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第四章 婚約破棄令嬢、ダイエットに燃える
第四〇話「……なんてことだ、この隠し迷宮【喜捨する廉施者】の存在はいよいよ公表できなくなってしまったぞ」
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二三九日目。
アスモデウス君はお料理ブラウニーの作る肉料理がお気に入りのようであった。
あどけない顔してよく食べる。ナイフとフォークの使い方もあやしい野生児っぷりだったが、元気に食らいつく姿を見ているとこちらも自然と顔が綻ぶというものだ。
本当に美味しそうに食べるものだ、と感心する。
ちなみに、ダイエット中のクロエは、唇を噛み締めながら山菜ときのこと海鮮のサラダを食べていた。ものすごく悔しそうな顔をしていたが、こればかりは仕方がない。
どちらにせよ十分おいしい料理のはずだが、やはり肉の旨味は食の喜びにがつんとくるものがある。心苦しいが、彼女のダイエットのためなのだ、肉料理は俺とアスモデウス君で食べなくてはいけない、残念だ。
「……ミロク? 何故私に見せつけるようにして食べるのです?」
「こうやって食べる飯がうまい」
「……本当にあなた、最低ですわね?」
「他の人と一緒に食べるご飯はおいしいって意味だ、誤解するなよ」
何かもの言いたげなジト目で見られたが、別に俺は悪くないはずだ。間違ったことは言ってない。
皆で食べるご飯はおいしい。
途中、アスモデウス君がクロエの視線に気づいてか、肉料理を彼女に突き出して食べさせてあげようとする一幕があったが、俺が止めておいた。ダイエット中なのだ。優しいのは結構だが、今までの努力を台無しにしてはいけない。
あれこれ説明してみるものの、言葉が通じないのか、アスモデウス君は終始不思議そうにしていた。
(……なんだろうな、この子、言葉が通じるときと通じない時があるな)
奇妙な違和感。知性が欠如している、というわけではなさそうなのだが。
第三階層は、例えるならば砂漠の中にある円柱の塔だった。
それはかつてレヴィアタンが住居にしていたねじれの塔にも似た作りだったが、作られてる材質が違う。どこもかしこも宝石なのだ。
砂漠も目を凝らしてみれば、粒となった宝石の砂で出来ている。どこもかしこも宝の山。
これには俺も驚いてしまった。
「……なんてことだ、この隠し迷宮【喜捨する廉施者】の存在はいよいよ公表できなくなってしまったぞ」
こんなに宝石資源が豊富であると世間に知られたら。
最悪の場合、この迷宮の鍵の利権を巡って戦争になるおそれがある。
宝石は極めて有用な資源だ。
美術的価値はもちろん、戦乱による紙幣価値の乱高下対策としての価値保存の財産の一面もあるが、何より魔術の触媒としてもすぐれている。
色は魔力。輝きは魔力。
宝石言葉はもちろんのこと、様々な神話においても宝石はしばしば顔を出す存在であり、魔術的意味を織り込みやすい。
今クロエが護身用に腰に取り付けている宝石のアゾット剣も、エメラルドで作り上げたソロモン王の短剣、シャムシール・エ・ゾロモドネガルの模造剣である。
そんな宝石が、この第三階層からほぼ無尽蔵に採掘できると知れてしまったら。
どのように楽観的に見積もったとしても、世間は大騒ぎになって、市場は大いに荒れ狂うだろう。
宝石が腐るほど取れる円柱の塔。
迷宮の自己修復作用を加味して、無理なく採掘を続ければ、おそらく宝石を地上で売りつけるだけで、俺とクロエは一生金策に困らない裕福な生活ができるに違いない――。
(……それにしても、相変わらず石碑の言語は解読しづらい。ここに至っては文字も俺の知識の及ばないところにあると見た。おそらくはアラビア語系統、つまり相変わらずセム語系の文字だと仮定できるが……)
宝石が彫刻された石碑をにらみながら、俺は唸った。
また持ち帰って解読しないといけない文字が増えてしまった。この迷宮について、ますます謎は深まるばかりである。
実をいうと、第一階層の古代ドラグロア言語でさえ解読がまだ進んでいないのだ。そんな状態で、第二階層のルルイア言語と来て、第三階層のアラビア語風の何かである。
全然何も読み解けていない――だが、この迷宮の情報を公表するのは憚られる。
かなりの決め打ちだが、ヒントはある。
例えば第二階層の主、《海の王》ダゴンは、セム語系統のウガリット神話における「父なる豊穣神ダゴン」と関連があるものだと推測される。第一階層の主《森の王》ジヒュメの娘も、おそらくは何かしらの神話体系にちなんだ名の魔物なのだろう。
であれば、第三階層も同じく、何某かの王がこの地にいて、その魔物は何かしらの神話の名を借りた魔物であるはずだ。
セム語系統の神話であるとすれば、古代ドラグロア言語やルルイア言語がその枠から外れる。
であれば別系統の何か、なのだが。
(第三階層の探索は、これまた第二階層と同じようにスローペースになりそうだ)
別に迷宮攻略を急いでいるわけではない。むしろゆったりスローライフを送りたいだけなら、もうこれ以上迷宮の奥に無理して進まなくてもいいのではないかとさえ思う。
食料もある、資源もある、果たしてこれ以上何を望むのか。
わくわくしている自分がいるのは、矛盾だと思う。
豊かな生活を送ることだけ考えていればいいはずなのに。
宝石の砂で覆われた階段をゆっくりと登りながら、果てしなく高い塔の頂点を目指す。
