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August
02
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「会長って高等部全生徒の名前暗記とかしてます?」
「してるわけないじゃん」
病院からの帰り道。
会長から丁度生徒会の仕事を手伝って欲しいというメッセージが来ていて俺は会長の部屋に着くなりそう尋ねたが、画面から目を離すことも無く即答されて思わず眉を顰める。
別に暗記してないことに関しては何も思わない。
でも本気で聞いた俺が可笑しいような反応をされたのがどうも納得出来なかった。
いつもの超人っぷりを自分自身で思い返してみて欲しい。
「何、誰か探してるの?」
「藤田って苗字の人探してて」
「藤田ね」
そんな不満げな心情を察したのか、珍しく少し協力する気のある様子の会長は軽やかにキーボードを叩く。
どうやら全校生徒のデータから探してくれている様子で後ろから覗いて見てみると予想通り藤田という苗字の人間はこの学園にもそこそこいる様で画面には数名の名前が並んでいる。
「…12人か」
「藤田とやらの下の名前は?」
「それが下の名前は分かんなくて…その中で顔が良い人が分かればいいな~…なんて…」
流石にそれは無理かと思ったが、会長は悩む素振りもなく親衛隊持ちの人物を探してリストアップしてくれた。
過去一でこの人の仕事手伝っててよかったと感じた瞬間である。まじで頼もしい。
「3人だね。その中の人の1人は要」
「3人…」
2人くらいには絞れるかと思ったが、そう甘くはない。
この学園無駄に顔良い人多いから仕方ないが、顔でも見たら分かるだろうかなんて思っている矢先、「生徒手帳の写真データならあるけど見る?」とフォルダを開きはじめる。
「会長…まじでいい仕事しますね」
「本当は生徒会以外の人間に見せたらいけないんだけどね」
わざわざこの忙しい中、そんな資料を見せてくれるんだからこの人本当は優しいんじゃないかと錯覚してしまうくらい今の俺には会長が神様に見えた。
パソコンの画面に写った生徒手帳の写真のデータを確認すると確かに要先輩以外の2人の顔もすごく整った顔立ちをしている。
(紫さんに似てるような似てないような…)
似てると言われたら似てる気もするし、似てないと言われたら似てないような気もする。
いくら俺が写真を見て考えてみたところで無駄なのでとりあえず名前とクラスだけは控え、要先輩に聞いた後に直接話を聞いてみることにした。
「藤田に用事なら話取り付けてあげようか?」
「いや、もうこれで十分です。ありがとうございます」
これ以上貸しをつくるの怖い。ていうか申し訳ない。
一先ず会長の申し出は断り、これからの予定を立てる。
要先輩は学校に来ても、多分休んだ分の課題で当分は忙しいだろう。話す時間が作れるのか分からないが、体育祭が終わった後くらいであれば一段落しているだろうか。
体育祭の資料を眺めながらそんなことを考えていると会長が何かを思い出したように口を開く。
「そういえば要帰ってくるけど、2学期からどうするの?」
「ああ、その件なんですけど、要先輩半年学校休んでたし、復帰してすぐ勉強教わるのも悪いかなって…」
「確かに。課題とか出されるだろうしね」
「はい。なのでもうしばらくこの関係継続できません?」
体育祭もあるし、会長にとっても期間が伸びるのは悪くない筈。
そう考えての提案だったが、正直俺が役に立ってるのかよく分からない。割と手伝ってる方だと思うが、もし断られたらどうしよう。
「了解。こちらとしても体育祭あるし手伝ってくれると助かる」
その心配も杞憂に終わり、予想した通りの答えを返す会長。どうやら一応役には立っていたらしい。
心の底からホッとすると、ようやくソファーに座りノートパソコンの電源ボタンを押す。
やれとばかりに積み重なる書類に溜め息が出そうになったが、今日は色々手伝ってくれたのでいつもより気持ちは軽い。
