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第57話 踊る芸術サロン⑦:それは小さな蛍
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「こちらが本日最後の品物になります」
ゾーヤから品物を受け取った俺は、多少勿体をつけて目の前にそれをお出しした。
気分は高級レストランの給仕係である。どんな風に驚いてくれるのか今から楽しみである。もしかすると貴賓の方々に今日のフルコースの主菜の一品を渡す時、給仕係たちも皆、こんな感じの気持ちになっているのかもしれない。
(どちらかというとデザートなんだけどね、俺が選んだものは)
最後に選んだ布は、例によってシフォン生地である。
薄く透ける生地を何層にも重ねて、一体今から何が出てくるのかと期待感を高めるためにそうさせてもらった。
分かりやすい絹の10匁。絹特有の上品な光沢と、透け感のある繊細な薄さを両立させている。6匁よりも厚手の10匁にすることで透け感がやや落ちるものの、しなやかで柔らかな風合いであることに変わりはない。
また、強撚糸のジョーゼット(いわゆるシフォンジョーゼット生地)でもあるので、さらさらした手触りになっている。
いわゆる『丹後ちりめん』に近い生地である。『丹後ちりめん』そのものにしなかった理由は、いつか西陣織の丹後ちりめんで度肝を抜いてやるつもりだから温存しただけだが――。
今回は、毛足の長いふわりとした天鵞絨、模様の凹凸のある西陣織、さらりとしたシフォン生地と、三つとも触って楽しい布にしたつもりである。同じ生地では芸がない。
「……これね、天使の羽衣だの言われているものは。合点がいったわ」
「天使の羽衣?」
アルバート氏にちらと目を向けると、彼は静かに頷いていた。
昔に売り卸した、シフォン生地のシュミーズのことだろう。あれはあれで、しゃり感が強い面白い生地だと思うが――。
「あれはもっと砂のような、亜麻のような、不思議な手障りだったと思うけれど……こんなにさらさらした手触りにもできるのね……」
令嬢はやや躊躇ったように手元を遊ばせていた。
「……一つ聞くわ。馬鹿な質問だと思って結構よ」
「? 御随意に」
「……、く」
く?
何を言うのか分からないが、言葉がそこで途切れた。
顔を赤らめた令嬢が、何か意を決したようにようやく言葉を紡ぎ出す。
「……く、どいて、ないわよね……?」
「ないです」
「はい馬鹿な質問! お馬鹿! もう嫌!」
一人で令嬢が騒ぎ出した。
何のことだと一瞬呆けたが、後ろからゾーヤがこっそり補足を入れてくれた。
「(……ここまで破格な貢ぎ物、常識に当てはめると、婚姻の申し入れぐらいしか考えられないからな。これほどの上物を用意できるかは別として、平民が貴族令嬢を口説くとなると、かなりの結納品が必要になる)」
「(……あー、そういう)」
じゃあもしかしてあの令嬢は、ひょっとするとこれは情熱的な求婚なんじゃないかと心のどこかで考えていたのかもしれない。ずっと。
それは何というか……可哀そうなことをしてしまった。
見たところまだ少女なので、少しませた考えだとも思うが――俺みたいな平々凡々な男に捕まってしまうと不幸になると思うので、そこはきちんとした身なりのちゃんとした貴族男性を捕まえて幸せになってほしいところである。
俺なんかに絆されたら、泣きを見ると思うが。
「(……確かに主殿の伴侶は苦労するだろうな。何をしでかすか分かったものではない)」
「(うるせえ)」
ゾーヤが半分苦笑のようなよく分からない表情をしていたが、どういう感情なのだろうか。
ともあれ今や場は収集が付かなくなっている。令嬢は顔を真っ赤にして「違うの! 違うから!」と必死に力説しているが、周囲の阿呆な商人たちは「後二年もすればこの男の気持ちも変わりましょうよ、お嬢様は大変美しい」などと何をどう慰めているのか分からぬ世迷言を吐いている。
このままだと色々まずそうである。
「ではお披露目に移りますね」
「あっ」
令嬢の手を取って無理やり開かせた。ちょっと手が汗ばんでいるのが分かった。何というか、彼女にはちゃんとした人を見つけてちゃんとした恋をしてほしい。
絹の薄く透けるシフォン生地から現れたのは、小さな白磁の器だった。
細かな蛍手の施された意匠。光を透かすシフォン生地とはこれ以上ない組み合わせだった。
「白磁 蛍手 小鉢<光盤>です」
◇◇◇
パーシファエ嬢は生まれついて、領地継承権をほぼ持たない少女であった。
