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覚醒①

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「セノおそい!」
「悪い、建物はすぐわかったんだが部屋を探すのに手間取った」
  
 キーシャは立ち上がると、乱入者に向かってナイフを構えた。
    
「おとりを用意していたはずだが、なぜここがわかった」
「それはこいつに聞いてくれ」
  
 セノは大剣を振り、キーシャに向けた。
  すると、大剣はカタカタと音を立てながら喋りだした。
    
『伝説の聖剣・シルドヘッドであるオラが、邪竜の匂いを辿れないはずないだろう』
「ふん、女神の犬どもが」

 セノは聖剣を振り上げキーシャに飛びかかった。
  だがキーシャはそれを避けて後ろに下がる。
  避けられたセノの剣は、近くに居たエルスの耳元に突き刺さった。

「ぼ、僕を殺す気か!?」
「悪い、しばらく隅で待っててくれ」

 セノは悲鳴を上げるエルスを蹴って、彼を部屋の隅へと転がした。

「なんて無礼なやつなんだ……」

 エルスが呟いていると、いつのまにか拘束を解いたチカが壊された扉の上に立っていた。

「じゃあ僕はお先に。セノ、頑張ってくれ」
「くっ、なぜ神子が自由になってるんだ!」

 チカは吠えるキーシャに手を振り部屋から飛び出していった。

「待て! 僕を置いていくな!」

 エルスは部屋の隅でじたばたともがいた。
  しかしどうやっても拘束が解けない。
  相変わらず部屋の中央ではセノとキーシャが戦っている。
  次第にキーシャは追い詰められているようだ。

「聖剣ごときでこの私を倒せると思うなよ」

 キーシャはナイフを己に向けて手のひらを切りつけた。
  そして床に描かれた魔術陣に血を落とした。

「出てこい、古のハイゴーレムよ!」

 キーシャの声に反応したのか、魔術陣が強い輝きを放った。
  セノは慌ててキーシャから距離を取り、部屋の隅まで飛び退いた。
  すると部屋全体がガタガタと音をたてて揺れ始め、魔法陣から大きなゴーレムが姿を現した。
  キーシャは身長の三倍はありそうな大きなゴーレムの頭に飛び乗って笑った。

「このゴーレムには物理耐性を付与している。聖剣など私の敵ではない」

 キーシャはゴーレムを操り、セノへ攻撃させた。
  コーレムが大きな腕をセノに振り下ろす。
  セノはそれを聖剣・シルドヘッドで防ぎ、ゴーレムに斬りかかった。
  しかしその刃は弾かれ、ゴーレムには傷一つ付かない。
 ゴーレムは大きな手でセノを叩き落とし、彼の体は地面に打ち付けられた。
  
「セノ!?」

 エルスは壁を這って起き上がりながら彼の名を叫んだ。
  
「神子は取り逃がしたが、聖剣の使い手だけでも殺せたら十分だ。死ぬが良い」

 ゴーレムが両拳を握り、地面にうずくまるセノに振り落とそうとした。
  その時、建物の屋根を突き抜けて一筋の雷がエルスの体を貫いた。

「んぐっ……!?」

 エルスの心臓が大きく脈打つ。
  全身が熱くなって、この体が狭苦しくてたまらなくなる。
  手足に鮮やかなプラチナの鱗が浮き出て、背中からは美しい翼が生えた。
  それを見てキーシャは目を輝かせた。

「ああ、やはり邪竜は美しい……」

 エルスは翼を広げて飛び上がると、キーシャに向かって叫んだ。

「僕のセノを、これ以上傷つけるな!」

 エルスはゴーレムの方を向いて、大きく息を吸った。

「ファイアーブレス!」

 エルスの口からゴーレムを包み込むほど大きな炎が吐き出される。
  キーシャはひどい火傷を負って、ゴーレムから転げ落ちた。
  セノは聖剣を手に立ち上がるとキーシャの元に走っていき彼を捕らえた。
  操縦者を失ったゴーレムは炎で焼かれ、やがて灰となって消えた。
  それを見届けたエルスは満足げな笑みを浮かべて、飛ぶ力を失った翼でふらふらと地面に落ちて気を失ってしまった。
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