勤怠戦隊ギョームイン

渡邊 悠

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勤怠戦隊ギョームイン

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人々が働いて家路につく頃。ある若者たちがもう一つの仕事を始める。それは、人々の仕事への負の念により生まれた『業夢』を倒すことだ。業夢がこの世界に増えすぎると、社会が崩壊すると言われている。これは、日々産み出される業夢と戦う三人の戦士の物語である。

 とある金曜の夜。
 週末は労働者の疲れから特に強力な業夢が発生しやすい、危険エリアだ。三人は別々の会社に勤める会社員。普段はサラリーマン、OLとして日々業務にあたっている。そんな三人が仕事を終えると携帯に本部より連絡が入る。
「東京、西日暮里エリアにて大型業夢発生! 至急向かわれたし!」
 三人はそれぞれ最寄りの地下鉄駅へと走る。改札で特別製の定期券を通すと、隠されたゲートが出現した。滑り込み型のスライダーのようになっている。そのスライダーは業夢が視認できる特殊空間へと繋がっているのだ。スライダーを抜けると白と黒の反転した世界が広がっている。リーダーと一人の隊員が合流した。
「レッド、今回のはなかなかヤバそうだな」
「ふっ、怖じ気づいたのかブルー?」
 ブルーと呼ばれた隊員は肩を回しながら、
「まさか、ぶっ倒しがいがあるってもんさ」
「それなら早くイエローと合流するぞ」
 列車の走らない地下鉄の線路を進む。すると後ろから何やら明かりが近づいてくる。音からして電車ではなく車のようだ。すごいスピードでこちらへ向かってくる。
「あなたたち、何のんびり走ってるの! 早く乗って」
 そう言って車を止める。レッドとブルーは後部座席に飛び乗る。
「さすが、気が利くぜ! かっ飛ばしてくれ、イエロー!」
「ええ!」
 ハンドルを握った女性はアクセルを全開にして車を急発進させる。
 
