19 / 60
第19話 魔道具収集の進捗(現在七つ)
しおりを挟む
《魂の器》が十分育っていない人間が加護付きの道具を複数同時に装備すると、魂に負担がかかると言われている――。
確かに以前ゾーヤからそんなことを聞いた俺だが、実際のところ、その影響があるのかどうかは試していない。
遠見の加護の首飾り。快眠の指輪。匂いくらましの指輪。深呼吸の指輪。
思い返せば結構、加護付きの魔道具が集まってきた気がする。それもこれも全部、アルバート氏が取り寄せてくれた一級の品である。
他にも実は、砂糖と胡椒の露店販売を通じて、魔道具との物々交換を何回か引き受けたことがあった。
冒険者ギルドの査定員の鑑定書付きなので、効果のほどは保証されている。
身体が柔軟になるという、柔軟の加護の耳飾り。
暗い場所も見やすくなる、暗視の加護の首飾り。
匂いをより敏感に感じられる、鼻利きの加護の指輪。
これで、俺の手元にある加護付きの道具は、遠見の加護の首飾り、快眠の指輪、匂いくらましの指輪、深呼吸の指輪、柔軟の加護の耳飾り、暗視の加護の首飾り、鼻利きの加護の指輪、の七つになった。
遠見の加護の首飾り、快眠の指輪を除くと、どれも便利なのかどうなのかよく分からない。
正直現代社会を生きていると、暗いところが見えたり、匂いに敏感になったところでなあ、という気持ちしか湧かない。
湧かないがまあ、損しているわけではない。加護の効果が微妙なだけだ。
(何というか、取り揃えた品を見ると、暗殺者とかが使うのにぴったりな気がするけど。匂いを消して、暗い場所を遠く見通して、柔軟な身体で狭い場所に隠れて、息を止めて行動して……みたいな)
流石に考え過ぎだろうか。
上手な活用方法を思いつかない俺だったが、まあ、強盗とか暗殺とかそんな方向には使いたくはない。使うにしても護身の方向がいい。異世界で暗殺稼業始めました、なんて危険な橋は渡りたくない。
いずれにせよ、無いよりはあった方がまし、という効果が多かったので、普段から装備をつけっぱなしにしても問題はないはずである。
「……あ、主殿、大丈夫か……?」
「? まあ、特に何もないな」
試しに全部の魔道具を同時に装備してみたが、俺は全然何ともなかった。頭痛もなければ倦怠感もない。
これには流石にゾーヤも目を剥いていた。
「そんなに装備しすぎると、その、気を失うこともあるのだぞ……? やせ我慢ではなかろうな?」
「うーん……まあ、実感がないだけで、もしかしたら身体のどこかに負担がかかっているのかもしれないが……」
分からない。
日本人含む黄色人種は白色人種と比べてカフェインに強い、みたいなものに近い話だろうか。だがあれは有名なデマだった気がする。
そもそも、現代日本人は魔道具に強い人種なんです――なんてどう研究すれば実証できるのかわからない。俺がたまたま魔道具に強い体質なのかもしれない。
俺が頭を悩ませていると、パルカとアルルがちょっと残念そうにしていた。
「せっかくご主人様が普人族のオスっぽい芳醇な匂いだったのに」
「ですねぇ~」
「なんて?」
オス? 芳醇な匂い?
