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第四章 婚約破棄令嬢、ダイエットに燃える

第三九話「すっぽんぽん。わかりやすく男の子だった」

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 二三八日目。
 いきなり爆弾を任されてしまった。
 あの先生、随分あっさりと言ってくれたものだが、相手は大罪の魔王である。

 彼女は「アスモデウス君は言葉がしゃべれないだけでおとなしい子なの」とか言ってたものだが、それさえ怪しい。
 まずもって行動が破天荒極まりない。

 一例を挙げる。

 アグラアト先生にアスモデウス君を紹介されたとき、俺は思わず「え、アスモデウス君? 男なのか? 女の子っぽい見た目なのに?」と言ってしまった。
 若干偏見が入ってはいるのだが、見た目が完全に少女のそれで、獣人のように毛むくじゃらではあったものの、到底男のようには見えなかったからである。
 すると、それを聞いたアスモデウス君は服を脱いだのだ。すっぽんぽん。わかりやすく男の子だった。
 おかげでクロエがぴゃあとか叫んでうるさかった。ガン見してたが。

 大体これで分かったと思うが、アスモデウス君は純粋無垢で自由な子なのだ。おとなしい子というよりは、何をしでかすのか読めない子というほうが適切だと思われた。

「……えっと、任せるって、どういうことを……?」

「彼を普通の子供にしてあげてほしいの。彼はまだ子供だから、大罪の魔王として誰かに命を狙われるなんてのは可哀想だわ」

「……うーん」

 アグラアト先生が俺の手を握りこんで頼むには、彼を普通の子にしてほしいとのこと。
 普通の子、というのは具体的にどういうことなのか気になったが、その言葉の内にはどこか親心に似た情のようなものが感じられる。もしかしたら、彼女は本当に親代わりになって彼をずっと見守っていたのかもしれない。

「それは、手段は問わないと考えてもよいと? 先生の言う普通を実現させるために、あの子の魂の器のほとんどを奪い取るかもしれないんだぜ?」

「……」

 肯定の言葉はない。無言は、どのようにも捉えられる七色の回答であった。
 きっと俺が強引に促せば、肯定に変わるのだろう。つまり、強引にいけばアスモデウス君の魂の器を奪い取ることができる。そしていずれはそうするべきだとも俺は思っている。
 俺はおもむろに横を見た。特に理由はなかったが、そこにいるアスモデウス君のことが気になった。

「あ、アスモデウス君、その、見せちゃダメですわよ……お隠しあそばせ……」

「?」

 じっとクロエをのぞき込んでいるアスモデウス君――その様子に邪悪なものは一切感じられない。
 だが彼は、【色欲】の大罪をもつ魔王である。虚ろなる魔王。人類に仇なすとされている存在。
 それはつまり、その気になれば人を滅ぼすことができるともいわれる生物なのだ。

「……災厄ボードの災厄種に指定されているということは、人類へ重大な災厄をもたらす可能性ありとして冒険者ギルドより討伐依頼が下されている存在だということだ。つまり、国を超えて彼の命を狙っている冒険者が多数いるということだ」

「……そうね」

 気づくと、アグラアト先生も同じようにアスモデウス君を眺めていた。
 あまりにも中性的な彼からは、暴力や色欲の匂いはほとんど感じられない。
 彼は無垢だった。
 アグラアト先生に、どうか普通の子供のように育ってほしいと願われるのも理解できる。
 だから俺の答えは、もう決まっていたようなものだった。

「……できる限りであれば、力になろう」

「……ありがとう、ミロク君」

 いつでも魂の器を奪うことができるという条件下のもとであれば――と、俺の心のどこかにある甘い部分が、冷酷な決断の選択肢に待ったをかけて、結局安請負をしてしまうのだった。
 つくづく思うが、こんな甘い性格を直せないあたり、俺はもう手遅れなのかもしれない。





 大罪の魔王を無力化するのは、去勢に似ている。
 発情期が近づいて気性が荒ぶって暴れる生き物に去勢を行って無害化させる――いわゆる、人間社会の都合上仕方がないとされる行為でありながら、極めてエゴイスティックな側面を持つ行為である。

 不死身の悪魔のレヴィアタンは、今やモモの言いなりの使役獣である。
 零落した女神のアシュタロトは、もうすでに魔力の殆どを失ってしまった。

 全ては、魔王の魂の器レベルを吸収した俺たちのせい。彼らの意志の一切を無視して、一方的にその魂の器レベルを吸い取った俺とクロエの所業によるものだ。

(そうだとも、大罪の魔王たちにも何か目的があったはず。ただ彼らの存在や能力が人間社会において脅威になるから、彼らは討伐されることになったんだ)

 災厄種ボードに名前が載らなくなった――つまり、人類にとって災厄の種にならないと判定された彼らは、もはや討伐対象ではなくなっている。
 そして現在レヴィアタンは、初めて人類に調伏された【元・災厄種】の使役魔獣であるとして研究対象になっており、モモの協力のもと、その生態や能力について慎重に調査が進められている。
 おそらくだが、アシュタロトやアスモデウスについても同じだろう。すなわち、クロエの能力で無害化に成功した後に、彼らの存在が世間一般に知られたとしたら、生態や能力の研究が行われるだろう。

(まあ、だからといって、彼らを放置するという選択肢はない)

 将来的に人に仇なす可能性がある。それだけで、討伐に足る十分な理由である。
 やはり、大罪の魔王を無力化する行為は去勢と似ている。行為の是非の問題ではなく、一つの可能性を奪おうとすることそのものが一緒なのだ。

