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第22話 現代商売その4:仮想通貨マイニング(前半)
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ちなみにキャンドルに目を付けたのは理由がある。
それは、異世界でも売れるんじゃないか、しかも売れたら卸先を複数広げられるんじゃないか――という販売先の拡張性の高さである。
仮説を試すため、一度試しに露店でも売ったことがある。
その時の売れ行きは非常に良好であった。
解説すると、この世界における蝋燭は二種類存在する。それぞれ獣脂を使ったものと蜜蠟のもの。前者の方は炊いたときの匂いがきついため、貴族階級や聖職者に好まれたのはもっぱら後者の蜜蠟のものであったという。
そして、香り付きのキャンドルともなれば、それは高級な嗜好品となる。そもそも、何の香り付けもしていない太めの蜜蠟のキャンドル二本セットが、ワイン一本と同じぐらいの物価と同じぐらいなので、結構な高級品であるといえよう。
これが、香り付きのアロマキャンドルともなるとますます値段が跳ね上がる。
「アロマキャンドルって相場の五倍の値段で売れるのか……凄いな」
異世界の金銭感覚は分かりにくい。だが同じ商品の相場価格と比較するとそのすごさがわかる。
相場の五倍というのも凄いが、これは熟練の石工や職人を五日ぐらい雇える程度の値段になるらしい。キャンドル一本だけでこんな値が付くなんて、現代日本では考えにくいことである。
「でも効率で考えたら……キャンドルを日本で売って、その売り上げで工芸品を買って異世界で売った方がまだ利益が出るんだよな」
冷静に電卓を叩きながら、俺はそうぼやいた。
日本でも、手のかかったキャンドルは一本あたり3,000円~10,000円ぐらいで販売することができる。大手フリマサイト複数に出品した結果、その程度の値段帯でもそれなりに売れることが分かった。
それを考えたら、10万円ぐらいを元手に工芸品を複数買いあさった方が利幅が大きくなる。
異世界で蝋燭作って成り上がる、というのは、ないわけではないがやる旨味が薄いらしい。
「うーん、パルカもやる気になってくれてるのはいいことなんだけど、ちょっと在庫が出来つつあるからな……」
キャンドルは売れている。日本でも売れるし異世界でも売り捌ける。
売れるのだが、簡単かつ大量に作れ過ぎてしまうので、パルカみたいな子がちょっと本気を出してしまったらあっさり何十個も出来上がる。
今、俺の家に大量のキャンドルの在庫が出来ているのは、そういった背景がある。
もちろんキャンドルは腐らないので、在庫が出来てもそんなに困ったものではないのだが――。
「……しばらく動画投稿とかSNS投稿を頑張って、顧客の認知度上げていくかあ」
これもまた修行である。
副業が軌道に乗るまでは、こつこつ地道に営業活動に励まないといけない。幸い、頑張れば頑張るほど結果が出てくるものなので、そこまで気落ちするような話ではなかった。
◇◇◇
実は、現代日本と異世界イルミンスールの間の交易でなんとか使えないかずっと悩んでいるものが一つあった。
しかしそれは簡単に輸出入ができるようなものではなく、そもそも持ち運べるものではなかった。
「季節のずれ……って、どうやって活かせばいいんだろうな」
そう、季節の差。
今まで特段触れる機会がなかったのであえて特筆してなかったが、交易都市ミュノス・アノールと日本の季節は夏冬がおおよそ真逆の関係にあるらしかった。異世界イルミンスールの公転周期や自転周期なども気になるところだが、その辺は一旦無視して暦を見ると、確かに日本の四季と逆の関係になっている。
もっとも、イルミンスールでは四季ではなく、夏冬の二季と中間季という概念になるらしい。
「理想を言うなら三か月ぐらいのずれがよかったな。それなら必ずどちらかの季節が春か秋の気候になるから、寝る時が快適なんだけど」
流石にそれは欲張りすぎであろうか。
暑さ寒さがちょうど真逆だと、快適な中間の気候を探すのに苦労する。
「でもまあ、鏡越しにコンセントを引っ張れることは分かったから、そんなに悲観はしてないけどな」
苦笑する。
鏡越しにコンセントを引っ張れるということはつまり、扇風機やヒーターが運べるということである。異世界情緒はまるでないが、文明の利器の便利さには勝てない。俺はさしづめ、異世界イルミンスールで初めて電化製品をつかった男ということになるだろう。
電工ドラム、というものがある。
コンセントから離れた場所でも電源を確保できる便利な道具であり、よく学校の体育祭だとかで使われるものは防水対応した屋外用電工ドラムである。
これを使って、俺はイルミンスールでも電化製品を利用しているのだった。
とはいっても小屋の中だけであるが。
さすがに現地の人に電化製品を見せるわけにはいかないだろう。
ガソリンの発電機を使うという手もあるが、音もうるさいし値段もかかる。コンセントを使えるならそれに越したことはない。
「やっぱりコンセントがあるのは便利だよな。この世界の王侯貴族でも、こんな快適な生活はできないだろうよ」
ごろんと寝転がってスマホを触る、というただそれだけの行為だが、この世界で同じことをできる人間は他にいるまい。
(……コンセントを使って金儲けできる方法、ぱっと思いつくのはあれしかないかな)
一応、電工ドラムを買ってまでこんなことをしているのには訳がある。
やはり元を正せば、金儲けの一環にはなるのだが――。
メタルラックの上に機材を積み、コンセントをそこまで延長して、環境をしっかりと整える。
そこに搭載されているのは、GNForce BTX 3060Ti。某国の半導体メーカ、NEW-VIDIAの提供するグラフィックボードである。
これが俺にとっての暖房器具の代わり。
――もとい、仮想通貨のマイニング用リグなのであった。
それは、異世界でも売れるんじゃないか、しかも売れたら卸先を複数広げられるんじゃないか――という販売先の拡張性の高さである。
仮説を試すため、一度試しに露店でも売ったことがある。
その時の売れ行きは非常に良好であった。
解説すると、この世界における蝋燭は二種類存在する。それぞれ獣脂を使ったものと蜜蠟のもの。前者の方は炊いたときの匂いがきついため、貴族階級や聖職者に好まれたのはもっぱら後者の蜜蠟のものであったという。
そして、香り付きのキャンドルともなれば、それは高級な嗜好品となる。そもそも、何の香り付けもしていない太めの蜜蠟のキャンドル二本セットが、ワイン一本と同じぐらいの物価と同じぐらいなので、結構な高級品であるといえよう。
これが、香り付きのアロマキャンドルともなるとますます値段が跳ね上がる。
「アロマキャンドルって相場の五倍の値段で売れるのか……凄いな」
異世界の金銭感覚は分かりにくい。だが同じ商品の相場価格と比較するとそのすごさがわかる。
相場の五倍というのも凄いが、これは熟練の石工や職人を五日ぐらい雇える程度の値段になるらしい。キャンドル一本だけでこんな値が付くなんて、現代日本では考えにくいことである。
「でも効率で考えたら……キャンドルを日本で売って、その売り上げで工芸品を買って異世界で売った方がまだ利益が出るんだよな」
冷静に電卓を叩きながら、俺はそうぼやいた。
日本でも、手のかかったキャンドルは一本あたり3,000円~10,000円ぐらいで販売することができる。大手フリマサイト複数に出品した結果、その程度の値段帯でもそれなりに売れることが分かった。
それを考えたら、10万円ぐらいを元手に工芸品を複数買いあさった方が利幅が大きくなる。
異世界で蝋燭作って成り上がる、というのは、ないわけではないがやる旨味が薄いらしい。
「うーん、パルカもやる気になってくれてるのはいいことなんだけど、ちょっと在庫が出来つつあるからな……」
キャンドルは売れている。日本でも売れるし異世界でも売り捌ける。
売れるのだが、簡単かつ大量に作れ過ぎてしまうので、パルカみたいな子がちょっと本気を出してしまったらあっさり何十個も出来上がる。
今、俺の家に大量のキャンドルの在庫が出来ているのは、そういった背景がある。
もちろんキャンドルは腐らないので、在庫が出来てもそんなに困ったものではないのだが――。
「……しばらく動画投稿とかSNS投稿を頑張って、顧客の認知度上げていくかあ」
これもまた修行である。
副業が軌道に乗るまでは、こつこつ地道に営業活動に励まないといけない。幸い、頑張れば頑張るほど結果が出てくるものなので、そこまで気落ちするような話ではなかった。
◇◇◇
実は、現代日本と異世界イルミンスールの間の交易でなんとか使えないかずっと悩んでいるものが一つあった。
しかしそれは簡単に輸出入ができるようなものではなく、そもそも持ち運べるものではなかった。
「季節のずれ……って、どうやって活かせばいいんだろうな」
そう、季節の差。
今まで特段触れる機会がなかったのであえて特筆してなかったが、交易都市ミュノス・アノールと日本の季節は夏冬がおおよそ真逆の関係にあるらしかった。異世界イルミンスールの公転周期や自転周期なども気になるところだが、その辺は一旦無視して暦を見ると、確かに日本の四季と逆の関係になっている。
もっとも、イルミンスールでは四季ではなく、夏冬の二季と中間季という概念になるらしい。
「理想を言うなら三か月ぐらいのずれがよかったな。それなら必ずどちらかの季節が春か秋の気候になるから、寝る時が快適なんだけど」
流石にそれは欲張りすぎであろうか。
暑さ寒さがちょうど真逆だと、快適な中間の気候を探すのに苦労する。
「でもまあ、鏡越しにコンセントを引っ張れることは分かったから、そんなに悲観はしてないけどな」
苦笑する。
鏡越しにコンセントを引っ張れるということはつまり、扇風機やヒーターが運べるということである。異世界情緒はまるでないが、文明の利器の便利さには勝てない。俺はさしづめ、異世界イルミンスールで初めて電化製品をつかった男ということになるだろう。
電工ドラム、というものがある。
コンセントから離れた場所でも電源を確保できる便利な道具であり、よく学校の体育祭だとかで使われるものは防水対応した屋外用電工ドラムである。
これを使って、俺はイルミンスールでも電化製品を利用しているのだった。
とはいっても小屋の中だけであるが。
さすがに現地の人に電化製品を見せるわけにはいかないだろう。
ガソリンの発電機を使うという手もあるが、音もうるさいし値段もかかる。コンセントを使えるならそれに越したことはない。
「やっぱりコンセントがあるのは便利だよな。この世界の王侯貴族でも、こんな快適な生活はできないだろうよ」
ごろんと寝転がってスマホを触る、というただそれだけの行為だが、この世界で同じことをできる人間は他にいるまい。
(……コンセントを使って金儲けできる方法、ぱっと思いつくのはあれしかないかな)
一応、電工ドラムを買ってまでこんなことをしているのには訳がある。
やはり元を正せば、金儲けの一環にはなるのだが――。
メタルラックの上に機材を積み、コンセントをそこまで延長して、環境をしっかりと整える。
そこに搭載されているのは、GNForce BTX 3060Ti。某国の半導体メーカ、NEW-VIDIAの提供するグラフィックボードである。
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