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4章 MUSICA
44. 馬車に揺られて、話フカせて(RHYME MIX)
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◇◇◇
44. 馬車に揺られて、話フカせて
ケイジたちの宿から王宮までは、馬車で2時間ほどかかる。
普通に行っても午前中に着けるはずだが、1分1秒を惜しんでライムは早馬仕様のものを用意していた。
「―私の身の上話を訊いていただくのは、初めてお会いした日以来ですね」
小一時間、造作も無い雑談をしていたが、馬車を待つ間に貰っておいた朝食のパンを食べるでもなく、ライムの「大事な話」が始まる。
柔らかい表情ながら、声のトーンで話の重さが感じ取られる。
フロウを助けるための作戦か何かかと思ったがそうでもないようだ。
「(身の上話…?)そう言えばフロウとは同じ学校に通ってたことがあるって言ってたっけ、なんかそういう話…?」
お家騒動とか辛い過去とかいう様な暗い話題だとバツが悪いと感じ、ケイジは多少誤魔化そうとする。
「私は我が家系のある目的から、意図して人工的に作られた生命なのです。」
「ん?」
先ほどのポルトスの話のように、実に唐突でその意図が全くわからなかった。
「…。」
否、みんな家族計画で子供を作ろうと思って子作りするんだから、うっかり中出し以外は大体意図して人工的に作られてるんじゃないか?とケイジは思ったが、空気を読んでそのまま聞いた。
「―この国を創造したと言われ、今も守護神とされているのが“赤天赤眼竜”と呼ばれる竜です。
太古の竜族の中でも、守り鎮めることを司ったと言われています。」
そう言えば町のそこいらに竜の紋章が飾られているし、女神を名乗る浮浪者がそんなことを言われて否定されているのも聞いた。
「その竜族の血を引くのが現王家であり、古くその血を分けた分家が私のカッサネール家です。」
「…。んん?」
やっぱり意図が読めない。
祖先が人間じゃないってこと?と思ったが、そう言えば日本だって天皇陛下の祖先は神様だし、海外の国もそういうところはあるから、まあ建国神話なんてそんなものか、と思い直す。
「家中でも私は、意図して竜族との混血を濃くした、竜人種なんです。」
「…。はえー、すっごい」
「全然驚かないところを見ると、やはり― 気付いておられたのですね…ヒト種ではない、と」
全くそんなことは無かった。
「なんか、ほら、ゲームとか小説のこういう世界だと、お姫様とか出会う女の子がよくハーフエルフとかヴァンパイアとかってよくあるからさあ、なんとなく…」
気付いていたことにした。
「これまで黙っていて、すみませんでした」
「…いや、あの、なに、でもまあ、街中や試合会場にさあ、やたら耳が長い人とか、毛むくじゃらの人とか、もっとなんかヤバイっぽい人とかがいるなあと思ってはいたんだ。
そういう人間が本当にいる世界なんだなあ、ここは。」
「人間、ですか…」
「この世界のMCバトル見てると、本当に魔法なんじゃないかと思えてくるぜ!」
ライムは少しはにかむ様に目を細めて下を向く。
「以前お話したとおり、私の魔法実技能力は、同世代では随分低いんですが…それでも小さい頃から使える術がありまして」
「私の魔法属性は“天”、当家で一人、私だけが天の魔法“天啓文”が使えるんです。」
「天…レコード? …古いレコードを漁るディグみたいな?」
ラッパーは中古屋で古いレコード漁りに興じることが多い。
名盤を発掘する意味から“DIG”などと称される。
「つまり“未来を予知する術”です。
―とは言っても、ぼんやりとしたイメージだったり断片的な言葉のようなものなので、あまり正確ではないのですが…」
「(未来を先読みする技…ライムの先読み…“ライム読み”ってことか!)