こういう遺跡ってやつは、だいたい頂上にボスがいるというのが相場である。途中出てくるサソリや鳥の魔物を蹴散らしながら、俺は迷宮の地図化をゆっくりと進めるのだった。
アスモデウス君はお料理ブラウニーの作る肉料理がお気に入りのようであった。
あどけない顔してよく食べる。ナイフとフォークの使い方もあやしい野生児っぷりだったが、元気に食らいつく姿を見ているとこちらも自然と顔が綻ぶというものだ。
本当に美味しそうに食べるものだ、と感心する。
ちなみに、ダイエット中のクロエは、唇を噛み締めながら山菜ときのこと海鮮のサラダを食べていた。ものすごく悔しそうな顔をしていたが、こればかりは仕方がない。
どちらにせよ十分おいしい料理のはずだが、やはり肉の旨味は食の喜びにがつんとくるものがある。心苦しいが、彼女のダイエットのためなのだ、肉料理は俺とアスモデウス君で食べなくてはいけない、残念だ。
「……ミロク? 何故私に見せつけるようにして食べるのです?」
「こうやって食べる飯がうまい」
「……本当にあなた、最低ですわね?」
「他の人と一緒に食べるご飯はおいしいって意味だ、誤解するなよ」
何かもの言いたげなジト目で見られたが、別に俺は悪くないはずだ。間違ったことは言ってない。
皆で食べるご飯はおいしい。
途中、アスモデウス君がクロエの視線に気づいてか、肉料理を彼女に突き出して食べさせてあげようとする一幕があったが、俺が止めておいた。ダイエット中なのだ。優しいのは結構だが、今までの努力を台無しにしてはいけない。
あれこれ説明してみるものの、言葉が通じないのか、アスモデウス君は終始不思議そうにしていた。
(……なんだろうな、この子、言葉が通じるときと通じない時があるな)
奇妙な違和感。知性が欠如している、というわけではなさそうなのだが。
第三階層は、例えるならば砂漠の中にある円柱の塔だった。
それはかつてレヴィアタンが住居にしていたねじれの塔にも似た作りだったが、作られてる材質が違う。どこもかしこも宝石なのだ。
砂漠も目を凝らしてみれば、粒となった宝石の砂で出来ている。どこもかしこも宝の山。
これには俺も驚いてしまった。
「……なんてことだ、この隠し迷宮【喜捨する廉施者】の存在はいよいよ公表できなくなってしまったぞ」
こんなに宝石資源が豊富であると世間に知られたら。
最悪の場合、この迷宮の鍵の利権を巡って戦争になるおそれがある。
宝石は極めて有用な資源だ。
美術的価値はもちろん、戦乱による紙幣価値の乱高下対策としての価値保存の財産の一面もあるが、何より魔術の触媒としてもすぐれている。
色は魔力。輝きは魔力。
宝石言葉はもちろんのこと、様々な神話においても宝石はしばしば顔を出す存在であり、魔術的意味を織り込みやすい。
今クロエが護身用に腰に取り付けている宝石のアゾット剣も、エメラルドで作り上げたソロモン王の短剣、シャムシール・エ・ゾロモドネガルの模造剣である。
そんな宝石が、この第三階層からほぼ無尽蔵に採掘できると知れてしまったら。
どのように楽観的に見積もったとしても、世間は大騒ぎになって、市場は大いに荒れ狂うだろう。
宝石が腐るほど取れる円柱の塔。
迷宮の自己修復作用を加味して、無理なく採掘を続ければ、おそらく宝石を地上で売りつけるだけで、俺とクロエは一生金策に困らない裕福な生活ができるに違いない――。
(……それにしても、相変わらず石碑の言語は解読しづらい。ここに至っては文字も俺の知識の及ばないところにあると見た。おそらくはアラビア語系統、つまり相変わらずセム語系の文字だと仮定できるが……)
宝石が彫刻された石碑をにらみながら、俺は唸った。
また持ち帰って解読しないといけない文字が増えてしまった。この迷宮について、ますます謎は深まるばかりである。
実をいうと、第一階層の古代ドラグロア言語でさえ解読がまだ進んでいないのだ。そんな状態で、第二階層のルルイア言語と来て、第三階層のアラビア語風の何かである。
全然何も読み解けていない――だが、この迷宮の情報を公表するのは憚られる。
かなりの決め打ちだが、ヒントはある。
例えば第二階層の主、《海の王》ダゴンは、セム語系統のウガリット神話における「父なる豊穣神ダゴン」と関連があるものだと推測される。第一階層の主《森の王》ジヒュメの娘も、おそらくは何かしらの神話体系にちなんだ名の魔物なのだろう。
であれば、第三階層も同じく、何某かの王がこの地にいて、その魔物は何かしらの神話の名を借りた魔物であるはずだ。
セム語系統の神話であるとすれば、古代ドラグロア言語やルルイア言語がその枠から外れる。
であれば別系統の何か、なのだが。
(第三階層の探索は、これまた第二階層と同じようにスローペースになりそうだ)
別に迷宮攻略を急いでいるわけではない。むしろゆったりスローライフを送りたいだけなら、もうこれ以上迷宮の奥に無理して進まなくてもいいのではないかとさえ思う。
食料もある、資源もある、果たしてこれ以上何を望むのか。
わくわくしている自分がいるのは、矛盾だと思う。
豊かな生活を送ることだけ考えていればいいはずなのに。
宝石の砂で覆われた階段をゆっくりと登りながら、果てしなく高い塔の頂点を目指す。
こういう遺跡ってやつは、だいたい頂上にボスがいるというのが相場である。途中出てくるサソリや鳥の魔物を蹴散らしながら、俺は迷宮の地図化をゆっくりと進めるのだった。
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