに不信感を抱いていた。
 ついに風の里が花の里を処分しなくてはいけない日になり、苦肉の策として花長に宛ててどうにか最低限の被害で済むよう準備せよと手紙を風鳥に託した。

 アマネは風忍たちを率いて花の里に夜襲をしかけた。
 花の里のあちこちで火の手があがり、里の民たちはあちこちで逃げ惑っている。
 風忍たちはそうした一般人たちを相手にせずに、いくつかの部隊に分かれてひたすら花忍の者を探して歩いた。
 だが、忍びらしきものはどこにもいない。

 そうして風忍たちが辺りを警戒しながら花の里の奥へ進むと、ある地点に着いた時に違和感を感じた。

「おい……これ囲まれてないか……」

 風忍たちが小さく呟く。
 気付けばアマネの周囲を黒装束の男たちが取り囲んでいたのだ。
 その時、火柱の向こうで誰かの叫び声が聞こえた。
 思わず後ずさった風忍たちに向かって、黒装束の男たちは一斉に襲いかかってきた。

 アマネは一際強く、風忍たちを蹴散らしている男を見つけた。

「ツバメ! 貴様どういうつもりだ!」

 すぐに彼が自身の手で処刑から逃した花長であるとわかった。

「花の里はもう風の里の言いなりにはならない」
「なんだと。裏切り者がどうなるのか分かっていてもそんな口が聞けるのか」
「処刑の際に命を救われた礼として、貴様の命は奪わないで置いてやる。仲間を置いて逃げたくば逃げれば良い」
「やめろ! みな僕の大事な部下たちなんだ」

 言い争う中でも次々と花長は風忍たちを倒していく。
 もはや説得は無理だと察したアマネは「そちらがそのつもりなら容赦はしない」と言って秘術を発動させた。

「木遁、縊鬼(いき)の術」

 アマネの秘術を食らったツバメは、唐突に風忍への攻撃をやめて頭を抱えて苦しみ出した。

「全員、すぐに撤退せよ」

 アマネは数少なくなった動ける風忍たちに指示を出して、襲いかかってくる花忍たちから命からがら逃げ出した。



 突然苦しみだした花長の姿を見て、カエデはこれが風の里の禁術かとすぐに気がついた。
 花忍たちは事前に花長から風長の能力について聞かされていたのだ。

 正気を失ったツバメは大きく咆哮をあげて剣を抜くと、花忍たちに襲いかかった。
 カエデは怪我をした味方を庇いながらツバメの剣を受け止めた。

「花長! どうかお気を確かに」

 必死に呼びかけるが、秘術に操られた花長には届かない。

「私が花長を抑えている間に先に逃げてくれ」
「すまない! 撤退の合図をすぐに出してくる!」

 花忍たちは敵味方問わず怪我人をかき集めて、森の方へ逃げていく。
 カエデは一人でツバメを相手し、何度も彼の攻撃を食らって体のあちこちから血を流しながら耐えた。
 撤退の合図である花火が煙だらけの夜空に打ち上がる音が聞こえた。

「カエデ、私を殺せ」
「……! 意識が戻ったのですか」

 荒い呼吸の中、ツバメは何度も秘術に心を侵されそうになりながらも必死に話した。

「私を殺して禁術を発動させるのだ。そしてクロハが復活した際には約束の通りにせよ」

 震える手で剣をしまったツバメに、カエデは「なんてことをおっしゃるのか」と叫んだ。

「あなたが死んだところで、クロハは何も喜ばないでしょう」
「私はこの手でクロハを殺したのだ。もうあの子に合わせる顔などない。私のいない世界で、あの子には幸せになってほしい。さあ、カエデ……私がお前を殺してしまう前に……」

 首を差し出すように膝を折ったツバメに、カエデは震える手で刀を抜いた。

「あの世で私を恨まないでくださいよ」
「お前こそ、先に逝った私をこれ以上呪ってくれるな」

 カエデがクロハを殺したツバメを呪うために、夜ごと神木に釘を刺して回っていることは花の里では有名な話だ。

「くっ……、今までありがとうございました、花長」

 カエデは唇を噛み締めて、ツバメの首に向かって刀を振り下ろした。



 彼の遺体を持ち帰ったカエデを花忍達は悲痛な面持ちで迎えた。
 鬱蒼とした森の中、少し開けたところに花忍たちは集まり、隅には怪我をして置いて行かれた風忍たちが積まれている。

「我々は最後まで長の望み通りに遂行しよう。儀式の準備を行え」

 花忍達は捉えた風忍を複雑な陣が描かれた祭壇に並べると、次々に彼らの心臓を引き抜いた。
 儀式の全てを行い禁術を発動したとき、一段高いところに供えられた書物が月明かりを反射してわずかに輝いたように見えた。



 四里同盟は多数の死傷者を出しながら花の里を襲撃した風忍の様子を見て、ようやく彼らが結託している訳ではないらしいと思い始めた。
 そうして改めて四里同盟の仲間として迎えられたアマネは、複雑な心境で彼らの歓待を受けた。



 リンムは黒装束たちが見守る中、長い手紙の最後の一文を読んだ。

『くれぐれも風の里には関わるな。
 そして風長から身を隠して、どこか安全なところで幸せに生きてくれ。
 愛している、クロハーー』

 ツバメの手紙から顔を上げたリンムに、カエデは膝をついたまま話しかけた。

「我々は花長の死後、四里同盟から姿を隠して各地に散らばり傭兵として生きて参りました。
 そしてこのカラクリ城を拠点として作り、里の民の生活を裏で支えながら、クロハ様がこの地を訪れるのを永らくお待ちしておりました」

 そう語るカエデに思わずリンムは懐から任命の書を取り出した。
 二枚ある任命の書の片方は四里同盟からの共通のものだ。
 もう一枚は風長からの直接の任命の書であり、そこにはこう書かれていた。

『花の里で花忍たちの行方を調査せよ。もし彼らが生きていれば、必ず始末するように』

 アマネはまさかクロハの面影を残すリンムがクロハ本人だとは思わず、リンムの容姿を餌にして裏切ったまま消息を絶った花忍たちを始末しようとしていたのだ。
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