そいつはまたヤバイ技だな…」
“ライム読み”はMCバトルでの技の一つで、相手の押韻を先読みし、自分も同時に発声することで、「その程度の押韻じゃバレバレだぞ」とマウントを取るものだ。
相手のターンに発語するので、ルール違反やマナー違反とされる場合もある。
つまり「ヤバイ技」だった。
「やはりこれもご存知でしたか、未来予知の術なんてほとんどの場合は信じていただけないもので…。」
当然、貴族の家系に代々伝わる秘術の類であり、あまりに荒唐無稽でリスクも高い力なので、全く知られていない。
それも、魔法の実技の不得意なライムが使うなどとは思われなかった。
しかし、カッサネール家はこの術が使える竜人種の子を定期的に作り育てており、この魔法を使うための能力の負担のせいで、ライムは他の魔法が苦手を苦手としている。
魔法というよりも、必ず当たる詳細不明のいい加減な占いのようだった。
「私がケイジさんに出会うということは、事前にその魔法でわかっておりました。
そしてそれが正しく強い人であることも」
その人相や詳細、正確な時間がわかっていたわけではないので、ライムは酒場を探し回っていた。
そしてケイジの戦いを見た瞬間、確信した。
会ったばかりのケイジに対し、ライムが全幅の信頼を寄せていたのは、そういう理由だった。
そして次がこの「大事な話」の本題だった。
「そして、これもわかっています。
その人物の登場と共に、この国に“大厄災”が起こるのだと。」
「え…俺のせいで…!?
なに、俺が試験賭博の大穴馬券を出しまくって荒らしみたいになってることとか!?」
「いいえ、もっと規模の大きい―天変地異のような大事のようです。
ただそれは、地震や洪水のような自然災害の兆候ではなく、人の手によって起こされると思われ…。
ケイジさんが現れたこのタイミングから考えても、間違いなくこの宮廷試験の日程にあわせた大規模な謀略…
ポルトスさんの仰っていた件が口火を切るならば、それが起こるのは正に“今日”でしょう。」
クーデターによる戦火が広がる、という今朝の話も十分ありえる。
が、ポルトスの話をよく理解していないケイジは、自分がどんなことをやらかしてしまうのかと気が気でない。
「(俺が町全体を焼き尽くすような火事の火をうっかり着けちゃうとか…!?
触っちゃいけない装置を触って王宮が爆発しちゃうとか…!?)」
その真剣なケイジの顔を見ながら、ライムは一度目を閉じ、ゆっくり開ける。
ただの想像のようでしかない、その己の魔法が導き出す結果に、ライムは確信を持って告げる。
「そしてそれを止めるのが―
ケイジさん、あなたなのだと。」
「えええ…??????」
高速馬車が石を跳ねてガクンと揺れる。
◇◇◇
(第45話に続く)
44. 馬車に揺られて、話フカせて
ケイジたちの宿から王宮までは、馬車で2時間ほどかかる。
普通に行っても午前中に着けるはずだが、1分1秒を惜しんでライムは早馬仕様のものを用意していた。
「―私の身の上話を訊いていただくのは、初めてお会いした日以来ですね」
小一時間、造作も無い雑談をしていたが、馬車を待つ間に貰っておいた朝食のパンを食べるでもなく、ライムの「大事な話」が始まる。
柔らかい表情ながら、声のトーンで話の重さが感じ取られる。
フロウを助けるための作戦か何かかと思ったがそうでもないようだ。
「(身の上話…?)そう言えばフロウとは同じ学校に通ってたことがあるって言ってたっけ、なんかそういう話…?」
お家騒動とか辛い過去とかいう様な暗い話題だとバツが悪いと感じ、ケイジは多少誤魔化そうとする。
「私は我が家系のある目的から、意図して人工的に作られた生命なのです。」
「ん?」
先ほどのポルトスの話のように、実に唐突でその意図が全くわからなかった。
「…。」
否、みんな家族計画で子供を作ろうと思って子作りするんだから、うっかり中出し以外は大体意図して人工的に作られてるんじゃないか?とケイジは思ったが、空気を読んでそのまま聞いた。
「―この国を創造したと言われ、今も守護神とされているのが“赤天赤眼竜”と呼ばれる竜です。
太古の竜族の中でも、守り鎮めることを司ったと言われています。」
そう言えば町のそこいらに竜の紋章が飾られているし、女神を名乗る浮浪者がそんなことを言われて否定されているのも聞いた。
「その竜族の血を引くのが現王家であり、古くその血を分けた分家が私のカッサネール家です。」
「…。んん?」
やっぱり意図が読めない。
祖先が人間じゃないってこと?と思ったが、そう言えば日本だって天皇陛下の祖先は神様だし、海外の国もそういうところはあるから、まあ建国神話なんてそんなものか、と思い直す。
