上 下
17 / 51
第二章 役立たず付与魔術師、【嫉妬の大罪】レヴィアタンを討伐する

第一四話「その名は、モモ」

しおりを挟む
 一一〇日目。
 この日は迷宮開拓都市アンスィクルを練り歩いていた。当然クロエも一緒に隣を歩いている。
 単なるデートというわけではない。綺麗な真珠を結構な数見つけたので、この街で換金しようと考えたのだ。それに、調味料や香辛料も足りなくなってきたし、服ももう少し買いそろえたい。それならばいっそ、この日は丸ごと休養日に充てようと考えて、こうやって二人でアンスィクルの地を闊歩しているのだ。


(それに、意外とクロエも嫌がらなかったしな……)


 前回の口ぶりからして、街に入るのはもう嫌なのだとばかり思っていたが、今日の楽しそうな様子を見るとあながちそうでもないらしい。
 俺が一緒にいれば大丈夫だと考えたのだろうか。それとも、例のB級冒険者が襲ってきても十分勝てる自信がついたのだろうか。


 もしかしたら、顔の傷が徐々に癒えつつあることも関係しているかもしれない。
 黒く変色した壊死組織がほとんど切り除かれた彼女の顔は、まだ痛ましい凸凹の跡や引き攣れが目立つが、それでも最初と比べたら随分ましになった。大きな引き攣れは繊維を切り広げたし、あばたの痕跡も針で突き刺して治癒魔術をかけることを根気よく繰り返したおかげか、徐々に肌の形が落ち着いてきたように見える。
 ケロイドのような隆起が穏やかになり、それに伴って彼女の前向きな表情も増えたような気がする。


 アンスィクルの中でも治安のいい場所とされるメルヴィレ区を歩き、アートギャラリーやカフェで時間をつぶす。露店通りを歩いて、古い雑貨やよくわからない魔道具を二人であれこれ言いながらウィンドウショッピングを続ける。
 新作のフルーツクレープを二人で食べるころには、もう日が傾きだす時間帯になっていた。


「お待たせしましたわ。そろそろ帰らないといけませんわね」


「いや全然大丈夫。正直俺もいいリフレッシュになったよ」


 喫茶店で気に入った紅茶をいくつか見繕って、茶葉を買って帰ろうとしたとき、それは起こった。


「……あ」


「ん?」


 メスガキと目が合った。
 時が止まるかと思った。
 それはいうなれば、不意打ちのように死人と出くわす慮外の邂逅の瞬間である。


 俺が、ではない。
 俺のほうが死人なのだ。


「ドチラサンデスカ、デハコノヘンデ」


「――――」


 相手が固まっているうちに逃げる。
 クロエの手をつかんで強引に角を曲がる。そして一気に飛び上がる。
 ぎょっとした顔のクロエをそのまま両手で抱え、屋根の上を走り抜けてからまた別の路地に飛び込んで逃げる。


 ――あああああああああああああああああああっ!? しゃべったああああああああああああああああああああっ!?


 背後から絶叫。
 遅れてきた悲鳴の爆発を背中にして、俺はさっさと足を動かした。


「やらかした、やべえ、やっちまった、会っちゃいけないやつに遭っちまった――!」


「え、ど、どういうことですの!?」


 目を白黒させて、なすがままになっているクロエに向かって、俺はまとまらない思考のまま答えた。


「レヴィアタン討伐隊の声掛け人だよ! 多分、この付近でのメンバー調達に難航している! 俺みたいにフリーのS級冒険者がいたら、しつこいぐらいに声をかけてくるはずだ! だから逃げなきゃいけない!」


「え、えっと、それで、どなたですの……?」


「最年少でS級認定を受けた冒険者――モモだよ!」


 世界でも指折りの冒険者として、勇者認定されている一人。
 迷宮攻略Tier1パーティの一角、メスガキ華撃団のリーダー。
 魔物を調教して使役するビーストテイマー。
 そして、大罪の魔王に四回遭遇して四回とも生き延びている、生ける伝説。


 魂の位階、第六位。
燕雀色マカライトの勇者】の名を冠するもの。
 無邪気。
 残酷。
 その名は、モモ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

目覚めたら7歳児でしたが、過酷な境遇なので改善したいと思います

瑞多美音
ファンタジー
 ふと、目を覚ますと7歳児になっていた。しかも、奴隷に……  どうやら今世のわたしが死にかけたことで前世の記憶がよみがえったようだ……    熱病で生死をさまよい死にかけグループに移動させられたメリッサ。  死にかけグループとは病気や怪我などで役に立たないとされるひとが集められており、部屋は半壊、冷たい床に薄い布団、ご飯は他のグループと比べるとかなり少ないとか。ほかより待遇が悪くなるようだ……    「扱いが他よりちょっとひどいが、部屋でできる仕事がまわってくる。慣れればなんとかなるよ」  と言われたものの、さすが死にかけグループ。訳ありの人ばかり。  神様に見送られたわけでもチートをもらったわけでもない……世知辛い。  ここは自分の頭と行動で自分を助けるしかないな。前世では手助けしてくれた両親も今世は見当たらないのだから……でもなんだか、この部屋は心地よい。前の部屋は自分のことで精一杯という感じだったのにここでは正に一心同体。  みんなには死んでほしくないからすこしでも工夫しないと。    死にかけたことで前世を思い出した主人公が過酷な境遇を改善するため周囲のひとを巻き込みつつ知恵や工夫を凝らしてまずは衣食住の改善を目指し頑張るお話。 ※この話には奴隷に関するもの、登場人物に火傷、隻腕、隻眼などが含まれます。あくまでもフィクションですが、苦手なかたや合わないと感じたかたは無理をなさらずそっ閉じでお願いいたします。 ※この語は法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...