 まあ、そんなの考えたところで、詮無いことなのだが――と俺は前を歩くアスモデウス君の背中を眺めながら考えるのだった。

(……しかし、それにしてもだ)

 俺は思わず隣を歩くクロエに話しかけた。

「……この子結構やるな。試しに迷宮に連れ出してみたら意外とどうして」

「……強いですわね」

 隠し迷宮の中で、俺とクロエは二人して唸らされてしまった。
 アスモデウス君は恐ろしく強かった。
 それも、第二階層のボスを一人で倒してしまうぐらいに。

 海底の世界の王、深きものダゴン。
 第二階層の碑文にかかれており、かろうじて意味を読み取れた単語の一つ。
 ルルイア語をノタリコンで更に変換した、ねじれた構文中にあった固有名詞である。

 人類の祖先とも、旧支配者の七人の帝ともいわれる存在。
 第二階層の水棲種族の長である彼は、やはり第一階層の《森の王》と同じように《海の王》と称されていた。

 だが、しかし。
 アスモデウス君はそれの胸に腕を肘まで突き刺して、心臓の場所と思しき箇所を貫いていた。
 あまりに呆気ない一幕。

(いや、それでも《海の王》ダゴンは、心臓を失ってなお抵抗を見せていたけど)

 胸を貫かれたダゴンは、狂ったようになってアスモデウス君を殴りつけて暴れていたが、それでも血をどぼどぼと胸から吹きこぼして抵抗するのは無理があったのか、やがて動かなくなってその場に崩れた。
 アスモデウス君の方も度重なる殴打によってひどい怪我をしていたが、あらかじめ付与魔術によって俺に強化されていたことと、治癒魔術による回復支援を受けていたことで、命に別状はない。

 結果から言えば、ほぼ完全な勝利である。

(……でたらめな強さだが、あまりにも自分の安全に頓着がない)

 その危うい在り方に虚ろさが見え隠れする。やはり力を封印すべきではないか、という思いが頭をもたげる。
 血まみれになった顔を服でごしごしとぬぐっているアスモデウス君を見ながら、俺はなんだか空恐ろしいものを感じるのだった。





 ミロク
 Lv:36.51→6.51→30.44
 Sp:62.55→8.55→56.12
≪-≫称号
 ├×(藍色の英雄)
 ├森の王の狩人
 └大罪の討伐者【嫉妬】【憂鬱】
≪-≫肉体
 ├免疫力+++
 ├治癒力++++
 ├筋力_max
 ├感覚強化(視力++++ / 聴力++++ / 嗅覚++ / 味覚+ / 触覚+)
 ├熱源感知++
 ├造血++ 
 ├骨強度++++++ 
 ├肺活量 ++++ new
 ├皮膚強化++++++ 
 └精力増強++
≪-≫武術
 ├×(短剣術)
 ├棍棒術++++++
 ├盾術++
 ├格闘術+++++ 
 ├投擲++++++ 
 ├威圧+++ 
 ├隠密+++++
 └呼吸法 ++++ new
≪-≫生産
 ├道具作成++ 
 ├罠作成++
 ├鑑定+++ 
 ├演奏 
 ├清掃 
 ├裁縫+++++ 
 ├測量++ 
 ├料理 
 ├研磨 
 ├冶金++++
 ├調薬++++
 └運搬 
≪-≫特殊
 ├暗記++ 
 ├暗算++ 
 ├直感+++++
 ├瞑想 new
 ├並列思考+++++++ 
 ├魔術言語+++++ new
 ├詠唱+++++ new
 ├錬金術++++
 ├治癒魔術++++++++ 
 ├付与魔術_max 
 ├血液魔術++
 └気功術 new


 クロエ
 Lv:139.18(1042)→140.18(1071)→140.32(1068)
 Sp:63.51→66.41→62.41→62.69
 状態変化:肥満 腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×
≪-≫称号
 └大罪の討伐者【嫉妬】【憂鬱】
≪-≫肉体
 ├免疫力+++
 ├治癒力+++ 
 ├筋力+++++++ 
 ├感覚強化(視力+++++ / 嗅覚+++ / 味覚+++)
 ├肺活量+++ 
 ├不死性+++++ 
 └異常耐性(毒+ / 呪術+++)
≪-≫武術
 ├短剣術++
 ├棍棒術+++++ 
 ├投擲++++ 
 ├隠密++++++++ 
 └呼吸法++
≪-≫生産
 ├罠作成+
 ├裁縫+
 └測量
≪-≫特殊
 ├瞑想 new
 ├魔術言語+++++
 ├詠唱+++++
 ├錬金術
 ├宝石魔術+++
 ├気功術 new
 └吸魂+++++++





 スキルポイントの配分については、ヨーガに打ち込むために肺活量、呼吸法スキルに若干回した。
 魔術言語スキル、詠唱スキルも、一度はクロエに譲渡したが今後どうせ必要になると踏んで振り分けなおした。
 瞑想とか気功術とかは、才能の欠片スキルポイントが60を超えている状態でヨーガに打ち込んだ結果得られたスキルだ。やはり才能の欠片を大量に保持した状態なら、新たにスキルを修得しやすい傾向にあるらしい。
 それにしても新しく得られた気功術とやらは気になる。第二階層のボスを撃破した結果、スキルポイントも余るほど獲得できたことだし、気功術を伸ばす価値はありそうである。

 クロエはあえてスキルポイントを配分していない。
 才能の欠片を大量に保持しているこの状態で、いろんなスキルを閃いてもらうのも一興だと考えたのだ。
 結果、彼女もまた俺と同じく瞑想・気功術スキルを手に入れていた。これからもっといろんなスキルを身に着けていくのだろう。




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