 走ること5分。周りの空気が紫色に淀んでくる。業夢が発する狂気だ。
「へっ、目視で敵を確認出来ない範囲からこれとはな」
 ブルーの額に冷や汗が流れる。イエローもハンドルを握る手にじわりと汗をかいていた。と、突然、
「イエロー、止まれ!」
 レッドの声に急ブレーキをかける。同時に目の前のトンネルが崩れ、業夢が姿を表した。
「グルルルルル……」
 砂塵が舞い、崩落した瓦礫の向こう側に巨大な影がみえる。三人は車から降りて身構える。工場の巨大なプレス機が五台ほど連結され、人型になってうごめいている。
「こいつぁ、またでっかいな。大手工場系の業夢か?」
「相当、不満溜め込んでるな。口から狂気がだだもれだぞ」
 巨大業夢の口からは紫色の煙のようなものが大量に吐き出されていた。業夢はこちらを見るなり、
「グルアァァァ!」
 叫びながら、巨大プレス機の腕を振り下ろす。三人は散開してかわし物陰に潜む。無線で、
「どうするよ? 近づくのは不可能だぞ」
「しょうがない、本部からの支給品を使うか」
「これ、何が出てきてくれるかランダムなのが困りものよね」
 三人はそれぞれの場所で小さなカプセルを開けた。
「おっ、俺のは硫酸ガスのスプレーだ」
「かー、こんなもん使えるかよ! 万能工具だ、くそっ! 栓抜き機能ついてたって変わりゃしねぇ」
「……」
 イエローに至っては、金属バットを持って黙り込んでしまった。レッドは震えながら、
「なあ、一つ思ったこと言っていいか?」
「どうぞ……」
「ちゃっちすぎだろ! これでどうしろってんだ! 本部はアホか!?」
「予算無いんだろ? どうせ……」
 レッドは本部への緊急無線を握り、
「こちら現場隊員、本部応答せよ!」
 声を潜めながら怒鳴る。しかし無線口は、
「………」
「本部! 応答せよ!」
「……ってかさ~、このポテトマジ不味くない? あ、無線のスイッチ切り忘れてた。ブツッ……」
 無線が切れる。レッドの何かも切れた。
「………」
 黙り込んだレッドにブルーが伺うように尋ねる。
「本部はなんて?」
「あんのクソバイトが! 無線サボってポテト食ってやがる!」
「はぁ、しょせん現場なんてそんなものよ。最低限の人員で、与えられたもので何とかしろって無理難題言われるんだから」
 本部に怒り心頭のレッドに、既に諦めモードのイエロー。いきなりのピンチだ。レッドの怒鳴り声に反応したのか業夢が近づいてくる。
「くそったれ! やってられっか!」
 自棄になったレッドは硫酸スプレーを業夢に投げつけた。カツンとぶつかると、缶が腐食していたのかシャワーのように硫酸が飛び散る。
「グギャアァァ!」
 うまい具合にプレス機の結合部分にかかり、業夢が怯む。
「あぶねぇ、缶すらすでに体使い物にすらならないやつだった。普通に使ったら手が溶けてたぞ……」
「さーて、敵さんも怯んだことだしやりますか」
「ストレス発散させてもらうわ!」
 イエローは駆け寄ると業夢の基盤部分に向けて金属バットを振り下ろした。バギッとなんとも鈍い破壊音がする。弱点だったようで、悲鳴を上げて業夢が苦しむ。レッドも走って近づき、
「このっ、このっ!」
 基盤部分に蹴りを入れている。一歩出遅れたブルーがふと、異変に気づいた。
「おい、レッド、イエロー離れろ。あまり近づき過ぎると業夢の狂気に…」
 だが二人には聞こえていないのか、ひたすら攻撃を繰り返している。
「おいおい、既に遅しってか? 狂戦士になったやつどう戻すんだ?」
 連絡の取れない本部に狂戦士になってしまった味方。ブルーは手に持った万能工具に目をやる。
「万能って……、どこまでだ? 試すか」
 万能工具でレッドの頭を横からこずく。思いの外威力が乗ってしまい、レッドは仰け反ってから、
「痛いな! なにをする!」
 ブルーを睨み付ける。
「おお、万能工具すげえ」
「はあ?」
 狂戦士すら治してしまう万能具合に感心するブルーに訳がわからないレッドは訝しげな顔をした。ブルーはレッドにちょいちょいと手招きして、
「イエローを見てみろ。どんな風に見える?」
「んー、普段のストレスを発散してる?」
 あながち外れていない答えなので突っ込みにくいが、
「あれは、業夢の狂気に当てられて狂戦士になってるほうだ」
「ああ、なるほど」
 説明すると、ポンと手を打つ。
「今までは原因となった業夢を倒すしかなかったんだが……、ちょっと見てろ?」
 レッドの時よりかなり加減をしてイエローをこづく。
「あれ? 私……?」
「おお、正気に戻ったな」
「な? すげえよな」
 感心しきりの二人に、不思議そうな顔をして、
「?」
 イエローは首をかしげている。とりあえず、業夢の狂気対策は出来たので、弱点の基盤攻撃二人に回復一人という編成になった。一番力が弱い(であろう)イエローが回復役で、男二人がひたすら叩く。しばらくすると、業夢は悲鳴と共に霧散した。三人は肩で息をしながら、
「ぜー、ぜー、これにて任務完了か」
「今回も、ギリギリの勝利だな」
「もー、毎回冷や汗ものなのをなんとかして欲しいわ」
 愚痴りながら車へ引き返す。車から本部へ、
「こちら現場隊員。業夢撃退、完了」
 無線を入れると、
「こちら本部、お疲れ様です」
 先ほどとは違う声がする。
「すみません、先ほどのアルバイトの子にはきつく言っておきましたから」
「頼みますよ。本部と連絡取れないのは致命的なので」
 どうやら担当管理者が無線を繋いでいるようだ。
「では、こちらから遠隔でゲートを開きます。そのまま直進してください」
「了解」
 指示を受けてトンネルを直進する。すると、車の周りに淡い青色の光が集まり、次の瞬間。車は地下鉄駅裏の路地へとワープした。周りの白黒反転がなくなっているので、通常空間に戻ったのだろう。三人は駐車場に車を停めて、
「ふいー、おつかれさん」
「また来週末かね?」
「それまで業夢が現れないことを祈るわ」
 それぞれの家へと帰宅した。
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