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聖なる神子様②

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「エルス、あいつにいつもあんなことをされているのか?」
「だいたいはな」
「そうか……これからはもっと神殿に来られないか王子に相談してみる」
「いきなりどうしたんだよ。僕があんな奴に負けるとでも思ってるわけ?」
「それはない。ただ、お前のこの顔に傷がついたりしないか心配なだけだ」

 セノはエルスを手招きして隣に座らせると、美しい顔を手のひらで撫でた。

「せっかく可愛い顔してんだから、そんな眉間にシワ寄せてないで笑ってろ」
「はぁ? あんた何様なわけ」

 エルスは自分の頬が熱くなるのを感じながら、セノから顔を背けた。

「さて、洗濯するんだろ? 手伝うよ」
「あんたが手伝わなくたってこれくらい出来る」

 セノは彼の耳が赤くなっているのを愛しげな目で見つめていた。


 
 それから、セノは毎日のようにエルスの元を訪れた。
 はじめの頃の彼は王子とともに神殿を訪れていたが、次第に一人で神殿内を自由に出入りするようになった。
 セノがエルスの元を訪れる回数が増えるごとに、ヤイルの機嫌は悪くなっていった。
 ヤイルは神官長にこっぴどく怒られたが、しばらく上位神官の監視がつく程度で許された。
 これも神殿が治外法権であり、王家と並ぶほどの権力を有するおかげであった。



 ある日の午後、エルスは神殿内でセノの姿を見た。
 声をかけようと彼に向かって手を伸ばしたが、すぐにそれを引っ込めた。
 なぜなら彼が珍しく真剣な表情をしていたからだ。
 エルスはいったいどこへ行くんだろうと思って彼のあとをついていった。

 セノは速歩きで神殿の奥へと突き進んでいく。
 エルスのような見習い神官や低位の神官は普段入ることがない場所だ。
 神殿の奥には個別で従者を雇っているような高位神官たちや神官長の部屋があるのだ。
 やがてセノはある一つの部屋の前で足を止め、ドアをノックした。

「チカ、俺だ。話がしたい」

 するとドアは内側から開かれ、中から一人の美少年が姿を現した。
 彼がチカという人物だろうか。
 少年の肌は雪のように白く、髪も瞳も驚くほど深い漆黒だった。
 少年はセノの首に腕をかけ、ぎゅっと抱きしめた。

「待ってたよ、セノ。早く中に入って」
「ああ」

 当然のようにセノは彼を抱き返して、そのまま部屋の中へ消えていった。
 それをエルスは廊下の影からこっそり見ていた。
 なぜだか急に胸が苦しくなって、手が震えた。
 あの少年は、セノの恋人なんだろうか。
 気分が悪くなったエルスは長いことその場にしゃがみこんでから、やがて呼吸を整えて自分の仕事に戻っていった。
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