嫡流の血統ではあるものの、四女という生まれでは下から数えたほうが早いぐらいで、この都市ミュノス・アノールの統治を引き継ぐのは長兄だとほぼ決まっていたようなものだった。
良からぬことを企てる家臣がいて、年端もないパーシファエを担ぎ上げて政治の神輿にしようとしたこともあった。だがそれらは悉く粛清された。
パーシファエは幼い頃から、野心を抱くことの愚かさを目の当たりにしてきた。
(この都市の繁栄こそが我が喜び。栄華をこの街にもたらすことが、我がミュノスの血族の使命)
利口な彼女は、この街の発展のために己の立場を活かすことにした。
商業と芸術の更なる躍進。即ち、交易都市としてのミュノス・アノールの地位向上である。
荘園迷宮を自前で保持しているこの都市ミュノス・アノールは、迷宮出土品を輸出することができる恵まれた領土である。そして活発な交易により、少なくない金貨が街に落ちた。経済状況は近隣の都市と比較しても良好であった。
下手なことをせず、現状を維持するのが最も良い――そう思われていた。
(中央宮廷の法衣貴族たちから、『芸術を理解しない田舎者』と思われ続けるのはミュノスの名折れ。せっかく領地経営が上手くいっているのだから、より権力を持つ貴族と婚姻関係を結んだりして縁戚になって、土台を固めに行かなくては)
この時代、領地の発展を狙う方法はいくつかあった。
兵力を高めて近隣の領地に侵攻をかけるか、商業に力を入れて経済的に豊かになるか、外交に力を入れて味方を増やすか。
定期的に夜会を開き、街の商人たちや有力者たちと芸術について語らっているのは、商業と外交の一端である。
ミュノス家は広く芸術に精通しており、決して田舎のもの知らずではない――と主張するためでもあり。
遠い地から工芸品を持ち込めるような情報網の広い商人たちから、市井の価格の変動や、遠くの地の情勢を聞き出すための関係性を維持するためでもあり。
己自身がより貴族らしく、洗練された所作を身に着ける練習のためでもあり。
有望な商人たちが貴族と付き合うための基礎教養を積むためでもあり。
顔役を担っているアルバートが仲介に入っているのも、そう言った理由からである。
経験豊かな老練の商人であり、色んな商人と広い付き合いがある彼だからこそ、この夜会を上手に立ち上げて、今までとりなすことができた。
我が儘で世間知らずの令嬢の思い付き――それがいつしか、芸術についての基礎教養を領内の商人たちに施す貴重な場になり替わっていた。
中心に居続けたパーシファエ嬢もまた、非常に洗練されていった。
(芸術について熱を入れあげるなんて、不良娘だと思われたでしょうね。家政を取り仕切れない女が、立派な貴族様に娶ってもらえるはずがないもの)
貴婦人の嗜みといえば、家事の基本、刺繍、典礼語(※公用語ではない上流階級や司祭階級が利用する言語)の読み書き、詩作である。
領地経営を行う封建貴族にとって婦人の仕事は、館の使用人たちに掃除、洗濯、子育て、刺繍、機織り等の仕事を指示し、時に行政の手助けを行うこと。家事の基本や典礼語の勉強はそのために必要になる。
それらを疎かにし、芸術に入れあげるパーシファエ嬢は、領地経営を継承するにふさわしくないと思われた。
だがしかし、夜会の試みはミュノス家にとって有用であるとも認められた。
教養の深さは、時に上流階級の貴族の胸を打つ。
ミュノス家から公文書を出したり、貴族と私文書を取り交わすとき、小洒落た表現を考えるのにパーシファエ嬢はちょくちょく駆り出されていた。
パーシファエ嬢のことを芸術倒れだと揶揄するものもいたが、それは彼女の英邁さを知らぬが故のこと。
領内の商人たちと広い関係を持つ彼女は、巷の情報に耳敏くなっていた。
(領地継承権を長子と争うにも不向きで、結婚外交にも向かない不良娘、されどミュノス家にとっては有用。私にとってほぼ望み通りの展開よね)
こうなるとほとんど結婚は諦めたも同然なので、都合のいい金持ちの商人でも捕まえて穏やかに生きられたら上々である。欲を言えば、芸術趣味を満たしてくれる若い商人が良いが、そこまでは求めない。
ともあれ、パーシファエ嬢の夜会は、交易都市として君臨するミュノス・アノールの領内の商人たちにとっても一種のステイタスになっていた。
色んな物が行き来する交易都市であるからこそ、芸術に一定の理解があるということが力になっていた。
いうなれば、彼女の夜会はすでに品評会のようになっていたのだ。
このミュノスの都市において、パーシファエ嬢に認められた商人――。
そのお墨付きを求める熱意ある商人たちがいて、中心に立つ聡明な少女がいて、この夜会は成り立っていた。
今日までは。
(……これが、蛍手、ですって?)