マウスを握って、画面に向かうと俺の濃い夏休みは幕を閉じたのであった。
「してるわけないじゃん」
病院からの帰り道。
会長から丁度生徒会の仕事を手伝って欲しいというメッセージが来ていて俺は会長の部屋に着くなりそう尋ねたが、画面から目を離すことも無く即答されて思わず眉を顰める。
別に暗記してないことに関しては何も思わない。
でも本気で聞いた俺が可笑しいような反応をされたのがどうも納得出来なかった。
いつもの超人っぷりを自分自身で思い返してみて欲しい。
「何、誰か探してるの?」
「藤田って苗字の人探してて」
「藤田ね」
そんな不満げな心情を察したのか、珍しく少し協力する気のある様子の会長は軽やかにキーボードを叩く。
どうやら全校生徒のデータから探してくれている様子で後ろから覗いて見てみると予想通り藤田という苗字の人間はこの学園にもそこそこいる様で画面には数名の名前が並んでいる。
「…12人か」
「藤田とやらの下の名前は?」
「それが下の名前は分かんなくて…その中で顔が良い人が分かればいいな~…なんて…」
流石にそれは無理かと思ったが、会長は悩む素振りもなく親衛隊持ちの人物を探してリストアップしてくれた。
過去一でこの人の仕事手伝っててよかったと感じた瞬間である。まじで頼もしい。
「3人だね。その中の人の1人は要」
「3人…」
2人くらいには絞れるかと思ったが、そう甘くはない。
この学園無駄に顔良い人多いから仕方ないが、顔でも見たら分かるだろうかなんて思っている矢先、「生徒手帳の写真データならあるけど見る?」とフォルダを開きはじめる。
「会長…まじでいい仕事しますね」
「本当は生徒会以外の人間に見せたらいけないんだけどね」
わざわざこの忙しい中、そんな資料を見せてくれるんだからこの人本当は優しいんじゃないかと錯覚してしまうくらい今の俺には会長が神様に見えた。
パソコンの画面に写った生徒手帳の写真のデータを確認すると確かに要先輩以外の2人の顔もすごく整った顔立ちをしている。
(紫さんに似てるような似てないような…)
似てると言われたら似てる気もするし、似てないと言われたら似てないような気もする。
いくら俺が写真を見て考えてみたところで無駄なのでとりあえず名前とクラスだけは控え、要先輩に聞いた後に直接話を聞いてみることにした。
「藤田に用事なら話取り付けてあげようか?」
「いや、もうこれで十分です。ありがとうございます」
これ以上貸しをつくるの怖い。ていうか申し訳ない。
一先ず会長の申し出は断り、これからの予定を立てる。
要先輩は学校に来ても、多分休んだ分の課題で当分は忙しいだろう。話す時間が作れるのか分からないが、体育祭が終わった後くらいであれば一段落しているだろうか。
体育祭の資料を眺めながらそんなことを考えていると会長が何かを思い出したように口を開く。
「そういえば要帰ってくるけど、2学期からどうするの?」
「ああ、その件なんですけど、要先輩半年学校休んでたし、復帰してすぐ勉強教わるのも悪いかなって…」
「確かに。課題とか出されるだろうしね」
「はい。なのでもうしばらくこの関係継続できません?」
体育祭もあるし、会長にとっても期間が伸びるのは悪くない筈。
そう考えての提案だったが、正直俺が役に立ってるのかよく分からない。割と手伝ってる方だと思うが、もし断られたらどうしよう。
「了解。こちらとしても体育祭あるし手伝ってくれると助かる」
その心配も杞憂に終わり、予想した通りの答えを返す会長。どうやら一応役には立っていたらしい。
心の底からホッとすると、ようやくソファーに座りノートパソコンの電源ボタンを押す。
やれとばかりに積み重なる書類に溜め息が出そうになったが、今日は色々手伝ってくれたのでいつもより気持ちは軽い。
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