「家中でも私は、意図して竜族との混血を濃くした、竜人種なんです。」
「…。はえー、すっごい」
「全然驚かないところを見ると、やはり― 気付いておられたのですね…ヒト種ではない、と」
全くそんなことは無かった。
「なんか、ほら、ゲームとか小説のこういう世界だと、お姫様とか出会う女の子がよくハーフエルフとかヴァンパイアとかってよくあるからさあ、なんとなく…」
気付いていたことにした。
「これまで黙っていて、すみませんでした」
「…いや、あの、なに、でもまあ、街中や試合会場にさあ、やたら耳が長い人とか、毛むくじゃらの人とか、もっとなんかヤバイっぽい人とかがいるなあと思ってはいたんだ。
そういう人間が本当にいる世界なんだなあ、ここは。」
「人間、ですか…」
「この世界のMCバトル見てると、本当に魔法なんじゃないかと思えてくるぜ!」
ライムは少しはにかむ様に目を細めて下を向く。
「以前お話したとおり、私の魔法実技能力は、同世代では随分低いんですが…それでも小さい頃から使える術がありまして」
「私の魔法属性は“天”、当家で一人、私だけが天の魔法“天啓文”が使えるんです。」
「天…レコード? …古いレコードを漁るディグみたいな?」
ラッパーは中古屋で古いレコード漁りに興じることが多い。
名盤を発掘する意味から“DIG”などと称される。
「つまり“未来を予知する術”です。
―とは言っても、ぼんやりとしたイメージだったり断片的な言葉のようなものなので、あまり正確ではないのですが…」
「(未来を先読みする技…ライムの先読み…“ライム読み”ってことか!)
そいつはまたヤバイ技だな…」
“ライム読み”はMCバトルでの技の一つで、相手の押韻を先読みし、自分も同時に発声することで、「その程度の押韻じゃバレバレだぞ」とマウントを取るものだ。
相手のターンに発語するので、ルール違反やマナー違反とされる場合もある。
つまり「ヤバイ技」だった。
「やはりこれもご存知でしたか、未来予知の術なんてほとんどの場合は信じていただけないもので…。」
当然、貴族の家系に代々伝わる秘術の類であり、あまりに荒唐無稽でリスクも高い力なので、全く知られていない。
それも、魔法の実技の不得意なライムが使うなどとは思われなかった。
しかし、カッサネール家はこの術が使える竜人種の子を定期的に作り育てており、この魔法を使うための能力の負担のせいで、ライムは他の魔法が苦手を苦手としている。
魔法というよりも、必ず当たる詳細不明のいい加減な占いのようだった。
「私がケイジさんに出会うということは、事前にその魔法でわかっておりました。
そしてそれが正しく強い人であることも」
その人相や詳細、正確な時間がわかっていたわけではないので、ライムは酒場を探し回っていた。
そしてケイジの戦いを見た瞬間、確信した。
会ったばかりのケイジに対し、ライムが全幅の信頼を寄せていたのは、そういう理由だった。
そして次がこの「大事な話」の本題だった。
「そして、これもわかっています。
その人物の登場と共に、この国に“大厄災”が起こるのだと。」
「え…俺のせいで…!?
なに、俺が試験賭博の大穴馬券を出しまくって荒らしみたいになってることとか!?」
「いいえ、もっと規模の大きい―天変地異のような大事のようです。
ただそれは、地震や洪水のような自然災害の兆候ではなく、人の手によって起こされると思われ…。
ケイジさんが現れたこのタイミングから考えても、間違いなくこの宮廷試験の日程にあわせた大規模な謀略…
ポルトスさんの仰っていた件が口火を切るならば、それが起こるのは正に“今日”でしょう。」
クーデターによる戦火が広がる、という今朝の話も十分ありえる。
が、ポルトスの話をよく理解していないケイジは、自分がどんなことをやらかしてしまうのかと気が気でない。
「(俺が町全体を焼き尽くすような火事の火をうっかり着けちゃうとか…!?
触っちゃいけない装置を触って王宮が爆発しちゃうとか…!?)」
その真剣なケイジの顔を見ながら、ライムは一度目を閉じ、ゆっくり開ける。
ただの想像のようでしかない、その己の魔法が導き出す結果に、ライムは確信を持って告げる。
「そしてそれを止めるのが―
ケイジさん、あなたなのだと。」
「えええ…??????」
高速馬車が石を跳ねてガクンと揺れる。
◇◇◇
(第45話に続く)
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