令嬢は、常に芸術について広く深い知識を持つことを求められる。
商人たちには手厳しく、しかし芸術を啓蒙する存在であり続ける必要がある。
ぽっと出の一介の商人に好き放題されるようでは、夜会の品位が問われるのだ。
だがしかし――。
(透かし彫のせいで、焼成時にひび割れや歪みが生じやすい蛍手を……これほどの白磁に仕上げた、ということ?)
これもまた、青みを取り除いた白い磁器。
そして点描画を想起させるほどに精巧で規則正しい透かし彫り。
げに恐ろしきは人の業。
理解を超えた業物を目の前にして、パーシファエ嬢の心臓は大きく高鳴った。
―――――
Q.花瓶じゃなかったんですか?
A.こっちの方が面白そうだったので変えました!
業物という単語の使い方が違う気がしますが、一旦これで行きます。言葉遊びなので、校正が入ったら直すかもです。
今回の<光盤>の元ネタは、新里明士さんの蛍手<光器>です。とてもきれいなので是非調べてみてください。
ゾーヤから品物を受け取った俺は、多少勿体をつけて目の前にそれをお出しした。
気分は高級レストランの給仕係である。どんな風に驚いてくれるのか今から楽しみである。もしかすると貴賓の方々に今日のフルコースの主菜の一品を渡す時、給仕係たちも皆、こんな感じの気持ちになっているのかもしれない。
(どちらかというとデザートなんだけどね、俺が選んだものは)
最後に選んだ布は、例によってシフォン生地である。
薄く透ける生地を何層にも重ねて、一体今から何が出てくるのかと期待感を高めるためにそうさせてもらった。
分かりやすい絹の10匁。絹特有の上品な光沢と、透け感のある繊細な薄さを両立させている。6匁よりも厚手の10匁にすることで透け感がやや落ちるものの、しなやかで柔らかな風合いであることに変わりはない。
また、強撚糸のジョーゼット(いわゆるシフォンジョーゼット生地)でもあるので、さらさらした手触りになっている。
いわゆる『丹後ちりめん』に近い生地である。『丹後ちりめん』そのものにしなかった理由は、いつか西陣織の丹後ちりめんで度肝を抜いてやるつもりだから温存しただけだが――。
今回は、毛足の長いふわりとした天鵞絨、模様の凹凸のある西陣織、さらりとしたシフォン生地と、三つとも触って楽しい布にしたつもりである。同じ生地では芸がない。
「……これね、天使の羽衣だの言われているものは。合点がいったわ」
「天使の羽衣?」
アルバート氏にちらと目を向けると、彼は静かに頷いていた。
昔に売り卸した、シフォン生地のシュミーズのことだろう。あれはあれで、しゃり感が強い面白い生地だと思うが――。
「あれはもっと砂のような、亜麻のような、不思議な手障りだったと思うけれど……こんなにさらさらした手触りにもできるのね……」
令嬢はやや躊躇ったように手元を遊ばせていた。
「……一つ聞くわ。馬鹿な質問だと思って結構よ」
「? 御随意に」
「……、く」
く?
