異世界往来の行商生活《キャラバンライフ》:工業品と芸術品でゆるく生きていくだけの話

RichardRoe(リチャード ロウ)

文字の大きさ
上 下
15 / 60

第15話 快眠の指輪、あるいは魔道具について

しおりを挟む
 遠見の加護の首飾り。
 快眠の指輪。

 異世界と日本の間を往来するようになってから、少しずつではあるが、加護付きの便利な装飾品が増えてきた。つけているだけで効果があるのが素晴らしい。もっと欲しいぐらいである。いくらあっても困ることはないだろう。
 現代でもこれに並ぶ代用品は見当たらないので、魔道具については異世界のほうが先進的であると言えよう。

 こんなに便利なものなのだから、この世界の王族や貴族はさぞかしたくさんの装飾品をつけていることであろう――と思ったが、ゾーヤ曰く違うらしい。

「加護付きの道具を使うにも、《魂の器》が必要だ。そうむやみやたらと装備を重ねることはできないものだ」
「たましいのうつわ……?」

 また知らない言葉が出てきた。
 魔物といい、迷宮といい、いかにも幻想世界ファンタジーな感じの響きのする単語である。

「ああ。その生物の内なる力と言ってもいい。《魂の器》が育てば育つほど、その生物は若々しく活力を維持できる他、大きな魔力を練られる」
「ふーん、レベルみたいなものかなあ」
「れべる……?」

 概念的な説明だったが、要はロールプレイングゲーム等におけるレベルのようなものだと俺は理解した。《魂の器》が育てば育つほど強くなる、ぐらいの雑な理解でも概ね問題なさそうであった。

主殿あるじどのは魔道具を身に着けていても疲れないのか?」
「うーん……特に感じないけど」
「そうか……。まだ二つぐらいだから問題ないかもしれないが……」

 口元に手をやりながらゾーヤは考え込んだ。彼女に聞いた所、あまり《魂の器》が育ってない人であれば、魔道具を二個ほど装備した辺りで、頭が痛くなってきたり、息苦しくなってきたり、身体がだるくなってくるらしい。
 そういう意味だと、俺は特に何ともなってない。もしかすると自分では気付いてないだけで、俺は非常に《魂の器》が大きいのかもしれない。

「普通、人が装備できる魔道具の数には限りがあるのだ。もしこれが無制限にあれもこれも付けられるものなら、みんなこぞって魔道具を買い集めるだろうから、より価値の高いものになっているだろう」

 とどのつまり、俺は得しているらしい。
 正直、まだまだ魔道具を付けられそうな気がする。

「……。ありとあらゆる魔道具を身に付けた暁には、ひょっとすると、主殿あるじどのは……」

 何を考えてるのか分からないが、ゾーヤは真面目な顔になって黙り込んでしまった。





 ◇◇◇





「えっ凄い! 本当にめちゃくちゃぐっすり眠れたし身体の調子がいい!」

 切ない話だが、歳を取ると本当にぐっすり眠れることが少なくなる。俺はまだ三十歳になってないぐらいだが、十年前のはしゃぎ回っていた頃を思うと全然眠れなくなっていた。

 指輪は劇的な効果をもたらした。朝がだるくないのだ。
 久しぶりの爽やかな目覚め。俺は心の底から歓喜した。

(これは凄いな! あの瞬間はアルバート氏に丸め込まれたかもと思ったが、こんな快適な目覚めができるなら、ちょっとやそっとの端金なんか惜しくないな)

 しかも後で気づいたことだが、この指輪をつけて仮眠を取ったら、疲れが吹き飛んでいるのだ。
 先程、ちょっと動画編集作業に疲れたからと昼に三十分昼寝をしたら、そのあとすっかり全快して集中力も復活していた。その後、胡椒と砂糖の荷運びやら動画撮影やら料理やらをして疲れても、再び仮眠を取ったらすっきりして元気になっていた。
 これで人の何倍も働くことができる――。

(うん? 働かずに楽するつもりだったんだけどな?)

 何だか釈然としないものを一瞬感じたが、俺は一旦それを忘れることにした。
 そう、俺はあくまで、楽をするために頑張っているはずなのだが――。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生エルフによる900年の悠久無双記~30歳で全属性魔法、100歳で古代魔術を習得。残り900年、全部無双!~

榊原モンショー
ファンタジー
木戸 稔《きど・みのる》 享年30。死因:交通事故。 日本人としての俺は自分の生きた証を残すこともなく、あっけなく死んでしまった。 死の間際に、「次はたくさん長生きして、自分の生きた証を残したいなぁ」なんてことを思っていたら――俺は寿命1000年のエルフに転生していた! だからこそ誓った。今度こそ一生を使って生きた証を残せる生き方をしようと。 さっそく俺は20歳で本来エルフに備わる回復魔法の全てを自在に使えるようにした。 そして30歳で全属性魔法を極め、100歳で古代魔術の全術式解読した。 残りの寿命900年は、エルフの森を飛び出して無双するだけだ。 誰かに俺が生きていることを知ってもらうために。 ある時は、いずれ英雄と呼ばれるようになる駆け出し冒険者に懐かれたり。 ある時は、自分の名前を冠した国が建国されていたり。 ある時は、魔法の始祖と呼ばれ、信仰対象になっていたり。 これは生ける伝説としてその名を歴史に轟かしていく、転生エルフの悠々自適な無双譚である。 毎日に18時更新します

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...