完全に話の迷子になった俺は、ちょっと困ってゾーヤに目で助けを求めた。
ゾーヤはうっ、と言葉に詰まって照れていた。
何だこれ。
「自覚がなかったのか……?」
「ない。教えてくれ」
「………………」
口元をもにょもにょさせている。じれったい。
良いから早く教えてほしい。
「その、普人族はだな、亜人族から見るとだな、ずっと発情期の匂いをさせている、風変わりな連中というように見えるんだ……」
「はあ」
そういえば、確かホモ・サピエンスは年がら年中発情期って聞いたことがある。
人間は、季節性の発情期がない哺乳類という特徴をもっており、それは確かに他の動物から見たらすごく変に見えるだろう。
なるほど。
「……あと、鼻が鈍いからか、その、異性を惹きつける匂いが、他の種族より強めというか、えっと」
「そうかそうか要するに毎日朝と晩の二回シャワー浴びればいいってことだな分かったよありがとう」
「ああいや別に悪いとかではなくてだなっ」
三人から悲鳴が上がった。
同時に、俺の心の中で、匂いくらましの指輪の利便性が上がった。
異世界でまさかそんな価値観の差があるとは気づかなかった。というかゾーヤから教えてもらってない。
もしかしてこいつらこっそり匂いを堪能してたのかよ、という疑いが生じたが、追求すべきかやめておくべきか。
「え、じゃあ街中歩いているときに、冒険者のお姉さんとかと『今度一緒にお酒飲もうよー』とかたまに誘われてたのって、もしかしてそういうこと!?」
「…………まあ、その」
観念したようにゾーヤは声を絞り出した。
雨に濡れた小犬みたいな声だった。
訊くところによると、どうやら俺は『酒の勢いに任せて押したら絶対ワンチャンある』と亜人族が誤解するぐらい濃厚な匂いを漂わせていたらしい。
最悪だった。
聞きたくなかった。
「もっと魔道具を集めよう、護身術も習おう、何というか身の危険があるってわかった」
全然予想してない方向ではあったが、異世界はやはり恐ろしいものである。無知は怖いというべきか。ともあれ、護衛にゾーヤを雇っておいて本当に良かった。
――結論、三人娘の抗議も虚しく、匂いくらましの指輪はほぼずっとつけることになった。可哀想だと思ってはいけない。裏返すと、それだけ異性を執着させてしまう危険性を孕んでいるという何よりの証拠なのだから。
確かに以前ゾーヤからそんなことを聞いた俺だが、実際のところ、その影響があるのかどうかは試していない。
遠見の加護の首飾り。快眠の指輪。匂いくらましの指輪。深呼吸の指輪。
思い返せば結構、加護付きの魔道具が集まってきた気がする。それもこれも全部、アルバート氏が取り寄せてくれた一級の品である。
他にも実は、砂糖と胡椒の露店販売を通じて、魔道具との物々交換を何回か引き受けたことがあった。
冒険者ギルドの査定員の鑑定書付きなので、効果のほどは保証されている。
身体が柔軟になるという、柔軟の加護の耳飾り。
暗い場所も見やすくなる、暗視の加護の首飾り。
匂いをより敏感に感じられる、鼻利きの加護の指輪。
これで、俺の手元にある加護付きの道具は、遠見の加護の首飾り、快眠の指輪、匂いくらましの指輪、深呼吸の指輪、柔軟の加護の耳飾り、暗視の加護の首飾り、鼻利きの加護の指輪、の七つになった。
遠見の加護の首飾り、快眠の指輪を除くと、どれも便利なのかどうなのかよく分からない。
正直現代社会を生きていると、暗いところが見えたり、匂いに敏感になったところでなあ、という気持ちしか湧かない。
湧かないがまあ、損しているわけではない。加護の効果が微妙なだけだ。
(何というか、取り揃えた品を見ると、暗殺者とかが使うのにぴったりな気がするけど。匂いを消して、暗い場所を遠く見通して、柔軟な身体で狭い場所に隠れて、息を止めて行動して……みたいな)
流石に考え過ぎだろうか。
上手な活用方法を思いつかない俺だったが、まあ、強盗とか暗殺とかそんな方向には使いたくはない。使うにしても護身の方向がいい。異世界で暗殺稼業始めました、なんて危険な橋は渡りたくない。
いずれにせよ、無いよりはあった方がまし、という効果が多かったので、普段から装備をつけっぱなしにしても問題はないはずである。
「……あ、主殿、大丈夫か……?」
「? まあ、特に何もないな」
試しに全部の魔道具を同時に装備してみたが、俺は全然何ともなかった。頭痛もなければ倦怠感もない。
これには流石にゾーヤも目を剥いていた。
「そんなに装備しすぎると、その、気を失うこともあるのだぞ……? やせ我慢ではなかろうな?」
「うーん……まあ、実感がないだけで、もしかしたら身体のどこかに負担がかかっているのかもしれないが……」
分からない。
日本人含む黄色人種は白色人種と比べてカフェインに強い、みたいなものに近い話だろうか。だがあれは有名なデマだった気がする。
そもそも、現代日本人は魔道具に強い人種なんです――なんてどう研究すれば実証できるのかわからない。俺がたまたま魔道具に強い体質なのかもしれない。
俺が頭を悩ませていると、パルカとアルルがちょっと残念そうにしていた。
「せっかくご主人様が普人族のオスっぽい芳醇な匂いだったのに」
「ですねぇ~」
「なんて?」
オス? 芳醇な匂い?
