異世界往来の行商生活《キャラバンライフ》:工業品と芸術品でゆるく生きていくだけの話

RichardRoe(リチャード ロウ)

文字の大きさ
上 下
38 / 60

第38話 現代商売その7:イヤリング作り

しおりを挟む
「イヤリングって結構いい感じの値段で売れるんだね、知らなかったや」

 俺がいつものように大手物販ECサイト『メリクル』『minna』に出品をしていると、パルカが背中から覗き込んで無邪気に尋ねてきた。
 確かにこれらECサイトの中でも、パルカのハンドメイド品は評判が良く、売れ筋の商品になっている。
 だがそれよりも――。

「パルカお前、文字が読めるのか?」
「? 全然? 数字だけは何度も見てるからちょっと分かるけどねー」

 一瞬度肝を抜かれた俺だが、パルカの返事を聞いて半分納得した。
 確かに、数字は毎日のように見せているから分かってもおかしくない。アラビア数字で十進法なんて、法則が分かってしまえば一発で読めてしまうだろう。
 すわ日本語を解読されてしまったか、と冷や汗をかいたが、流石にそんなことはなかったようである。

「ほほー、キャンドルも結構売れてますなあ。ご主人様のお役に立ってるみたいで何より何より」

 自分の稼ぎを横目で見ながら、パルカはすっかりご満悦になっていた。

 この頃パルカはうちの稼ぎ頭になっていた。
 例えばアロマオイルのキャンドルを作らせたら、色味のバランスも絶妙で、ひときわ綺麗なキャンドルをあっさりと作ってくれたりする。
 これが一万円近い値段で売れたりするのだ。二十個、三十個と売れたらそれだけで十分な食い扶持になってくれる。

 キャンドルだけではない。まだまだパルカの手掛けるハンドメイド品はたくさんある。
 例えばイヤリングづくりにも、彼女の才能は忌憚なく発揮されている。

 イヤリングを作ろうと思ったとき、そんなにたくさんの道具は必要ない。
 ・ニッパー
 ・ペンチ
 ・ヤットコばさみ
 ・丸カン
 ・100均のチャーム
 ・イヤリングの土台
 ・グルーガン
 等。

 やることも難しくない。
 イヤリングの土台にチャームやら何やらをグルーガンでくっつけて、丸カンとペンチでつないだりしたら、それだけで簡単なイヤリングになる。

 ここに追加で、異世界イルミンスールで拾った綺麗な花びらをレジンで固めたり、不思議な模様の貝殻、薄く透き通る昆虫の羽、屑魔石などの綺麗な小物を使えば、結構綺麗な感じに仕上がる。

 綺麗な小物の調達もさほど難しくはない。
 街にいるちびっ子を捕まえて「何かキラキラした綺麗なものを持ってきたらお金をあげよう」とお小遣いを与えればそれで十分。
 天然石なんかも付ければ、それだけで見栄えも良くなる。

(イヤリングに天然石は最強の組み合わせだよな。それだけで検索してもらいやすくなるし単価も高くできる)

 イヤリングづくりのコツは、安いものを大量に作るというより、原価が高くなってもいいからいい材料を使うことに尽きる。
 理由はシンプルで、イヤリングを検索する人は「イヤリング シルバー」とか「イヤリング ラピスラズリ」など、素材にこだわって検索する人が多いからである。

 はっきり言って、高い値段を設定しようが安い値段を設定しようが、まずは人に検索して見つけてもらわなければ意味がない。安くすれば売れるという世界ではないのだ。

 シルバーの金具を使ったり、ラピスラズリ等の天然石を使うのは、そういった検索キーワードに引っかかりやすくするためであり、導線の確保のためなのだ。
 身に着ける小物には、誕生石やパワーストーンを使いたくなるというのが人情というもの。いわばゲン担ぎというわけだ。イヤリングにしても、同じぐらい綺麗で可愛いものを見かけたとして、どうせなら少しでも幸せをもたらしてくれそうな天然石のものをつい選びたくなる……という消費者心理がある。

 なので、ラピスラズリだとかガーネットとかアメジストとかをどんどん利用する。
 いまやネットを使えば、天然石はいくらでも簡単に調達できる。

 あとは、うちで一番細かい作業が得意なパルカが、あれやこれやとやってくれるわけだが――。

「わっはっは! 見て見て、ご主人様! フラワーレジン? っていうのかな、すっごく上手くいったよ!」

 見ると、パルカの手元に何かがあった。レジンの中に小さなドライフラワーを閉じ込めた、いわゆるレジンフラワーのイヤリングがそこに出来ていた。
 こういう透き通ったレジンは金細工と相性がいい。パルカの手作りのイヤリングも、レジンを縁取るように細い金のフレームで誂えてあった。

 可愛らしく、主張しすぎず、それでいて目を引く。
 そんないい一品だった。

(こういう小物をあっさり作れてしまうんだもんな。流石、器用な妖精レプラコーンというだけはある)

 物凄く褒めてほしそうな様子だったので、適当に頭をなでておいた。
 雑だぞー、と文句を言われてしまったが、本人は満更でもなさそうである。

こういう細かな作業は集中力が物を言うのだが、パルカはそういう黙々と打ち込める作業がそもそも好きなのか、放っておいてもどんどん作ってくれる。昼夜を問わずである。天職といってもいいかもしれない。

 多分、彼女がいれば食いっぱぐれることはないだろう、などという無責任なことを考えながら、俺は彼女の作ってくれたイヤリングを写真に次々納めていくのだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生エルフによる900年の悠久無双記~30歳で全属性魔法、100歳で古代魔術を習得。残り900年、全部無双!~

榊原モンショー
ファンタジー
木戸 稔《きど・みのる》 享年30。死因:交通事故。 日本人としての俺は自分の生きた証を残すこともなく、あっけなく死んでしまった。 死の間際に、「次はたくさん長生きして、自分の生きた証を残したいなぁ」なんてことを思っていたら――俺は寿命1000年のエルフに転生していた! だからこそ誓った。今度こそ一生を使って生きた証を残せる生き方をしようと。 さっそく俺は20歳で本来エルフに備わる回復魔法の全てを自在に使えるようにした。 そして30歳で全属性魔法を極め、100歳で古代魔術の全術式解読した。 残りの寿命900年は、エルフの森を飛び出して無双するだけだ。 誰かに俺が生きていることを知ってもらうために。 ある時は、いずれ英雄と呼ばれるようになる駆け出し冒険者に懐かれたり。 ある時は、自分の名前を冠した国が建国されていたり。 ある時は、魔法の始祖と呼ばれ、信仰対象になっていたり。 これは生ける伝説としてその名を歴史に轟かしていく、転生エルフの悠々自適な無双譚である。 毎日に18時更新します

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...