何を言うのか分からないが、言葉がそこで途切れた。
顔を赤らめた令嬢が、何か意を決したようにようやく言葉を紡ぎ出す。
「……く、どいて、ないわよね……?」
「ないです」
「はい馬鹿な質問! お馬鹿! もう嫌!」
一人で令嬢が騒ぎ出した。
何のことだと一瞬呆けたが、後ろからゾーヤがこっそり補足を入れてくれた。
「(……ここまで破格な貢ぎ物、常識に当てはめると、婚姻の申し入れぐらいしか考えられないからな。これほどの上物を用意できるかは別として、平民が貴族令嬢を口説くとなると、かなりの結納品が必要になる)」
「(……あー、そういう)」
じゃあもしかしてあの令嬢は、ひょっとするとこれは情熱的な求婚なんじゃないかと心のどこかで考えていたのかもしれない。ずっと。
それは何というか……可哀そうなことをしてしまった。
見たところまだ少女なので、少しませた考えだとも思うが――俺みたいな平々凡々な男に捕まってしまうと不幸になると思うので、そこはきちんとした身なりのちゃんとした貴族男性を捕まえて幸せになってほしいところである。
俺なんかに絆されたら、泣きを見ると思うが。
「(……確かに主殿の伴侶は苦労するだろうな。何をしでかすか分かったものではない)」
「(うるせえ)」
ゾーヤが半分苦笑のようなよく分からない表情をしていたが、どういう感情なのだろうか。
ともあれ今や場は収集が付かなくなっている。令嬢は顔を真っ赤にして「違うの! 違うから!」と必死に力説しているが、周囲の阿呆な商人たちは「後二年もすればこの男の気持ちも変わりましょうよ、お嬢様は大変美しい」などと何をどう慰めているのか分からぬ世迷言を吐いている。
このままだと色々まずそうである。
「ではお披露目に移りますね」
「あっ」
令嬢の手を取って無理やり開かせた。ちょっと手が汗ばんでいるのが分かった。何というか、彼女にはちゃんとした人を見つけてちゃんとした恋をしてほしい。
絹の薄く透けるシフォン生地から現れたのは、小さな白磁の器だった。
細かな蛍手の施された意匠。光を透かすシフォン生地とはこれ以上ない組み合わせだった。
「白磁 蛍手 小鉢<光盤>です」
◇◇◇
パーシファエ嬢は生まれついて、領地継承権をほぼ持たない少女であった。
嫡流の血統ではあるものの、四女という生まれでは下から数えたほうが早いぐらいで、この都市ミュノス・アノールの統治を引き継ぐのは長兄だとほぼ決まっていたようなものだった。
良からぬことを企てる家臣がいて、年端もないパーシファエを担ぎ上げて政治の神輿にしようとしたこともあった。だがそれらは悉く粛清された。
パーシファエは幼い頃から、野心を抱くことの愚かさを目の当たりにしてきた。
(この都市の繁栄こそが我が喜び。栄華をこの街にもたらすことが、我がミュノスの血族の使命)
利口な彼女は、この街の発展のために己の立場を活かすことにした。
商業と芸術の更なる躍進。即ち、交易都市としてのミュノス・アノールの地位向上である。
荘園迷宮を自前で保持しているこの都市ミュノス・アノールは、迷宮出土品を輸出することができる恵まれた領土である。そして活発な交易により、少なくない金貨が街に落ちた。経済状況は近隣の都市と比較しても良好であった。
下手なことをせず、現状を維持するのが最も良い――そう思われていた。
(中央宮廷の法衣貴族たちから、『芸術を理解しない田舎者』と思われ続けるのはミュノスの名折れ。せっかく領地経営が上手くいっているのだから、より権力を持つ貴族と婚姻関係を結んだりして縁戚になって、土台を固めに行かなくては)
この時代、領地の発展を狙う方法はいくつかあった。
兵力を高めて近隣の領地に侵攻をかけるか、商業に力を入れて経済的に豊かになるか、外交に力を入れて味方を増やすか。
定期的に夜会を開き、街の商人たちや有力者たちと芸術について語らっているのは、商業と外交の一端である。
ミュノス家は広く芸術に精通しており、決して田舎のもの知らずではない――と主張するためでもあり。