完全に話の迷子になった俺は、ちょっと困ってゾーヤに目で助けを求めた。
ゾーヤはうっ、と言葉に詰まって照れていた。
何だこれ。
「自覚がなかったのか……?」
「ない。教えてくれ」
「………………」
口元をもにょもにょさせている。じれったい。
良いから早く教えてほしい。
「その、普人族はだな、亜人族から見るとだな、ずっと発情期の匂いをさせている、風変わりな連中というように見えるんだ……」
「はあ」
そういえば、確かホモ・サピエンスは年がら年中発情期って聞いたことがある。
人間は、季節性の発情期がない哺乳類という特徴をもっており、それは確かに他の動物から見たらすごく変に見えるだろう。
なるほど。
「……あと、鼻が鈍いからか、その、異性を惹きつける匂いが、他の種族より強めというか、えっと」
「そうかそうか要するに毎日朝と晩の二回シャワー浴びればいいってことだな分かったよありがとう」
「ああいや別に悪いとかではなくてだなっ」
三人から悲鳴が上がった。
同時に、俺の心の中で、匂いくらましの指輪の利便性が上がった。
異世界でまさかそんな価値観の差があるとは気づかなかった。というかゾーヤから教えてもらってない。
もしかしてこいつらこっそり匂いを堪能してたのかよ、という疑いが生じたが、追求すべきかやめておくべきか。
「え、じゃあ街中歩いているときに、冒険者のお姉さんとかと『今度一緒にお酒飲もうよー』とかたまに誘われてたのって、もしかしてそういうこと!?」
「…………まあ、その」
観念したようにゾーヤは声を絞り出した。
雨に濡れた小犬みたいな声だった。
訊くところによると、どうやら俺は『酒の勢いに任せて押したら絶対ワンチャンある』と亜人族が誤解するぐらい濃厚な匂いを漂わせていたらしい。
最悪だった。
聞きたくなかった。
「もっと魔道具を集めよう、護身術も習おう、何というか身の危険があるってわかった」
全然予想してない方向ではあったが、異世界はやはり恐ろしいものである。無知は怖いというべきか。ともあれ、護衛にゾーヤを雇っておいて本当に良かった。
――結論、三人娘の抗議も虚しく、匂いくらましの指輪はほぼずっとつけることになった。可哀想だと思ってはいけない。裏返すと、それだけ異性を執着させてしまう危険性を孕んでいるという何よりの証拠なのだから。
246
お気に入りに追加
701
あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生エルフによる900年の悠久無双記~30歳で全属性魔法、100歳で古代魔術を習得。残り900年、全部無双!~
榊原モンショー
ファンタジー
木戸 稔《きど・みのる》 享年30。死因:交通事故。
日本人としての俺は自分の生きた証を残すこともなく、あっけなく死んでしまった。
死の間際に、「次はたくさん長生きして、自分の生きた証を残したいなぁ」なんてことを思っていたら――俺は寿命1000年のエルフに転生していた!
だからこそ誓った。今度こそ一生を使って生きた証を残せる生き方をしようと。
さっそく俺は20歳で本来エルフに備わる回復魔法の全てを自在に使えるようにした。
そして30歳で全属性魔法を極め、100歳で古代魔術の全術式解読した。
残りの寿命900年は、エルフの森を飛び出して無双するだけだ。
誰かに俺が生きていることを知ってもらうために。
ある時は、いずれ英雄と呼ばれるようになる駆け出し冒険者に懐かれたり。
ある時は、自分の名前を冠した国が建国されていたり。
ある時は、魔法の始祖と呼ばれ、信仰対象になっていたり。
これは生ける伝説としてその名を歴史に轟かしていく、転生エルフの悠々自適な無双譚である。
毎日に18時更新します
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる