猫被りも程々に。

ぬい

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August

02

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「急に人増えてきたね」
「もうすぐ花火上がる時間ですから」
「もうそんな時間か」
「一応穴場あるんでそこ行きません?」

食べ物でも買ってゆっくり花火を見るのもいいかもしれない。というかゲーム系の屋台を会長にやらせたらダメだと分かったからそうしたい。

俺の提案にすんなり頷いた会長を連れて、家から少し歩いたところに小さな古い公園に向かう。
山の中を歩いたところにあり、人気がなく不気味な雰囲気から幽霊が出るなんて噂が流れている場所だ。

中三の時に夏祭りの時に肝試しか何かで訪れた時にめちゃくちゃ花火が綺麗に見えたのを思い出し、来てみたがやはり相変わらず不気味で人気がなかった。

「幽霊でも出そうだな」
「ガチで出るって噂もありますよ」
「へえ」

10分程山を登ると小さい頃の記憶のままの公園に辿り着く。
ぐるりと落ちないよう塀で隔てられている向こうは祭りの様子も見ることができ、キラキラと輝いていて綺麗だ。

「会長、幽霊とか平気なんですね」
「うん。見たことないし」
「苦手なものとかないんです?」

適当なベンチに屋台で買ったものを広げて特に中身のない会話を続ける。

やったことない射的をあそこまで上手に出来るんだからこの人に苦手なものなんてないのではという気持ちで聞いてみたが、聞いたところで素直に言うタイプにも見えない。

ちらりと様子を伺ってみると予想外にも結構真剣に考えてくれているらしい。会長が考え込むような仕草で黙り込んで暫く風の音だけが耳を撫でた。

「強いて言うなら女の人かな」
「…何で?」

これまた予想外。
思わず敬語も忘れて聞き返してしまう。俺の中学時代の女子手玉に取ってたじゃん。

「扱いにくくて面倒くさい。何考えてるか分かんないし」
「まあ、少しわかります」
「後、昔付き合ってた子につまんないって振られた」
「それは相手が悪かったんじゃないですか?」
「どうだろ。同じようなパターン3回くらい体験してるからな」

会長の話を聞いて、凌くんって本当に私の事好きなの!?と迫られてるところまで容易に想像が出来た。
振られたとは言っているが会長のことだから面倒臭くなって自分から振られる方向に持っていった可能性もあるな。

「てか会長が告白OKするのも珍しいですね。女の子そんなに可愛かったんです?」
「まあ、中学までは来る者拒まずなタイプだったし」
「へえー知らなかった」
「今は適当な理由つけて断ってるけど、あの時はこれもいい経験かなーなんて思ってて」

これまた意外な話でたこ焼きを摘んでいた手が止まる。
経験ナシというはないだろうと思っていたが、学園内では告白は全部断わっていてセフレも居ないクリーンなイメージだったから恋愛経験の差で言えば俺とそう変わらないと思っていた。少し裏切られた気分ではある。

この人もしかして思ったより経験豊富なのだろうか。
俺が知らないだけで過去すごい恋愛してたりする?というか現在進行形で実は好きな人いるとかそんなことあったりする?
どうしよう。色々な気になることが出てきた。

何を聞こうと悩んでいると「まあでも付き合うのは男の方が楽で良かったな」と会長が呟く。

「やっぱりそっちの経験もあるんですね」
「一応。結構長く続いた子もいるよ」

そこでまた疑問が増える。
男同士の場合、会長はどっちなんだろうと。
 
(久我先輩みたいにあんまり噂とか流れてこないからなー…)

久我先輩なら噂で男役しかしないと聞いたことある。でも会長に関してはあんまりそういう話聞かない。親衛隊の層も結構幅広いから抱かれたい人から抱きたい人まで多種多様。どちらかと言うと抱かれたい人が多いとは思うが。

久石副会長みたいに男前な顔立ちだったら何となく男役なのかなと思うけど、この人どちらかと言うと綺麗系というか美人系というか。うーん、ますますわからん。

「会長って上と下どっちですか?」
「…急にぶっこむな…」

考えることに限界を迎えた俺は思わず訊ねた。

希望としては男役であって欲しい。
何故ならある程度親しくなった男友達の喘ぐ姿を想像したくないから。ちなみにそれは理久に対しても当て嵌る。

「基本は上」
「…基本は…ってもしかして非処女゛、い゛って!」

非処女というワードが気に食わなかったらしく思い切り足を蹴られた。めちゃくちゃ痛い。

「中1の時先輩に頼まれたことはある。最後まではしなかったけど」
「…何でですか?」
「無理だったから」

男同士でそういうことをしたことがないので無理の意味が分からない。生理的にってことなのか、身体的にってことなのか。
そう思っていたのが顔に出ていたのか、会長はそのまま言葉を続けた。
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