遠い地から工芸品を持ち込めるような情報網の広い商人たちから、市井の価格の変動や、遠くの地の情勢を聞き出すための関係性を維持するためでもあり。
己自身がより貴族らしく、洗練された所作を身に着ける練習のためでもあり。
有望な商人たちが貴族と付き合うための基礎教養を積むためでもあり。
顔役を担っているアルバートが仲介に入っているのも、そう言った理由からである。
経験豊かな老練の商人であり、色んな商人と広い付き合いがある彼だからこそ、この夜会を上手に立ち上げて、今までとりなすことができた。
我が儘で世間知らずの令嬢の思い付き――それがいつしか、芸術についての基礎教養を領内の商人たちに施す貴重な場になり替わっていた。
中心に居続けたパーシファエ嬢もまた、非常に洗練されていった。
(芸術について熱を入れあげるなんて、不良娘だと思われたでしょうね。家政を取り仕切れない女が、立派な貴族様に娶ってもらえるはずがないもの)
貴婦人の嗜みといえば、家事の基本、刺繍、典礼語(※公用語ではない上流階級や司祭階級が利用する言語)の読み書き、詩作である。
領地経営を行う封建貴族にとって婦人の仕事は、館の使用人たちに掃除、洗濯、子育て、刺繍、機織り等の仕事を指示し、時に行政の手助けを行うこと。家事の基本や典礼語の勉強はそのために必要になる。
それらを疎かにし、芸術に入れあげるパーシファエ嬢は、領地経営を継承するにふさわしくないと思われた。
だがしかし、夜会の試みはミュノス家にとって有用であるとも認められた。
教養の深さは、時に上流階級の貴族の胸を打つ。
ミュノス家から公文書を出したり、貴族と私文書を取り交わすとき、小洒落た表現を考えるのにパーシファエ嬢はちょくちょく駆り出されていた。
パーシファエ嬢のことを芸術倒れだと揶揄するものもいたが、それは彼女の英邁さを知らぬが故のこと。
領内の商人たちと広い関係を持つ彼女は、巷の情報に耳敏くなっていた。
(領地継承権を長子と争うにも不向きで、結婚外交にも向かない不良娘、されどミュノス家にとっては有用。私にとってほぼ望み通りの展開よね)
こうなるとほとんど結婚は諦めたも同然なので、都合のいい金持ちの商人でも捕まえて穏やかに生きられたら上々である。欲を言えば、芸術趣味を満たしてくれる若い商人が良いが、そこまでは求めない。
ともあれ、パーシファエ嬢の夜会は、交易都市として君臨するミュノス・アノールの領内の商人たちにとっても一種のステイタスになっていた。
色んな物が行き来する交易都市であるからこそ、芸術に一定の理解があるということが力になっていた。
いうなれば、彼女の夜会はすでに品評会のようになっていたのだ。
このミュノスの都市において、パーシファエ嬢に認められた商人――。
そのお墨付きを求める熱意ある商人たちがいて、中心に立つ聡明な少女がいて、この夜会は成り立っていた。
今日までは。
(……これが、蛍手、ですって?)
令嬢は、常に芸術について広く深い知識を持つことを求められる。
商人たちには手厳しく、しかし芸術を啓蒙する存在であり続ける必要がある。
ぽっと出の一介の商人に好き放題されるようでは、夜会の品位が問われるのだ。
だがしかし――。
(透かし彫のせいで、焼成時にひび割れや歪みが生じやすい蛍手を……これほどの白磁に仕上げた、ということ?)
これもまた、青みを取り除いた白い磁器。
そして点描画を想起させるほどに精巧で規則正しい透かし彫り。
げに恐ろしきは人の業。
理解を超えた業物を目の前にして、パーシファエ嬢の心臓は大きく高鳴った。
―――――
Q.花瓶じゃなかったんですか?
A.こっちの方が面白そうだったので変えました!
業物という単語の使い方が違う気がしますが、一旦これで行きます。言葉遊びなので、校正が入ったら直すかもです。
今回の<光盤>の元ネタは、新里明士さんの蛍手<光器>です。とてもきれいなので是非調べてみてください。
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